第十五話 殺人デビュー

「ちょっと、どうすんのよ。覚醒剤運んでるのがバレたら、全員刑務所行きよ」


 祐子が姿勢を低くして、囁くように言った。


「私は運が悪けりゃ、頭を吹っ飛ばされるけどね」


 鈴も姿勢を低くして、強い口調で言う。あくまで囁き声だ。


「みんなだめよ。姿勢低くしたら、なんか隠してると思われるじゃない。胸を張って、堂々とするのよ」


 三太は全員を見渡す。


「いい? 私に作戦があるわ」





 空飛ぶパトカーが、ソリのすぐ横に止まった。肥えた警察官が、帽子のつばをつまむ。


「いやあ、すいません。最近サンタ界隈に問題が多発してるもんで、ランダムで職質させてもらってるんですよ」


 どうやら、怪しく思われている訳ではないらしい。しかし、後ろに積んである覚醒剤を見られたら、一発アウト。それは変わらない。


「ああ、そうなんですね。どうぞどうぞ、何もないんで、パパッと確認しちゃってください」


 貴史が作り笑いを浮かべ、努めて明るく言う。


「じゃあ、後ろの荷物から確認させて──」

「あ、ごめんなさい。後ろの荷物の中に、子どもが埋もれているんです。なんかそこが好きみたいで」


 はあ、と惚けた顔をする警察官に、貴史は頭を掻く。


「すぐにどかせますから、先に運転席の方から確認してください」

「そういうことでしたら、分かりました。じゃあ、前失礼しますね」


 警察官は懐中電灯を片手に持ち、身を乗り出した。ほぼ身体はこちらのソリに入っている格好だ。そして、彼の顔が、ちょうどナビの真ん前で止まった。


 祐子、今だ!


 貴史が目配せすると、祐子はタブレットを取り出した。リンゴのボタンをポチッと押す。案の定、ラジカセが出てきた。


「これ、なんです?」


 警察官の目と鼻の先に、ラジカセがある。


「チェックメイトだ」「え?」


 貴史はそう言い放つと、ラジカセのスイッチを入れた。ひび割れた轟音が、警察官を直撃する。それも間近で。


 警察官は泡を吹いて倒れた。耳からは血が滴っている。


「ちょっと! 早くスイッチ切って! 鼓膜破れる!」


 耳を必死で塞ぎながら、全員が喚いた。なんとかスイッチを切り、祐子がラジカセからナビに戻した。


「ふう、一件落着ね」


 三太が汗を拭く動作をした。


「本当に上手くいくとは……さすが三太、頭が切れるな」

「それほどでもないわよ」


 鼻の下を人差し指で擦り続ける三太に、三人は拍手の雨を降らした。


「というか、これで正真正銘の犯罪者になっちゃったんじゃないの?」


 鈴が不安そうな声で言う。


「確かにな。捕まらないためにも、さっさと逃げよう」

「この人どうするのよ?」


 祐子が警察官を見下ろした。そりゃあ、頑張ってパトカーに戻すしかない。

 十分後、なんとかパトカーに警察官を戻した。それにしても、全く起きない。死んでないだろうか。四人は汗を拭いながら思った。


「さあ、行こう」

「アイアイサー!」


 ソリは困難を乗り越え、目的地へと向かう。


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