第二章 懐かしい味

 結局あの日のあと一週間、宋昱軒は私を冥府のカウンセリング部屋に連れていかなかったから、すでに約束して人間界に来ることになっていたクライエントも全部ブッチすることになった。せっかく一週間の暇ができたというのに、ちっとも楽しい気分じゃないよ。


「蒼藍、冥府は……」


「彼らは大丈夫だよ。このところ忙しいだけさ……後始末をしなきゃいけないんだろ?」蒼藍に何度も聞いたものの、似たような答えしか返ってこなかった。


 冥府だけじゃなく、人間界に常駐している雅棠や彼女の部下の道案内人たちすら影も形も見えない。さまよえる亡霊サービスセンターに至っては『休業中』のプレートがかけてあって、多くがみんなそんな感じだった。城隍廟にも行ってみたけど、廟を守る神主以外に一人の冥官も見当たらなかった。大きな箱入りのヤクルトを担いでいったときでさえ、城隍が神像の陰から飛び出してきてヤクルトをねだることはなかった。


 こうなると、残るは『あそこ』だけだ。でも『あそこ』は降りて行きたいからといっておいそれと降りて行けるわけじゃないし……


 さらに数日待ったあと、シフト中にある心肺停止者が緊急救命室に運ばれてきて、三十分の蘇生措置ののち効果なしと宣告された。私は先輩と家族が後処理をしている隙を狙ってこっそりと抜け出し、左端の医療用エレベーターに乗った。そのエレベーターは双方向になっていて両面にドアがある。一方のドアの横には赤地に黄色い文字のプレートがあって、『このエレベーターは地下一階の往生室行きです』と書かれていた。


 往生室とは俗にいう『霊安室』のことで、私たちの病院では『往生室』と呼んでいた。以前、ある同僚がうっかりこのエレベーターに乗ってしまったという話を聞いたことがある。結果あろうことか、エレベーターは同僚が行きたかった一階を素通りして地下一階の往生室に直行してしまった。この手のかわいそうな同僚がだいたい、一年に一人や二人はいる。これも私たちの病院に広く伝わっている『都市伝説』の一つだ。


 ひょっとすると人間の友人よりも冥官の友人のほうが多いかもしれない『見える』身としては、当然エレベーターが勝手に地下一階に行ってしまう原因を知っている。


祐青ヨウセイ祐寧ヨウネイ」私はそっと呼ぶと、あえて往生室の監視カメラに映らない場所に隠れた。私はめったに降りてくることはない──


 明かりが届かない隅から人影が飛び出し監視カメラに無人の往生室の写真を張り付けると、もう一つの同じような人影が私に向かって手を振った。


「簡さん、もう大丈夫ですよ」私に手を振った女性は紺色の制服を着ていて、見た目の年齢は私と同じくらいか少し下かもしれない。


「簡さんどうしてここに来たんですか?」


「どこに行っても冥官がいないから、あなたたちに会いに来たんだよ」正直に言って、何もなかったら絶対に往生室には来ないよ。「冥府は大丈夫?」


 祐青と祐寧は武官の中でも割と低ランクの『警備員』に属していて、武力や陰気の修養という点では処刑人ほど強くない。彼女たちの陰気がわりかし弱いからこそ、電子機器でいっぱいの病院で私のボディーガードが務まるのだ。新しく生まれたさまよえる亡霊や怨霊が現れると、私を傷つけることがないようまず彼女たち二人に連れていかれる。


 冷蔵庫は宋昱軒が触っただけで爆発するから、彼が長期間病院にいたらどれだけの損害が出るのか想像できる!?この二人の警備員みたいに、エレベーターのボタンを押してエレベーターに乗ることが──


 そう、あの『都市伝説』は祐青と祐寧がエレベーターに乗るからなのだ。


 幽鬼がなんでエレベーターに乗るのかって?


