第11話

 駒家さんは審査得点で暫定二位だった。三位は北坂さん。残る審査対象は二人となればもうユニット入りは確定だった。通常であれば喜ばしいことだが沖宮さんに負けたことが相当ショックだったのだろう、椅子にうなだれて座っており放心状態になっている。


 そんな彼女を見かねて沖宮さんは声をかけるが無言で睨んでいるだけだ。表情を強張こわばらせている。恐らく悔しいという気持ちを悟られまいとしているのだろう。そんな彼女を微笑ましく思ってしまい思わず口元が緩む。


「何笑ってんのよ?」

「いや、ごめん。ちょっと思い出し笑い?をしただけだから……。君を見て笑ったわけではないよ」

「私をバカにしてんでしょ、もういいわ」

「ち、ちがうよ?」

「わざわざ私を笑いに来たの? 性格悪すぎでしょあんた……」

 

 いやいや性格悪いって何だよ。自分は散々俺たちのことをバカにしていたくせに逆の立場になった途端に被害者面って……。しかもわざと笑ったわけではない。生理現象だ。許せクソガキ。


「ふんっ、それで満足?」

「何か誤解してないかな? 俺は別に君をバカにしている訳じゃないんだよ。ただ落ち込んでいる君を見ていられなくって」

「屈辱だわ……。まさかこの私が哀れまれるなんて……。しかもこんなヤツに……」

「ま、まあ、次頑張ればいいさ? めっちゃうまかったよ歌」

「何、その見え透いたお世辞。もうやめてよ。私が何をしたって言うのよ。ほっといてちょうだい」


 煽ってるわけじゃない俺の言葉や表情も今の駒家さんには嫌味にしか見えないようだ。どんどん落ち込んでいく彼女。流石に可哀そうになってきたのでフォローを入れるが皮肉と勘違いされてしまった。 


 今の駒家さんは初対面の彼女とはもはや別人だった。あれほど自信に満ち溢れていた表情も今はもうその片鱗すら見えない。


 喋ることが無くなった俺に代わり沖宮さんが口を開いた。


「それで駒家さん。これから同じユニットのメンバーになるわけだけど……」

「それがなに?」

「あなたと仲良くしたい。私はそう思っているのよ?」

「はぁ……? 何なのよその上から目線は?」

「あなたの態度に合わせているだけだよ。私と大友君を侮辱したこと……忘れたわけじゃないんだよ?」

「……」


 沖宮さんはあくまで諭すように喋りかけている。駒家さんは表情が暗く以前までの覇気がなくなっている。それでも精一杯の虚勢を張っているのか態度は相変わらず反抗的だ。


「別に私はあんたと仲良くなんてしたくないわ」

「あなたのアイドルに対する覚悟ってその程度なんだ?」

「はぁ?」

「別にプライベートでも仲よくしようなんて言わないわ。でも仕事をする上でこんな調子じゃお互いにデメリットの方が多いと思わない?」

「それは……」

「今までの無礼を水に流してあなたと仲良くする、それは一つのけじめが必要だと思うの」


 これからユニットで活動をしていく上でメンバー同士がいがみ合っているのはお互いに面倒だろう。表面だけでも合わせてお互いに当たり障りなく活動していきたいと駒家さんも本心では思っているようだった。


 そのための条件として沖宮さんはあることを一つ提示した。


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