最強公女は冷酷皇子をぶっ飛ばしたい

出井啓

第1話 プロローグ

 アハマヴァーラ帝国の東端、リーハス公国。海、山、森、湖、渓谷、自然豊かな国。

 その自然は隣国の侵略から守る盾であり、脅威となる魔物の棲家すみかでもある。

 今日も屈強な男たちが魔物と戦っていた。

 

「そっちに行ったぞ!」


「よっしゃあ! 任せろ!」


「いいね! 三角筋!」


「キレてる!」


「その腹筋、オーガも逃げ出すよ!」


 町に襲ってきたのはオークの群れ。二メートルを超す巨体から繰り出される拳は強力だ。

 でも、兵士たちは剣や斧を振り回し声を掛け合いながら連携して倒していく。

 

「洞窟に行くつもりか!」


「逃がすな! 回り込め!」


「上腕二頭筋、ベーレンベルク山!」


「盛り上がってるよ!」


 数が減って逃げ出そうとするオークを囲みこむ。

 オークは残虐ざんぎゃくで人を襲う上に、その膂力りょりょくで町を守る壁を壊すこともある。

 逃がすと危険な魔物だった。


 そして、とうとうオークを倒しきり勝鬨かちどきをあげる。

 その瞬間、突風が吹いた。


「ワイバーンの群れだ!」


「逃げろ!」


「早くこっちに来い!」


 ワイバーンは強力な爪とくちばしを持ち、風を操る魔法を使う。

 その上、空中では手出しができず硬い鱗は生半可な攻撃を弾くため、魔法使いが必要だ。

 けれど、魔法使いの数は少なく、この町には一人もいない。

 

 慌ただしくなる戦場。

 ワイバーンはオーク肉が好きだが、オークは洞窟で暮らす。

 そのためワイバーンはこういうときに肉を狙ってやって来るのだ。


「これじゃあ全部食われちまう」


「今から魔法使いを呼んでも間に合わねぇか」


 ワイバーン相手じゃ分が悪い。

 食料が取られたとしても、仲間を犠牲にするよりはいい。

 町を守る壁に建てられた小さな要塞に立てこもりワイバーンが降りてくるのを見守る。

 そんな諦めムードが漂っていた時、高らかな声が響いた。


「オークの肉を取るなんて外道な振る舞い! たとえ村人が許そうと、私は絶対に許さない! この筋肉の糧にしてくれる!」


 外に出て見ると、要塞の上に立つ一人の女性。

 第一公女、アネルマ。

 公国の君主であり最強の剣士、公主アレクサンテリと救国の英雄にして最強の魔法使い、公妃ミルヴァの娘。

 両親の血をしっかりと受け継いだ娘は公国騎士団最強と名高い。


「公女様だ!」


「公女様が来たぞ!」


「今日は祭りだ!」


 アネルマを見上げて盛り上がる兵士たち。

 アネルマは剣を引き抜くと壁から飛んだ。

 一瞬でワイバーンに近づくと、その首を一刀両断。

 舞い踊るようにワイバーンを斬り倒していく。


「さすが公女様だ!」


「後背筋ミノタウロス!」


「仕上がってますね!」


「筋肉ドラゴン級!」


 次々にアネルマを褒める声が飛び交う。

 そんな中、アネルマは全てのワイバーンを倒しきり叫んだ。


「さぁ気合いを入れろ! 今日は肉祭りだ!」


 そして、力こぶを見せるポーズをとった。


「うぉおおおおおおお!」


「公女様ー!」


「よっ! ハルティア山!」


「いい血管出てますよ!」


 こうして今日も一つの村で祭りが始まるのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る