第24話


「……ん」


 次に目が覚めた時は、もう部屋はすっかり明るかった。


 そして、俺の隣に一条はいない。

 かすかに、彼女がいた温もりが布団に残っているが、それだけ。


 俺は、危機を回避したのだと確信して胸を撫で下ろした。


「あ、おはよう薬師寺君」


 体を起こすと、ちょうど服をアイロンがけしている一条と目が合った。


「あ、おはよう」

「ぐっすりだったね。 寝付くのが遅かったの?」

「ま、まあちょっと。蒸し暑かったのかな」

「そうだね。でも私はゆっくり眠れたよ」


 慣れた手つきでアイロンをかける彼女を、上半身を起こしたまま見つめる俺は、しかし布団の中の下半身にすこし違和感を覚える。


「……ん?」

「どうしたの? まだ寝たいなら寝てていいよ?」

「い、いやまあ……それじゃ、お言葉に甘えて」


 せっかく起きたのにもう一度布団に潜り直す。


 そして布団の中の自分の下半身を見る。

 触る。


 やっぱりだ。


「……なんで裸なんだ?」


 パンツすら穿いていなかった。

 このまま布団を出たら、Tシャツに下半身半裸という変態の姿で一条の前に立つところだった。


 危機一髪。

 だが、どうして俺の下半身が裸なのかについては不明。


 脱がされた?

 いや、まさかあの状況に俺が無意識に流された……。


 いやいや、酒も飲んでないのに記憶もなく女を抱くなんて、そんなことはあり得ない。


 じゃあ……襲われた?

 俺が寝ている間に?


「あ、あの」

「なあに、薬師寺君?」

「え、ええと、昨日の夜、一緒に寝てただけ、だよね?」

「どうしたの? 昨日は二人でベッドの中にいたよ?」

「いや、ベッドにいたのは知ってるんだけど……ええと、俺、ちゃんと寝てたよね?」

「うん、寝てたよ? ふふっ、変な夢でも見た?」

「……いや、大丈夫」


 布団から顔を出して、アイロンをかける一条に話しかけてみても特に一条の反応は普通だ。


 やはり何かの間違い、というか暑くて脱ぎ散らかしてしまった程度のことなのかもしれない。


 とにかく一条が部屋から出て行ったらすぐに着替えをとって服を着よう。


 それまではこのまま眠たいふりをしていようと、再び目を閉じようとしたその時。


 一条の、独り言が耳に入ってきた。


「薬師寺君のって、すっごく大きかったあ」

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