異世界旅行記 ~勇者と魔王が僕の専属従者~

美堂 蓮

旅日誌の始まり ①


「ほんと、なんでこんな山奥に飛ばすかなぁ。もっと町の近くにしなさいよ」

「仕方ないだろ。魔王城からこんな遠くの人間の町に飛ばすだけで大変なんだから」

「ほんと、人間って使えないわね」

「なんだと!!」


目の前の二人がずっと喧嘩し続けている。

そろそろ喧嘩やめてくれないかなぁ。

二人の喧嘩で周りの山が二つほど吹き飛んでいるし……普通に危ない。

あっ、もう一つ吹き飛んだ。木々なんて木っ端みじんになっている。


目の前で剣を構えている男は、この世界の勇者をしているロイ。

そして、杖を構えている女は、この世界の魔王をしているアザレア。


男の方はバトラー(執事)の服を着ていて、女の方はメイドの服を着ている。

つまり傍から見れば、剣を構えた執事と杖を構えたメイドが大喧嘩をしているというカオスな状況だ。


「ヴァル。あんたもこの男に何か言ってやってよ!あんたがマスターでしょ!!」

「ヴァル、俺の意見もわかるだろ?頼むからこの女に何か言ってやってくれよ、マスター!」


いや、頼むから僕に話を振るんじゃないよ。面倒なのに。

ただ二人が暴れてくれたおかげで、見通しが良くなって町が見える。

とりあえずこの場は逃げるとしよう。


「二人とも、町が見えたよ。さっさと飯にしよう。僕はお腹減ったから」


そう言って、僕は逃げるように走り出す。とりあえずこの場を離れる。

後ろから何やら声が聞こえた気がするが、面倒なので無視して。


町に行くまでの間、僕がどうしてこうなったのか軽く振り返ることにした。



・・・・・・


僕の本名……はさておき、みんなからはヴァルと呼ばれている。

まぁ、あだ名みたいなものだ。ちなみに歳は十九。

性格は面倒くさがり。あまり勉強とかはできないタイプ。勉強とか面倒だし。


で、今回の一件は実家の蔵あった四角い箱が原因だ。

蔵の掃除を頼まれて、たまたま書物があったから中身は何かなぁと思ってふと開いたところ光に包まれて……なぜか異世界に飛ばされた。

飛ばされたことも大変なのかもしれないが、今となっては飛ばされた後の方がかなり大変だった。



転移させられた先では、目の前で男と女の二人が盛大に喧嘩していた。

男の方は冒険者のような格好で剣を持っていて、女の方は華やかなドレスみたいな格好で杖を持っていた。

お互いに剣と魔法で争っている。


ただ、転移してきた僕の方をみて、


「こんな隠し玉を準備していたとは……とりあえずこいつからぶった切ってやる!」

「最後の最後に仲間を召喚するとは……こいつごとまとめて魔法でぶっ飛ばしてやるわ!」


とかなんとか叫んで、二人とも僕を攻撃しに来た。

いやいや、状況を誰か説明してくれ。

俺は何もわかっちゃいないんだから……

どうしてこんなに血気盛んなのかわからないけど、痛いのは嫌だなぁ。


なんか、ふつふつとイライラがたまってくる。

そもそも、転移した先でまったく何もしてないのに攻撃されるなんて癪だ。


そしてよく二人を見てみると、さっきまではかなり早く走ってきていたはずなのに、なぜか動きがかなりゆっくりに見える。

うーん、武器もないからこれしかないか。


僕は握りこぶしを作って、攻撃しに来た両方の顔面を思いっきりぶん殴ってやった。

二人を殴った瞬間、動きが元に戻ったのか一気に早くなり、二人とも壁まで吹き飛んだ。

よく見ると二人とも意識を失っていて……

いや、僕には人を吹き飛ばすほどの筋力はないはずなんだけど、どうして吹き飛んだろう……


二人も殴った上に意識を失っているのは忍びなかったから二人が起きるまで介抱した。

数十分後に二人とも気が付いたので、とりあえず謝る。


「僕はヴァル。まずは二人とも殴って本当にすまなかった……痛むところはないか?」


そしたら、男の方も女の方も返事をしてくれた。


「あぁ、大丈夫だ。俺の名前はロイ。この世界で勇者と呼ばれている」

「私も大丈夫よ。私の名前はアザレア。この世界で魔王をやっているわ」


二人とも距離を少し取って、お互いを威嚇しながら話すからちょっと怖い。

そもそも、なんで勇者と魔王が目の前にいるんだ?


「で、なんで二人は争っていたの?」

「そりゃここが魔王城で、目の前に魔族の長である魔王が居れば、戦うのは普通だろ」

「そうよ。勇者を叩きのめせば、平和になるし」


なるほど。僕が転移した先は勇者と魔王の最終決戦だったわけだ。

とはいえ、二人の争いには、これっぽっちも興味がない。勝手にやってくれ。


「わかった。あとは二人とも続きをやってね。僕は……とりあえずこの世界をゆっくりと見て回ろうと思うから」

「まて!それは困る。俺は戦いで負けたんだ。そのまま勝ち逃げは許さん」

「そうよ!!勝負もしらけちゃったし、そのままで帰れるとは思わないでよね」


うわ……これ、何か巻き込まれてない?

ここはしれっと、煙に巻こう。


「まぁ、任せるわ。僕はまったりするために一旦近くの人間の町に行くことにするので。魔族の町はいけなさそうだし……じゃあね」


僕は逃げようとする……が、


「それなら、俺が連れて行くよ!」

「私もついていくわ!」


いや、意味が分からない。どうしてそうなる。

お前らはまず戦えよ、魔王と勇者だろ。


「いや、なんでついてくるんだ!おかしいだろ!!」

「俺の生涯最後の勝負だったはずなのに……しらけちまったんだよ!!いったん仕切りなおさせてくれ」

「それは私のセリフよ!このまま戦うとかちょっと無理だわ」


うーん、悔しいが勇者と魔王の言うことは一理ある。

ゲームでラスボス戦までたどり着いて最終戦と思って戦っていたのに、見たことも会ったこともないキャラに急に殴られて戦いを止められたら、さすがにしらける。

そう思うと、さすがに理由もなく逃げることができないなぁ……

あっ、いい案が思いついた。


「なら、君たちは僕に負けたし、僕の旅の手助けをしてもらおうか。ロイはバトラーで、アザレアはメイドね。それが無理ならこの話はあきらめてくれ」


さすがにプライドが高そうな勇者も魔王も人の下に付くのは嫌なはず。

これでどうにか逃げられそうだ。

お腹減ったから、さっさとご飯食べに行こー。

異世界のご飯楽しみだなぁ。


「わかった。おいくそ魔王、俺にバトラーの服をもってこい」

「私にはアザレアって名前があるの。次、名前で呼ばなかったら燃やすわよ。あと、服はあるから取りに来なさい……あとヴァル、あなたは逃げたら承知しないからね」


そう言って、ロイとアザレアは二人でどっかに言った。


ん?なんでそうなる。

逃げてやろうと思ったものの、アザレアの最後のにらみは本気だった。

おとなしく待ってないとひどいことになりそうなので、あきらめた。


そして数分後、二人が現れる。

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