 直接天井を通り抜けることで天井裏の配線がショートしちゃうのを恐れて、地上に行く必要があるときは階段で行くかエレベーターに乗るのだ。でも冥官が電気器具を壊す能力は、エレベーターの電気パネルにもちょっと影響しちゃうんだよね。だからエレベーターのパネルがショートして地下一階に直行してしまうのだ。これこそが『都市伝説』の原因ってわけ。


 ほら、この二人の姉妹はすごく思いやりがあるでしょ!


「奇襲を受けましたが、みんな無事です。何の犠牲もありませんでしたから、簡さんも安心して大丈夫ですよ」これらの言葉は祐青が答えたものだ。このときもう一人の警備員──祐寧という名の女性はすでに私の前に立っていたが、いつものようにただ沈黙を守り、返事をすることも挨拶することもなかった。


 祐青と祐寧は双子で、見た目はまったく同じだった。服も同じような紺色の侠客服を着ているので、顔だけ見たら誰が誰なのか本当にわからない。違いは佩剣の位置が一人は左側に、一人は右側にあるだけなので、微妙に鏡像を形成していた。冥官において双子は珍しく、冥府全体を探しても四組だけだ。この四組の中で祐青と祐寧だけがきわめてそっくりな顔をしていた。


「本当に大丈夫なの?じゃあなんで昱軒と雅棠たちはいないの?」


「ほかのところへ支援に行っているだけじゃないですか?内境のあんな大きな動きがあった以上、彼らをまったくの無傷で帰らせるわけにはいきませんし、もちろん──」


青青セイセイ」祐寧が珍しくその口を開いて遮った。彼女の声もほとんど祐青と同じで、違いを聞き取ることができない。ただ祐寧の声は氷みたいで話をするたびに寒さを感じるから、それで往生室のクーラーもすごく冷たいのかもしれない。


「私に隠す必要はないよ。あなたたちがやり返したい気持ちは理解できるから」おいおい、隣人が自分の家の玄関先にゴミを散らかしたら相手の家の玄関先にもゴミを積みたくなる心理はあるだろうし、ましてやこんな大規模な侵入行動となればなおさらだよ。冥府だってプラスチックでできているわけじゃないし、人間界とは違って国家間の多くの利害関係をテレビ越しでしか抗議できないわけでもないから、報復するのは当然でしょ?


 祐寧は続けて言った。「簡さんは人間界にいてくれさえすればいいので、冥府のことを心配する必要はありません」


 チッ、薄情なことを言いやがって。私に知られたくないことがあるのは明らかだ。これに関しては私も鼻を触って認め、おとなしく仕事に戻るしかなかった。持ち場をあまり長く離れるのはよくないし、後々往生室の人に見られるのはもっとヤバい。


「あの……簡さん、」エレベーターを待っているとき、祐青が私を引き止めて小声で聞いてきた。「簡さん近々のご都合はいかがですか?簡さんにカウンセリングをお願いしたくて……」


「お?最近はいつでも大丈夫だよ!」誰かしら冥官が会いに来るなんて信じられない、彼らは忙しいみたいだし。「仕事が終わったら来ていいよ。私の家の場所は知ってるよね?」


「知ってます」


 突然、エレベーターシャフトからキャスターの音が聞こえた……


 ヤバっ、往生室の人が亡くなったばかりの病人を連れて戻ってきたんだ!ここにいるのを見られるわけにはいかないし、説明に困る!いや、エレベーターは下に向かって来ているし別の方法でここを離れることすらもう間に合わない。普通の人ならそもそも往生室に降りてこないし私はいったいなんて言いわけをすれば──


 待て待て……普通の人?


