39話 大変身!


 そして次の日の夕方。

 部屋でゴロゴロしていると、ピコンと俺のスマホが鳴った。

 スマホを拾って画面を見ると、まどいからのメッセージだった。


(まどい:こんばんは。さっそくコンタクトを購入して、髪も切りました!)


「マジか……早くない?」


 俺は内容を見て思わずそうつぶやく。すぐに返信を返すことにした。


(直道:予想以上に早かったw さっそく見たいな。今部屋にいる?)

(まどい:はい。部屋にいます)

(直道:じゃあ、今から見にいっていい?)


 そのメッセージを送ってから、まどいから返信がくるまでに、ちょっとだけ間があった。


(まどい:どうぞ。でも変かもしれませんので、絶対に笑わないでくださいね?)


 俺はその返信があまりにいじらしくて、思わず微笑んでしまった。


「笑うわけないのに。むしろめっちゃ楽しみだよ」


 俺はそうつぶやいて、すぐに身支度をして部屋を出た。


 ピンポーン。


 まどいの部屋の前に移動して、チャイムを押す。

 すると中からパタパタという音が聞こえてきた。

 

 ガチャリ――


 控えめな音がして、ほんの少しだけドアが開いた。

 三センチほどのドアの隙間からまどいの瞳が覗く。


「あの……直道くん……こんばんわ……」

「へへへ、さっそく来たよ」

「は、はい……」

「どうしたの? ドア開けてよ。新しいまどいの格好、早く見たいな」

「そうなんですけど……その……うぅ……」


 声をかけるが、まどいはなかなかドアを開いてください。

 さてはというか、やっぱりというか、とっても恥ずかしがっている様子だ。


「大丈夫だから、絶対笑わない!」

「はい……それはわかってるんですけど……モニョモニョ」

「ほら、出てきて。顔見せてよ」

「……わかりました」


 俺の言葉を聞いて、ようやく決心がついたのか、ゆっくりとドアが開かれた。


「あっ――……」


 その先に立つまどいを見て……俺は言葉を失った。

 

 まどいはメガネをかけていなかった。宣言通りコンタクトをつけているのだろう。おかげで昨日までは分厚いレンズの奥に隠れてしまっていた、くりくりとした大きな瞳がよく見える。


 だけど彼女の変化はそれだけじゃない。

 大きく髪型が変わっていたのだ。


 昨日までのまどいの髪型は黒髪おさげ。

 似合っていないわけじゃなかったが、見る人に地味な印象を与えていたことは否めないだろう。


 だけど、今の彼女は!


 なんということでしょう。

 長かったおさげをバッサリと切って、肩ほどの長さのショートカットになっているではありませんか!

 

 しかも前髪を横に流していて、サイドを藍色のヘアピンで止めている。おかげで前髪で隠れてしまっていた彼女の表情がよーく見えた。


 そこに昨日までの烏丸まどいはいなかった。

 文字どおり、彼女は新しい自分に変身を果たしていた。

 

 というかメガネと髪型を変えるだけで、これだけ印象って変わるのか!

 今のまどいは穂乃果にだって負けていない、正真正銘の美少女だ!!


 ドキドキドキドキ――

 急激に俺の心臓が高鳴っていく。

 

「ど、どうでしょうか?」

「あ……」

「な、直道くん? やっぱり変でしょうか?」

「う……」

「そうですよね、変ですよね。似合いませんよね、うう……」

「……いい」

「え?」

「かわいい」

 

 俺の口から勝手に言葉がこぼれた。

 それが合図だった。


 ガシッ!


「きゃっ!?」


 俺は両手でまどいの手を掴んだ。


「あのあのあのあの、あのっ!? 直道くん!?」

「めっちゃ可愛い! どうしよう、すっごく可愛い! マジでヤバいくらい超絶にめちゃくちゃにすんごく似合ってる!!!!」


 ああもう、なんだこれ! 自分でも何言ってるかわからないくらい興奮しているぞ! でも本当のことだ。だってこんなにも心が高鳴っているんだから!


「そ、そんなにですか!?」

「うん、想像以上だよ! 本当に可愛い!! 最高に素敵だよ! やっぱりまどいの瞳はめちゃくちゃ綺麗なんだよなぁ。隠しておくのもったいないよなー!?」

「あわわわわわ……」


 彼女の顔が真っ赤に染まった。大きな瞳が戸惑いで揺れる。

 そんな彼女の反応を見て、俺はハッと我に帰る。

 

 慌ててまどいの手を離した。

 気安く女の子の身体を触るなんて最低だ。


「ごめん! つい興奮しちゃって……!」

「いえ、平気です。びっくりしましたけど……ありがとうございます。そこまで言ってもらえるなんて思わなかったから嬉しいです。ふふ……ふへぇ……よかったぁ」

 

 そう言うとまどいは安心したように微笑んだ。


「そうだ、直道くん! あの……良かったらこのままウチに上がっていってください。今日の晩ごはん、もうできていますので」

「ホント? やったね!」

「今日はチーズハンバーグです! ソースも一から手作りして……腕によりをかけました」

「おお、ハンバーグめっちゃ好き! それじゃあありがたくいただきます」

「ふふ、よかったです。それじゃあこっちへどうぞ」


 俺はまどいに続いて玄関に入り、靴を脱いだ。

 

 部屋に上がると、キッチンからハンバーグの美味しそうな匂いが漂ってきた。

 それは幸せの香りに他ならなかった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る