死を司る者達

チリンとドア鈴を鳴らし、2人の男は夢見屋から足を運び出す。片方は頭にコブを作り、また片方は自分達を見送っている店主にヒラリと手を振り歩く。すっかり日の暮れた夜の街はけれど眩く明るい。街灯、ビルの証明、車のライト……そして人々が歩きながら操作するスマホの画面、様々な光が夜を明るく照らしている


「…なにがあったのかな」


「ん?」


「上で言い合いしてたでしょ」


店から暫く沈黙が続いていた2人だったが、面を被った男が徐に口を開いた。刈は頭に出来たコブを撫でながら赤に変わった信号を見上げて答えを放つ



「あー、あの人間がなぁ……吾が散々夢月の悪い事を話しても、怯えもせんし、逃げようともせん。それどころか《俺の恩人を侮辱する奴は死神でも許さない!》などとほざいて吾に殴りかかってきおってな」


「…へぇ…言ったんだ」


「そんなに怒るな、必要な事であった」



ピリと空気が凍る。面を被っていても分かる男の怒気、刈は慣れているのか軽く流したが男の怒りは収まらないらしい。イラついたように舌を1つ鳴らし、地面を2度軽く蹴る


「刈、人間に信用も信頼もいらないよ。お前がどんな理由であの人間に滞在を許可したのか知らないかど…オレはアレを信用しない」


「…ほぉ?お前こそ夢月に何か言っておったみたいだがそんな事を言うのか」


「それはそれこれはこれだ。人間は何奴も此奴も信用ならない。何度彼奴を裏切り傷付けた?…もう見たくないんだよ。彼奴のあんな姿…オレが幾ら止めなって言っても辞めないんだ、《お客様を見捨てられません》の一点張り」


赤信号が青になり2人は再び足を進める。刈の横を歩く男は空を見上げ被っていた面を軽く持ち上げた。面の下に現れた赤い瞳が星が散りばめられた眩い夜空を睨み付ける


「この腐った世界が無くならない限り、夢月は夢を喰わないし店も閉めない」


死なせたくない、と零した言葉は無意識だろう。刈はふぅと1つ息を吐き男から視線を逸らす。夢見屋の店主である夢月の正体は夢を食事とする妖、バクであるが夢月は夢を喰らう事をしない。それだけならまだ良い、それだけならばまだ良いのだ…良くないのは、あの店に売られているアロマが夢月がそれまで喰った夢を抽出し加工したものであるという事。過去に喰らった人間達の夢を、再び形として内から出しアロマに加工している。彼が口にする夢を見せる手助けと言うフレーズは、単なるカモフラージュにすぎない。どんなに追い詰められた人間でも妖が売る商品を進んで買いなどしないのだから


「何度も言うけどな、人間なんて信用するな」


人間の為にと、文字通り命を削って商売をしている夢月を何度も裏切る人間達を…男はどうしても許せなかった


「…だとしても、彼奴が信じたいって言う限りは吾等も信じてやらねばならんだろう。友であるなら尚の事。彼奴が贖罪を終えるまで付き合うてやらねばならん」


「その贖罪は、この世界を滅ぼさない限り永遠に終わりを迎えない」


これ以上の会話は無駄だとでも言いたげに面を被り直した男は懐に忍ばせていた黒いグローブを取り出し手に嵌める


「仕事だ、刈」


「はいよ」


歩くスピードを早めた男が地面を踏む度に履いた革靴の子気味良い音が夜の街に溶け込んでいく。闇に溶け込む黒スーツを翻し、人波を掻き分け迷いなく足を進める男を刈はひたすら追い掛けた



「今夜は何人なんだ」


「37、まずはあのロッカーから行く」


「まぁた赤ん坊からか」


「ほんっと腐ってるよねぇ…この世界」



人ならざるものが経営する店には、時として同類も訪れる。先程店に立ち寄った二人の正体は俗に言う死神であった。一重に死神と言っても彼等にもまた役職がある。刈は死んだ人間の魂を回収する"回収係”。そして面を被ったこの男は…命を刈り取る"執行官”、刈の上司にあたる存在だ。執行官と回収係は2人1組で行動し人間達の命を刈り取って行く。社会のバランスが崩れないように…老若男女皆平等に命の灯火が弱ったものから刈り取る










彼等死神の前では優劣など関係ない




命は皆平等である

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