第28話 待ついつまでも

 やさしいひとだった。怒ったことなど一度もなかった。明るく太陽みたいに輝いていた。いつもやさしく微笑んでいた。


 ふたりは一緒だった。いつもどんなときでも。


 楽しかったドライブの帰り道、暴走した対向車が二人の乗った車に、正面から激突した。


 大切な命の灯はあっけなく消えた。目覚めぬ永遠の眠りの中で、鼓動と時間は停まり、いつもの笑顔は血色に凍りついていた。


 戻ってくる、必ず戻ってくる。信じて疑わず、焼ける暑い日も凍える寒い日も、事故現場にずっとただ立ちつくしていた。


 頬に、忘れかけていた笑顔が浮かんだ。やっとやっと戻ってきた。戻ってきてくれた。


 事故の前とまったく変わらない男らしく引き締まった体。怪我の痕など何処にもない。大好きだった微笑みを湛えて・・・・・


 気づいてくれるかだろうか。あの太陽みたいな輝く瞳で、やさしく見つめてくれるかだろうか。不安で胸が張り裂けそうだつた。


 幸せだった二人の時間を巻き戻したかった。やさしかった彼の浅黒い頬を伝う涙の雫と、真っ白な花束が月明かりに青く光った・・・・・

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