 エレベーターのドアが開いた。往生室の人たちは皆私を見て唖然とした。「先輩、どうしてここにいるんですか?」


「わ、わからない……」私は声を詰まらせながら言った。指で突いたばかりの目が真っ赤になり、涙がたくさん出ていることを願った。「地下街に行きたかっただけなのに……気がついたらここにいたの」私はサッとエレベーターの中に入り、狂ったようにエレベーターのパネルを押した。往生室の人たちは私を気の毒に思ってそれ以上質問せず、遺体収納袋をエレベーターから降ろすと私を解放してくれた。


 これでよし。私自身も『怪談』の被害者の一人になった。でも、往生室に行って幽鬼とおしゃべりしたことが同僚にバレるよりは、幽鬼に出くわしたツイてない人と思われたほうがマシでしょ?往生室の人たちがこのことを緊急救命室の同僚たちにバラすかどうかはわからないけど。


 ……頭を使わなくても絶対にそうなるのはわかるよ。


「民祐青、だよね?」


 祐青祐寧は近代の『民国』出身で、私の曾祖母になってもおかしくない年齢だ。残念ながら我が家のひいおばあちゃんはとっくに亡くなってしまっている。さもなければ、ひいおばあちゃんは祐青と祐寧の知り合いだったかもしれない。生者が語る冥官の生前の話を聞くのは、すごくおもしろい体験に違いなかっただろう。


「はい」祐青はギュッと服の裾をつかみながら、どこか居心地が悪そうだった。一部のクライエントは初めてのカウンセリングで割と緊張するものだし、自分の心の悩みを話すのはさすがに少し勇気がいるものだ。このときの私の解決方法は、バカみたいにシンプルなものだった。


 私はキャビネットから冥府のお酒とグラスを二つ取り出すと、祐青に注ぎ始めた。


「飲もう!」自分のグラスは当然ただのお茶だ。今は魂の状態ではないから、冥府のお酒を試す勇気はない。酔って酒乱になるのは大したことじゃないけど、あとで何かしらの副作用が出てきたらウケるわ。


「お酒は飲みません」祐青は手を振ったので、私はまたグラスを前に押し出した。「幽鬼には健康問題の心配はないし、お酒を飲んで乱れたって子供は産めないんだから、安心しなって!」


「私は怖いんです……酔ったら簡さんを傷つけてしまうのが」


「当然自分の身の守り方はわかってるよ。さあ、早く飲んで!」


 私の威厳に押されて祐青は少し口をつけると、舌鼓を打ちながら言った。「すごくおいしいです、淡い花の香りがして」


「あなたたちのお酒は本当においしいよ。しかも、人によって感じる味が全然違うみたいだからね」たとえば私が飲むと淡いイチゴ味だけど、宋昱軒が飲むとサクランボとチーズの味だったりする。冥府のお酒は魂がいちばん懐かしく感じる味によって変わるっぽいのだ。原理はわからないけど。どうせ冥府に偽酒はないはずだから、飲めばいいんだよ。


 一杯飲んでも何の効果もないようだった。私はまたグラスになみなみとお酒を注いで彼女の前に置いた。


「どう?」


「本当においしいです……どうして私は今まで一度も試してこなかったんだろう?」祐青は空のグラスを眺めながらブツブツ言った。「私の家ではお酒が禁止だったので、お酒を飲む席はやんわりと拒否してたんです……」


「それは窮屈だね」冥府のお酒はかなりキツいんだけど、味を感じないから知らず知らずのうちに泥酔していることが多いんだよね。私は少しボーッとしている祐青を見ながら、質問し始めた。「今回、なんで私に会いに来ようと思ったの?」


「私……」祐青の焦点の合わない目を見て、彼女が倒れてしまわないか、残りのカウンセリングができるのか、しきりに心配になった。でも祐青はまだ少し意識があるみたいで、自分をしっかりさせるために頭を振った。「私……ちょっと悩んでいます……」


 ……二杯はマジで多過ぎたみたいだ。祐青は軽くグラスを揺らした。「私……仕事で悩んでるんです」


 仕事?


「殿主たちには前から病院に警備員を置く必要はないって言ってるんだよ。何かあったときは必然的に宋昱軒に来てもらうからって」


「違います。簡さんのボディーガードになるのはすごく嬉しいですし、幸いにも簡さんだけのボディーガードですから」彼女は少し不安そうにグラスをつかんだ。「私……阿寧アーネイ、あの子が……」


「もう少し飲みなよ」私はまたグラスに半分注いだ。カウンセリングが中断になるリスクはあるけど、リスクが増えれば増えるほど得るものも大きくなるでしょ?


