こうして、恋バナは始まった ①

 005



「という事で、恋バナパートだよ~」

「よし、頑張るぞ」



 カレシどころか、恋もしていないハズの二人の女子高生が盛り上がっている姿はそれなりに滑稽なモノだった。次に入る部員は、是非ともポンコツ成分控え目でお願いしたい。



「さて、副部長! 本日の議題をお願いします! 記念すべき第一回目ですよ!」

「なに? 俺が決めるのか?」

「企画とアドバイザーも兼任してるんだから当たり前だよ。因みに、キリちゃんは書記係ね」

「了解した!」



 一番面倒な事を押し付けられてしまった気がするが、まぁ仕方ない。初回なんだし、当たり障りのない議題を上げておけばいいだろう。



「じゃあ、『恋人に求める条件』」

「おぉ、なんかそれっぽい議題だな」

「それじゃ、お手元のフリップに恋人へ求める条件を書いてね。シンキングタイムは一分ということで!」



 なるほど、デスクの小道具はこの為に用意されていたのか。流石元アイドル、バラエティのやり方を心得ている。

 無論、これが高校生の恋バナのやり方として正しいのかは甚だ疑問ではあるが。



 切羽が、さっき届いた大きなホワイトボードにやたらと達筆な文字で議題を書いて席につくと、二人は真剣な顔をしてマジックを持ってフリップに目を向けた。



 ……さて。



 改めて考えてみると、恋人が欲しいと思ってないから恋人に求める条件というのもよく分からないな。

 ただ、喧嘩した時にちゃんと話し合って問題を解決出来る人がいいと思っているから、『議論出来る賢さ』というのが俺の求める条件と言えるだろうか。



 そういうことにしておこう。



「はい、一分経ちました。せーので開きましょう。せーの!」



 バン!というセルフ擬音で開かれたフリップには、ラブが『♡面白い人 ♡頼れる人 ♡ラブリを一番大切にしてくれる人』、切羽が『・守っても文句の言わない男 ・たくさん甘えても引かない男』と書かれていた。



 なるほど。



「守っても文句を言わないってのはどういう意味だ?」

「そのままの意味だよ。守られてプライドの傷付く男は多い、門下生の女性からそんな相談を受けたことがある」



 実体験じゃないんかい。



「あ〜、それ分かる! よかれと思って助けてあげると、かわいくない事言う男って多いよね!」

「そうなのか。それでは、やはり障害になるのだろうな」



 仮に切羽の強さが噂通りなら、常識外れ過ぎて男でも気にならんとは思うけどな。



「たくさん甘えても引かない男、これは?」

「こ、こ、これは、その、パッと思いついてしまってつい書いてしまっただけでだな……」

「コイケンで恥ずかしがるのはご法度だよ、キリちゃん」



 それなら、俺はとっくに破門を食らっていてもおかしくないだろうに。



「その、今でこそ負けることも無くなったが、以前はそれなりに辛い夜を過ごしたこともあってな。そんな時、甘えさせてくれる男がいればもっと楽だったかもしれない、なんて」



 『負けることがなくなった』の部分に突っ込まなかった俺を誰か褒めてくれ。



「それめっちゃ分かる! 本当に辛い時って女同士じゃどうしても寄り掛かれないもんね!」



 そういうモノだろうか。俺は割と夕に寄り掛かっている時があるから、男と女じゃ友達の感覚が違うのかもな。



「それに、私はきっと甘え下手だから、リードしてくれると、う、嬉しいかもしれない」

「キャー! それチョー分かる!」



 お前、さっきから切羽のこと分かり過ぎだろ。アカシックレコードかよ。



「分かってくれるか!」

「うん! 甘えさせるのが上手な男ってめっちゃいいと思う!」



 それを高校生に求めるのは酷な話だとは思うけどな。この時点じゃ大抵は部活と勉強だけで、人生経験に大きな差なんてないと思うし。



「虎生は、どう思う?」



 二人がこんなに真剣に話し合っているのに、達観して適当こくのは失礼だろう。

 俺は、さっき思った言葉を会話用にアレンジして彼女たちへ伝えた。



「な、なるほど。確かに、虎生の意見には説得力がある」

「だから、切羽は年上の男と関わる機会を設けるといいかもしれない。それなら、人生経験が豊富な奴と出会える確率も自然と上がるだろ」

「……驚いた。まるで、見てきたかのように冷静な分析だな」



 ただの一般論な気もするが、褒めてくれるならありがたく受け取っておこう。



「女の子だけだと盛り上がるだけ盛り上がって空中分解しちゃうし、やっぱ男の子がいると内容が締まっていいかも!」



 しかし、それは場の空気を壊しかねない諸刃の剣とも言える。この時、俺は恋バナの雰囲気を壊さないように要所要所で口を挟むだけの役に徹することに決めた。



 まぁ、MCみたいなモノだな。



「流石、だ。恋人が欲しくなったら参考にする」

「そ、その称号は恥ずかしいからやめてくれ」



 今更だけど、スーパーアドバイザーって何だよ。まったく。



「落ち着いたところで、次はあたしだよ!」

「私が言うのも何だけど、こんなに欲張っていいモノなのか?」

「いいんだよ! だって女の子だから!」



 納得いかないが、否定すると男として負ける気がした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る