僕の妻は紙でできている

rusty蘆鷥啼/KadoKado 角角者

01、三十一回目の敗北

「僕はファン既明ジーミン、三十歳です」まるで面接を受けているようなスーツ姿の男は、席に腰を下ろし、向かいの若い女性を見ていた。

 目の前の女性は穏やかな物腰で、今までお見合いで出会った女性と違い、忍耐強くて、彼は少し自信になった。

「趣味ですか?僕は普段、時間があれば家で絵を描いていますが……時々、ジャンさんのようにお出かけして、映画を見に行きます」男は、相手が自分の話が退屈で面白くないと思っているのではないかと心配になり、急いで言葉を紡ぎ直した。

 彼からすれば、どうやら二人の会話は無事続いているようだ。

 これはチャンスかもしれない。

「仕事なんですが……」まで話すと、男は少々ためらい気味に「現在、コスメ系の仕事をしています」と言った。

 男の答えを聞いた女性は、「人にメイクされているんですか?」と興味を持ったようだ。

「はい」しばらく考えた後、男は「そうです」とうなずいた。

「すごいですね!」女性は優しく微笑みながら、「機会があれば、私のメイクもお願いできますか」と言った。

 彼女の笑顔を見た男は、思わずはにかんでしまった。

 章さん、すごくいい人だな……今まで会った人たちはみんな、彼が朴訥で会話が続かないと言った。

 彼女を失望させないよう、努力しないと。

「あの……生きている人のお化粧はあまり経験がないのですが……頑張ります」彼は努力家なので、何度か練習すればすぐ上達するだろうと信じていた。

 その言葉を聞いた途端、女性の笑顔が凍りついたことに、男は気づかなかった。

「まだ聞いていませんでした……どこの職場でお仕事をされていますか」

「ああ、ええと」方既明は、手をせわしなく動かして懐から一枚名刺を取り出した。「僕は市営の葬儀会社でエンバーマーとして働いています。これが連絡先です。将来、章さんがご希望でしたら……ああ、こんなこと必要ないですよね、すみません!僕のことをもっと知りたいなら、こちらの番号にお電話ください」

 女性は呆然と名刺を手に取り、そして……。

 そして、それから進展はなかった。

 方既明の三十一回目のお見合いも大失敗だった。


 三十歳の男性として、方既明は家も車もあり、今まで彼女がいないこと以外は全て順調だと思っていた

 実際、本人は独身のままでいいと思っているようだが、母親が納得してくれない。

『既明、お前には子供の頃から父さんがいなかったんだ。母さんが亡くなったら、お前が独居老人になって、誰にも気づかれず死ぬんじゃないかって心配だよ。ああ……』こんなことを言われてしまった。

 そして、方既明のお見合いは、三十一連敗を記録した。

「誰にも気づかれずに、死ぬのか……」独居老人になるのはどうでも良いが、この後者の点はかなり気になった。

 他人に迷惑をかけるのが嫌いで、自分の死体が後で誰かに見つかって、遺体回収で迷惑をかけるのは嫌だった。

 しかし、簡単にいい人が見つかるものだろうか?

「はあ……」どこかで待っている三十二回目のお見合い相手を思い浮かべながら、方既明は疲れたようにため息をついた。

「どうした?方ちゃん、お見合いがうまくいってないのかい?」その悲しそうな顔を見て、一人の親切な中年女性が尋ねてきた。

シュウキクさん……」秋菊は葬儀屋の同僚で、方既明が入社したばかりの頃、ずいぶん助けてくれた先輩だった。

 人付き合いが苦手なコミュ障の彼にとって、この長年苦楽を共にした同僚は気軽に話せる数少ない相談相手だ。

 情に厚いミンシュウキク)は、方既明の内向的で朴訥な性格や、結婚までの挫折も含め彼の状況をとてもよく理解している。

「ああ、なんてもったいない、こんなにいい子なのに!」閔秋菊は方既明を見て、もっと賞賛をする言葉を探し「本当に……本当にいい子なんだ!仕事だってできる」

 方既明は、相手が最善を尽くしたことはよくわかっていた。

 本当につまらない男だと自分でも思っている。

「ありがとう、秋菊さん。僕もそんなに落ち込んでいません。もう慣れていますから」気分を取り戻した後、方既明は起き上がり、今日の仕事の続きに戻った。


 遺体安置所には、高齢の男性の遺体が横たわっていた。

 これが方既明の今の仕事だ。

 遺体の洗浄と着替えは既に終わっており、次は既明が得意とする死化粧を施すことになった。

「蘇おじいさん、僕があなたをお化粧して、お顔を美しく仕上げますから、ご家族も喜んでくれるはずです」そう言って、方既明は工具箱を開け、目の前の仕事に取りかかった。

 仕事中の方既明は表情が真剣そのもので、普段と打って変わって饒舌だ。

「先ほどご家族とあなたの話をしたのですが、素晴らしい人生を歩んでこられたと思います」

「スカイダイビングまで挑戦されたとお聞きました……僕なんかは絶対無理です。スカイダイビング中に事故にあったら遺体も残らなさそうで怖いです」

 人前では無口な自分とバランスをとるためか、この寒い部屋で遺体と向き合う時はいつもおしゃべりになる。

 彼にとって、複雑怪奇な生者の性質とは異なり、忍耐強く話を聞いてくれる死者は、とても優しい存在だからだ。

 不用意なことを言って冷められる心配もないし、相手に合わせて話題を選ぶのに頭を悩ませることもない。

 自分のやっている仕事は「功徳」であるという声を聞いたことがある。

 しかし、方既明は自分がそこまで立派な存在だとは思っていない。

 自分にとって、人と接することが本当に苦手だったからこの仕事を選んだだけだったのだろう。

 子供の頃はいつも物静かで、一人で絵を描くのが好きで、あまり仲間に溶け込めなかったという。

『将来、就職が必要になったときどうする? 死人相手の仕事を探すしかないだろう』と仲の良い友人から、こんなことをからかわれたことがある。

 それが現実になるとは露も知らなかった。

 方既明は自分の仕事をとても気に入っている。この世にいろいろな人がいるように、ここに運ばれてくる死者もまた、さまざまな姿をしているからだ。

 今日の老人のように、ベッドの上で安らかに亡くなった人もいれば、事故死を遂げ、化粧をする前に手当てをしなければならない人もいるのだ。

 家族や友人がいて懐かしむ人もいれば、身元不明で孤独な人もいる。

 彼らにはそれぞれの物語がある。方既明はそれまで彼らを知らなかったが、運命的に彼らの最後の旅に同行することになった。

 ……ただ、自分のことがうるさいと思われないことを願った。

 こんな事を思いながら、目の前の仕事は徐々に完成していった。

 最後に完成した仕事ぶりを見て、方既明は「よし!これでだいぶスッキリしましたね!」とそう満足感を覚えた。

 やっぱり、自分の技術はなかなかだ――既明は前回のお見合いの失敗で失った自信を取り戻した。

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