「はい」このグラス半分を祐青は一口ゆっくりと飲み、ふと懐かしそうに言った。「本当によく似ています……私たち家族は山の中に住んでいて、毎年春になると山も谷も花でいっぱいになって、私と阿寧は谷に蝶を捕まえに行くんです……阿寧は毎回私よりもたくさん捕まえて……」


 生前のことを話し始めたよ!祐青の陰気は本当に明廷深より全然弱いにもかかわらず蛍光灯がちょっと点滅したけど、それでも安定していると言っていい。


「阿寧……あの子はずっと私に申し訳ない気持ちでいっぱいです。私が彼女を救うために死んだから……あのとき阿寧が水に落ちたので、私は飛び込んで助けに行ったんです。その結果阿寧に水の中に引っ張り込まれて、目覚めたときはもう殿主の前にいました……けど、簡さんは全部知ってますよね?」


 私は心が締めつけられ、何も知らないふりをした。


「……阿寧も以前、会いに来たことありますよね?」


 危険なにおいを嗅ぎ取ったので、私はお茶を沸かす炉に炭を少し足して火の勢いを強くした。この後召喚冥紙を入れる必要があったら、割と早く燃える。風炉はこういうときに使うのであって、じゃなかったら私が家で炭火を使ってお茶を沸かしてどうするっていうんだ?一酸化炭素中毒になりたいのか?お茶の良し悪しだってわからないよ。


「あってもなくても、私はカウンセリングのクライエントの個人情報やカウンセリング内容に関して一切口外するわけにはいかないし、それはあなたたち姉妹でも同じだよ」私は自分の立場を強くアピールしたが、祐青は気にすることなく、ただうつむいてグラスの中に映る影をじっと見つめ続けていた。


「阿寧は処刑人になりたかった……けど私が弱くて試験に合格できなかったから、私に付き合って資格試験に行かなかったです。あの子は素質があるのに私に気兼ねして、警備員になることに甘んじました」


 彼女が顔を上げると、その顔はもはや最初の清楚な顔じゃなく、水でふやけた皮膚に取って代わっていた。


 ポタ、ポタ。


 ……ウチの床は浸水して壊れないよね?明日になったら、ちょっと蒼藍に運気を変える加持をしてもらおう。どうしてこのところのカウンセリングは総じて平穏じゃないんだろう?


 彼女の声は、まるで水に遮られたみたいに少し遠くに聞こえた。「簡さん、私と一緒にいるように阿寧に勧めたんじゃないんですか?


「祐青、」私は相手の正気を呼び戻そうとしたけど、祐青は心ここにあらずといった感じで、私が次に話す話も耳に入らないみたいだった。「私は祐寧に、この世に留まってあなたと一緒に警備員になれ、なんて勧めてないよ。これはあなたに教えてあげられる」私はミトンを付けると、祐青の手をつかんだ。


「簡さん?」


「祐青、祐寧があなたと一緒にいるのは、間違いなく彼女自身の選択だということを知る必要がある」私は祐青の表情の変化を観察しながら、次に言う言葉を決める。「でも一つハッキリさせておかないとならないのは、あなたは死んで、輪廻の輪に入らず冥官になったということだよ」

 言葉が終わるやいなや部屋の明かりが瞬時に消え、風炉の炭火にもわずかな火の粉しか残っていなかった。谷の虫や鳥のさえずりと水のせせらぎが耳に飛び込んできて、その上二人の少女の軽やかな笑い声までかすかに聞こえてきた。


 こんな状態は今までのカウンセリングで経験したことがなかったけど、今は目の前のカウンセリングに集中するべきだ。


「私──」


「でも冥官になったから、あなたたちには果てしなく長い時間があるんだよ」私はミトンを外して再び普通の人間の手で祐青の手の甲に触れると、当然のごとく通り抜け、ただ冷ややかな感覚だけがあった。


