第2話

 その日も、サークル内での三人の小説を読み合っていた。誰が書いたものかは最後に発表することになっている。

 最初の二人のは、いろんな視点での感想や意見が活発に交わされた。文章の構成が秀逸だとか、伏線の回収の仕方だとか参考に出来そうなものもあった。


 最後の一人の小説に関しては、感想の発言がなかなか出なかった。なぜなら文章が抽象的で難しいから。何を言わんとしているのか、みんな理解に苦しんでいた。

「佐藤さん、どう思う?」

 4年の部長に指名された私は、正直な感想を発表した。

「悲しい事があったんだなと思いました。今はまだその感情に支配されている感じ、でしょうか」

 みんなが私に注目していたから、最後は尻すぼみになってしまった。

 あまり同意は得られなかったけれど、私の素直な感想だ。


「あれ、作者名書いてないや」

 結局、誰が書いた文章なのかは分からずじまいだった。

 その後すぐに解散となり、同じ1年の子たちと部屋を出た。

 私はバスで通学しているために、バス停へ向かっていたが、スマホがないことに気が付いた。

「スマホ忘れたみたい、探しに行ってくるから先行ってて」

 サークルに行く前にはあったはずだから、部屋で落としたのかな。一応廊下なんかもキョロキョロ見ながらさっきまでいた部屋へ戻る。

 まだ電気は点いていて、誰かがいるみたいだ。



「あっ」

 そこにいたのが3年の氷室先輩だった。

 綺麗な人、それが私の第一印象。

 下級生と話をする事は皆無で、3年生同士でもほんの少しの会話で終わっているようだった。

 孤高の人、という言葉がピッタリだと思う。

 今も一人で、何かを熱心に見ている。

 その横顔に見惚れ、気付いたらすぐ近くまで来ていた。

 手元には、さっき私が感想を発言した小説があった。もしかしたら氷室先輩が書いたもの?

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