第3話 ご機嫌取り

ビーと試合を終える音が鳴った。


十対十二


私たちのチームが負けた。


運動神経が良いりりかと私、それなりにできるかりんと晴美はコート内を駆け巡って、良い具合にボールを回していた。


しかし、相手が全員運動部で相手が悪かった上に、宮崎さんがとことんへまをした。

私たちがパスしたボールを取りこぼしたり、ボールを相手チームにパスしたり、自分のコートがよくわかっていないのか、せっかく私たちが上げたボールを反対方向に投げたりしていた。


一、二回なら「どんまい」で済むが、何回もやられるとたまらない。


「まじでないわ。あいつ」当然のごとくりりかは怒っている。


「まぁ、ちょっとやらかしすぎだよね」私は言った。


「こっちは宮崎さんが取りやすいように優しく投げてんのに、取りこぼしてばっかだしね」

りりかの髪の毛をまねた晴美の髪は汗でペタンコになっていた。まるで、今さっきシャワーを浴びてきたみたいだ。


「相手方向にボール投げるとか、どんな脳みそしてんの。頭悪すぎでしょ」

りりかは怒りを抑えられないのか、そう吐き捨てた。りりかの髪の毛は運動する前と変わらずふんわりと美しかった。


「それに、なんか暗いし」晴美が乗っかる。


「顔面やばいし」私も続いて言った。

宮崎さんの幽霊を連想させる青白い顔は、顔立ちは悪くないのに、どうしてか、何も話さなくても人に不快感を与える。


「宮崎さんってさちょっと馬に似てない?」ひそひそとかりんが言った。


皆で遠くで審判をしている宮崎さんの方を見、「ウケル」「ヤバー」と四人でぎゃははと笑った。


「那賀さんとか宮崎さんって人生楽しいのかな?」りりかが言う。


「うわっ、私二人と入れ替わるのとかぜったい無理」かりんはさも、恐ろしいかというように肩を大げさに震わせた。


「いや、それは皆思ってるでしょ」りりかは意地の悪そうに唇の端っこを持ち上げる。


「どっちかに生まれ変わったら、私死ぬわ」

かりんはトレードマークの天然パーマを気にするかのように手で何度も髪の毛を梳いている。色素の薄いかりんの髪の毛が光に当たって金色に見えた。


「いや、それなー」晴美は、床の剥げた白いラインをクリームパンのような肉付きの良い手で弄んでいた。


「まー、カワイソウな人じゃん?」私はそう言いながら巨漢を重そうにひきずり、ボールを追い回している那賀さんを見た。汚い。少しでも痩せて、化粧を覚えればいいのにと思う。


「次はさ、うちらメインでボール回そうよ」りりかは名案かのように言った。「わたしとゆあが攻めで、かりんと晴美が守りって感じで」


「そーだね。その方がいいかもね」

「おっけー」

「りょうかーい」


私を含む三人のイエスが飛ぶ。りりか様に逆らおうなんて人はいない。


第二回戦のブザーが鳴り、私たちは次の試合のために立ちあがった。

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