 祐青は私に通り抜けられた手を眺めながら、何も語らなかった。


「祐寧はそもそも無口だし、自分の考えを伝えるのもあまり得意じゃないんだよ。姉であるあなたはよくわかってるでしょ」


「阿寧は小さい頃からあんな感じで……いつもひっそりと私の後ろに隠れてるんだけど、蝶を捕まえるのも上手くて、走るのも私より速くて、同じ村の男の子にいじめられたときは逆に私を引っ張りながら逃げたり、テストだっていつも私より点数が高くて──」


 私は彼女が生前の話を続けないようすぐに中断させた。陰気が上昇し続けてまた一昼夜意識を失うことがないようにだ。「祐寧が待っているよ。あなたが処刑人の資格試験に受かるその日を待っている。ゆっくり鍛えれば、いつか絶対に受かるよ」


「でも!」祐青はこの提案をあまり受け入れられないようだった。「私と阿寧は差が大きすぎて、私はまったくあの子に追いつけない──」


「祐青、そういう風に考えるのは間違ってるよ」私は両手を外に向かって思いきり伸ばした。「仮にあなたと阿寧の差がこんなに大きかったら、」今度は手をたった十五センチの距離に縮めた。「あなたがやらなきゃならないのは処刑人になることだけであって、阿寧に追いつくことじゃない。こんな僅かな実力差は、数年で必ず埋められるよ。あなたは『民国』に過ぎないんだから!あなたは三百から五百年、ひいては千年修行を積めるんだ。時間はあなたたちにとって問題じゃないでしょ?気持ちがあればいいんだよ」


 こういう風に彼女の考え方を変えるんだったら耳に入るでしょ?祐青は首をかしげながら考えると、すぐに偽装が維持できていなかったことに気がついた。彼女は袖で顔を拭うと、腫れあがった顔がまたいつもの清楚な顔立ちに戻った。


「簡さんは本当に私たちを理解してくれてるんですね」彼女は恭しく言った。「明らかに死人じゃないのに、私みたいなこんな死んで百年しか経っていない新米冥官なんかより、よっぽど冥官を理解してますね」


「私をなめてたでしょ?」私はまた自分にお茶を注いだ。風炉の火はすでに消えていたけど、火を使う必要はとっくになさそうだった。「私だってあなたたちと二十年近く付き合ってきてるんだからね!冥府の心理カウンセラーの名前は伊達じゃないよ?」


「確かに……」祐青は途中で話すのを止めた。彼女はまだ起きているが、アルコールの作用で意識が乱れて座ることさえおぼつかなかった。


 聞いちゃう?彼女が酔っ払っている隙に冥府と内境の実際の状況──戦況と言っても過言ではないけど──を聞けば、酔いが覚めてもまったく覚えてないかもしれないしね。もしみんなが私に隠してなければ、私だってこの手のひどい技を使う必要はなかったでしょ!


「祐青──」


「簡さんはやっぱり私たち冥府の大切な人ですね!私はどうして殿主があなたをこんなに信頼しているのか、ようやくわかりましたよ。カウンセリングのあとは本当に視界がパッと開けたような感じになりますね」


 信頼。


 シンプルな二文字がまるで細い針のように心の奥底に突き刺さる。私はすでに口から出かかっていた質問を無理やり腹に吞み込んだ。


 私はいったい何を考えているんだ?冥府の信頼を裏切って何のメリットがあるというのだ?


 祐青が去るのを見送ったあと、私はすぐにデブオタク高校生に電話をした。


「蒼藍、学校が終わったらちょっと来て検査してくれない?なんかちょっと変なんだよね……」



民祐青

初期診断:コンプレックスが邪魔している

処置:クライエントの心の中に設定した目標を再調整、並びに急ぐ必要はない旨を指摘。クライエントは理解できるので、要観察。

備考:クライエントが生前の様子を述べる際、周囲に幻影が出現。万が一に備えて、今後は人間界でのカウンセリングを避ける必要がある。

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