第5話 雷電国家 武蔵ノ国編 情報

エリルは大通りに出ると思いがけない景色が彼女の前に現れた。大通りを行き交っている人たちが全員清潔で綺麗な服装で歩いていたのだ。このことはにとっては至極当然のことだった。しかし、彼女は劣悪な環境である労働階級の出身。普通のことが普通ではなかった。彼女はこの光景に感動し、テンションが上がり、さっきまでの不安が少しずつではあるが減少していった。


「はえ~。マジですか。これが雷電国家。なんかめちゃくちゃきれいですね。道端にごみ一つ落ちてませんしネズミもいませんね。私の国とは大違いですね。あ~、私もこの国に住みたいなあ」


などと声にも出てしまうほど彼女は驚いていた。その後彼女は本来の目的を思い出し、感動に浸るのを止めて、情報を探しに行った。しかし、


「はて、私はどこに行ったらいいんでしょうか。テリルからは何にも情報をもらっていませんし、地図見ても、ここがどこなのかさえわかりませんよ」


そう、彼女は方向音痴だったのだ!!!! 究極の致命傷、方向音痴。異国の地、そして単独行動での方向音痴はもはや自ら死にに行っているようなものである!!!! 

彼女は一度隅々まで地図を見るために机といすが揃っているところを探すと喫茶店と書かれた店を見つけた。彼女は「ラッキー」と言いながらカランカランという音を鳴らしながらドアを開け、席に着いた。お金はエリルから渡されていて、現金で渡された値段はおよそ100万。カードで渡された代金はおよそ5000万。


何かあった時のための有事のお金のため余分に渡されていた。そのお金で彼女は何かを注文しようとしたが、あまりの値段の高さに思わず「たっか!!」と声に出して言ってしまった。彼女はちょっと恥ずかしくなりメニュー表で顔を隠した。しかし、その値段は至って平常な値段であり彼女の価格基準がおかしかっただけである。しかし、劣悪な環境で世間一般の価格基準を知れ徒言うのも酷な話である。彼女は長い間考え込んだ後、店員に震え声で震えながらコーヒーに指をさし、注文しその数分後にストローとミルクと砂糖が付属した状態で来た。彼女は安堵すると、エリルからもらった地図を机一面に広げて手を顎に当てながら考え始めた。しかし、見ただけでは何もわからず困惑していた為、彼女は自分の座席のお隣に座っていた優しそうなおばあさんに「すみません。この地図についてわかりやすく教えてくれませんか」と言うと、おばあさんは優しく「えぇ。いいわよ」と人なれした様子で答えた。


地図には様々な重要地点に関する情報がちりばめられておりぁばあさん曰く東側には役所があり、武蔵ノ国の行政、司法、財政、治安を担当しているところがあった。その周りには裁判所や税務署であったり各役所が集まっている地区であった。


西側には商業地域があり、エリルが今いるところがここであった。ありとあらゆる娯楽とサービス施設が集まっており、この国独自のサービス施設で温泉というものがあった。おばあさんは「あなたはこの国に旅行に来たのかしら。なら、温泉に入っておいた方がいいわよ。損はしないはずよ」と優しく教えてくれた。


北側にはビル群が存在しており様々な会社が揃っていた。個々のエリアが最も忙しく24時間体制で動いている会社がほとんどであり眠らないエリアと言われている。


南側には住宅地区があり、名前の通り家がたくさん並んでおり、ビルエリアと一軒家エリアで分かれていた。


このエリアで分かれているのが武蔵ノ国。ほかの国でも同じような構造がとられているが、雷電の働き場所でもある国会議事堂が存在する雷電国家の中央部分の国、摂津ノ国。この国は武蔵ノ国含めた3つの地域に囲まれており、最も広い地域である。摂津ノ国は最も栄えていて、雷電国家の行く末を決める会議場がある。基本的には雷電はそこにいて、3か月に一回摂津ノ国以外の地域を1週間かけて見て回るという。その時期がちょうど明日から始まり、初めに武蔵ノ国に訪れるという、特大イベントが迫っていた。


雷電国家の民の殆どは過激派を除いて雷電を厚く信頼している。それ故、雷電の行動はとても大きな意味を持っていた。


エリルはそのことを聞くと、おばあさんに「ありがとうございました!!!」と深々とお辞儀をして、机の上にあった飲みかけのコーヒーを一気飲みして、店を急いで出た。おばあさんはその慌て振りを見て、昔の自分を思い出し、良い余韻に浸りながら温かいコーヒーをゆっくりと飲み始めた。その時、店のドアが開き黒い服に身を包んだ男たちが3名ほど入ってくるや否や、おばあさんに近づいた。威圧感がとんでもなく、一触触発の雰囲気がそこには漂っていたが、黒服の男が口を開くと、


「探しましたよ、防衛大臣! 会議が後少しで始まります! 急いで車に乗ってください!」


「まぁ、待ちなさんな。私は今とてもいい気分なのだよ。あの娘が忘れかけていた昔の私を思い出させてくれたからね」


「はぁ? そんなことよりチャッチャとコーヒー飲んで行きますよ!」


黒服たちはおばあさんを半ば担いだ状態で店を後にし、「失礼しましたあああ!!!」と言い残し、嵐のように去っていった。



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