傲慢な男らと意固地な女

迷子のハッチ

ビチェンパスト国編

プロローグ

第0話 プロローグ

 魔術師、異世界をソロで往くⅢ 過去編 第2部 傲慢ごうまんな男らと意固地いこじな女 始まります。

 更新は、「小さなエルフの子 マーヤ」と連動して投稿する予定ですので、週2回月、木を予定しています。

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 首輪が神域の防御に弾かれ神域を開けなくなってすでに5日が過ぎた。


 ラーファはマーヤが心配だ。

 闇魔術師に狙われていると耳にした、大丈夫だろうか。


 ラーファは海賊と名乗った男達から敬意をもって扱われている。


 ベロシニア子爵に捕まった場所は、王都ウルーシュから大河ラニを下り、貿易港ウラーシュコの町中だった。


 油断していた訳では無いと思いたい。

 闇魔術師がベロシニア子爵と組んでいるとは思わなかった。

 しかも、首輪を手に入れているなど考えてもいなかった。


 散策している時に道の向こう側から声を掛けられた。

 「いやぁー、イスラーファ殿、お久しぶりですな。」


 ラーファがベロシニア子爵から声を掛けられ戸惑った、危機察知は黄色だった。

 足を止めた一瞬で事は終わった。


 通行人に成りすましたベロシニア子爵の家人がラーファの後ろから逃げられない様に拘束した。

 横から近寄って来た男が、首輪を後ろからラーファにめた。

 どちらも危機察知では反応の無い男達だった。


 首輪をめられ魔術での抵抗が出来なければ、ラーファはか弱い女でしかない。

 そのままベロシニア子爵の馬車に乗せられ、貿易港ウラーシュコを離れた。

 ベロシニア子爵は北の大公領へ向かうと思っていたのに、町中を南へと続く道を進んだ。


 二人っきりで馬車の中にいると、8年前の出来事を思い出す。

 あの時も二人っきりで馬車に乗っていた、しばられさるぐつわを口にされ放り投げられた状態を、乗っていると言えればだけど。


 「イスラーファ、お前を手に入れるためどれだけ苦労したか、分かるまい。」

 「一つ良い事を教えてやろう、私はお前を手に入れるために闇魔術師と手を組んだ、対価が何か分かるかね?」

 「お前の娘マーヤニラエルを捕まえる手助けをすることさ。」


 恐らくラーファの顔色が変わったのが見えたのだろう、ベロシニアが嬉しそうに笑った。


 「ふふふ、しんぱいかな?」

 「だが今は何も言わないよ、散々人を愚弄ぐろうしてくれたあの山頂の日を私は忘れていないからね。」

 「娘の身に何が起こるか、色々想像していると良いね、ふふふ、あはははは!」


 その後は、ベロシニア子爵は無言のままラーファを見るのが嬉しいとでも言う様に見るだけだ。

 ラーファから話しかけても相手は喜ぶだけだろう、無言で馬車は進んで行った。


 ベロシニア子爵は忙しい様だ、捕まえたラーファを座らせたまま、ウラーシュコの市街地へ出ると馬車を下りて馬でどこかへ行ってしまった。

 その後、ベロシニア子爵の家人たちに守られて馬車は街道を南へと海沿いに進んで行った。

 幾つかの街道脇の町を過ぎ、日も暮れかかった時、次の襲撃が起こった。


 海賊団と名乗った集団はベロシニア子爵の家人を奇襲した後は、逃げた者を追わずに幌を掛けた荷馬車を引いて来るとラーファを乗せた。


 ラーファの世話をする女が二人、常にどちらかが身近に控え決して目を話す事は無かった。

 話しかけても「わからない」としか言わない。


 この5日間に聞いた彼女たちの言葉は「こちらへどうぞ」、「お座りください」、「お食事です」、「おまるをご用意しました」、「体をお拭きします」、「お眠りください」の言葉を掛けて来るだけだ。


 いや、その言葉しか知らないようだ、ラーファの耳には二人が知らない言葉で会話するのが聞こえた。

 恐らく彼女たちは初めて目にする南大陸の人族なのだろう。


 ラーファはマーヤに念話を試しているが、神域に居ないのか繋がらない。

 まだオウミ国内なら遠距離だが繋がるかもしれないと念話を試みているが繋がらない。

 首に嵌められた首輪が念話まで邪魔してるのだろう。


 6日目、キャンプ地を夜12時(午前5時)に起き出した海賊団は暗がりの中でラーファを荷馬車から降ろすと歩き出した。

 久しぶりに歩くラーファは少しよろめいたが、両脇の女達がその度に体を支えてくれた。


 1コル(15分)程歩くと海の匂いと潮騒の音が聞こえてきた。


 「まって、私を此の国からどこへ連れ出すの?」

 立ち止まって海賊だと告げた男に聞いた。


 男は無言で両脇の女達に連れていけとばかりに顎で海の方向を示す。

 がっちり両脇を抱えられ引きずられ、抗う事さえ出来ずに海岸へとたどり着く。


 浜辺には3艘の小船が数人の男達と共に待っていた。

 沖には船が幾艘もの船影を重ねて夜明けの海原に浮かぶ。


 ラーファには、ビチェンパスト国から来た商船団の船と違う船影をとらえていた。

 商船団の船は2本マストだった、今見える船には3本のマストが見える。


 王都ウルーシュから10日前ビチェンパスト国の商船団に乗ったのだから間違いない。


 ラーファは胸を刺すような一瞬の悲しみと共に自分が、又もやだれかの思惑でさらわれ見知らぬ地へと連れていかれるのだと悟った。


 落ち込んでいたが、ラーファは何時までも黙って理不尽な事に甘んじる積りは無い。


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 不穏な出だしとなりましたが、しばし時間を戻してしばらくは王都ウルーシュでの生活です。

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