第二章 言い様を変えてみる

第二章には、より広範な意味表現を拡張する技法をまとめました。


【くびき語法(ジューグマ )】

概説:「〇〇の▲▲は、□□の▲▲」といったように、別の意義を持つ一語を用いて表現する技法。先の例に言葉を当てはめるのなら、「服装の乱れは、心の乱れ」といったものです。

用例:「夢も希望も、大きくて困ることはない」「頭も痛いし懐も痛い」

付記:できるだけ対照的な意味にすることがポイント、だそうな。同音異義語を用いた掛詞、詞喩とは異なり、同語異義を利用します。ダブル・ミーニングの効果を狙いたい時には。


【誇張法(ハイパーバリー )】

概説:張喩とも。事柄を大げさに表現する技法。誇張というと実際以上という印象がつくが、現実の並外れ度合いと表現のギャップを埋めるという用法が多い。

用例:「子猫のひたい程度の庭」「堰を切ったように泣く」「底なし沼」「みんなやってるよ!」「これを知らないなんて人生の九割損してるよ」「鉄の心臓」

付記:あまり良い印象がないかも知れませんが、「みんな使っている」といっても過言ではないでしょう。この技法の素敵な用例は別で参照いただければと思います。


【抑言法(マイオーシス )】

概説:誇張法とは逆に、むしろ表現を控えめする技法。日常的にも、「少々話が」という言葉は時に重要な要件である可能性を想起させる。

用例:「ちょっと問題がありまして」「普通は大した悩みではないんだけどね」「ほんの小さな軋轢でしかなかった」

付記:この技法は、文脈によって大きな威力を発揮します。悲しみを容易に想像できるような文脈であるならば、大号泣という表現をするよりも、一筋の涙を描写した方が、深い悲しみが伝わるかもしれません。また、緩叙法と訳されることもありますが、以下の曲言法と紛らわしくなりますので、抑言法としました。


【曲言法(ライトティーズ)】

概説:表現を遠回しにすることによって強調する技法。あからさまな表現を避けたい場合や、文脈上想定されることとは逆のことを主張したい場合に用いられやすい。緩叙法とも。

用例:「悪くはない」「半端ではない」「そんなにダメってわけではない」「まさか間違っていたわけがない」

付記:一言で強調するとはいっても、より意味を強くするものも、弱くするものもあります(用例の通り)。


【対義結合(オクシモロン)】

概説:相矛盾する語を付き合わせることで、一見辻褄が合わないことを表現する技法。撞着語法とも呼ぶ(『撞着』は矛盾を意味する),

用例:「ゆっくり急いで!」「厳しくて優しい人」「美しく輝く闇」

付記:避難訓練で何が必要なのか、を表現するには必須の技法ではないかと思われます。


【同語反復法(トートロジー)】

概説:撞着語法と逆に、「〇〇は〇〇である」といったように、同じ単語を繰り返すことで意味を強調する表現技法。

用例:「場所が場所だから、普段よりも警戒しよう」「腐っても大国は大国だ」「ことがことだけに、両親に相談はできない」

付記:どのように用いられるかは用例によるものの、〇〇の慣用的な意味を強調する場合が多いように思われます。


【修辞疑問法(レトリカル・クエスチョン )】

概説:疑問文を利用して、平叙文(客観的な事実を述べるのに用いられる文)の意味に近いことを表現する技法。

用例:「誰がこの悲劇を予想できただろうか」「こんな結末が望まれていたというのか?」

付記:疑問文との区別が曖昧な表現もあります。本当に疑問として言っている可能性もあり得るためです。


【暗示的看過法(パラレプシス)】

概説:逆言法とも。言わないといいつつ言ってしまう(実質的に言っている)という表現技法。

用例:「昨日の醜態については言わぬが花だろう」「この素晴らしさを言葉で表すことはできそうにない」「さっきの事とはとは特に関係のないのだが」「誰とは言わないが」

付記:強い強調を表すこともあれば、ツッコミを期待したギャグにもなる技法です。


【婉曲語法(ユーフェミズム)】

概説:対象に直接言及せず、遠回しに表現する技法。直喩、隠喩、換喩等の応用技法であり、気遣いや敬語表現として用いられる。

用例:「母は五年前に遠くへ行ってしまいました」「ぽっちゃり体型」「一般職(女性限定職の婉曲語法として用いられる場合)」「化粧室」

付記:前述の抑言法を用いる場合もあります。

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