彼女のために筋肉を

ヌリカベ

第一話 今日から僕は変わるんだ

「良いわ、筋肉…って」

 何気ない一言だった。

 クラス一の美少女、頭脳明晰、成績優秀、無口で大人しい性格ながら主張するところは主張する一本気なクラス一の美少女(大切な事なので二回言いました)の倉科胡蝶さんがそう言った。


 彼女は僕の隣の席に座っている。アダ名は名前が胡蝶でいつも落ち着いているからだろう、お蝶夫人って呼ばれてる。

 普通に会話もするし教科書を忘れて見せてもらったこともある。

 授業の後も解らないところなどは、聞くと親切に教えてくれるし試驗で間違えたところの正解を解説してくれたこともある。


 こんなに親切にされたなら、誰だって惚れてしまうだろう。

 好きにならないなんて選択肢はありえない。

 その彼女が言ったんだ、筋肉が良いって。


 昼休みに僕の弁当を狙っていつものようにバレー部の立原が、忍び寄ってきた。僕の唐揚げを口に放り込んだ立原にヘッドロックをかましていたんだ。

 その時倉科さんはいつものようにタブレットで一心になにか読んでいたんだけれど、ふと僕たちの方を見てニッコリと微笑んでそういったんだ。


 きっと立原のような筋肉質のタイプがお蝶夫人の好みなんだ。

 その時から僕の目的は決まった。彼女の好みに沿うように筋肉をつけるんだ!

 家で腕立てに腹筋そしてペットボトルをダンベル代わりに筋トレ。


 学校でも何か出来ないか立原に相談してみる。

 バーベルの代わりにカバンに沢山本を入れてデッドリフトはどうだろうと言われた。

 床に置いた重いカバンを腰まで持ち上げるんだ。

 朝から休み時間はずっとデッドリフトを繰り返した。


「増田くん、急にどうしたの? 無理しちゃ駄目だよ」

 お蝶夫人が心配そうに僕に言う。

「筋トレを始めたんだ。立原みたいな筋肉をつけたいなって」

「そんな…君に筋肉…は…。可愛い…とか、わんこ…の方が…」

「えっ? 何?」

 そう聞き返したとき僕の腰に激痛が走った。


「アイタタタタタタ!」

「だっ大丈夫! しっかりして。私につかまって。立原くん手伝って!」

 僕は二人に抱えられて保健室へ連れてゆかれた。

 いい加減なフォーム、いきなり始めたトレーニングでの負荷、いきなり立て続けの筋トレ、その結果のぎっくり腰。


 踏んだり蹴ったりだったけれど倉科さんは僕を心配して保健室に残ってくれた。

 ギックリ腰は懲り懲りだけれどお蝶夫人が居てくれるならラッキーだったかな?


後半へつづく

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