《 第12話 不思議な夢を見た 》

 親友の宿泊に、俺のテンションはぶち上がっていた。


 悠里と遊ぶのはいつものことだが、夜中遊ぶのははじめてだ。いつもと違う感じがして、新鮮で楽しく感じられる。


「うっし。俺の勝ち~」


「あー、また負けちゃった~。春馬、どんどん強くなってきてない?」


「俺は戦いのなかで成長するタイプだからなっ」


「にしても成長しすぎだよ。最初はボクの圧勝だったのに」


「まあ最近は千尋相手に接待プレイばっかだったからな。腕がなまってたんだよ」


「ちゃんと勝たせてあげてるんだね」


「さすがに5歳児相手に本気を出すのは大人げないしな」


 千尋の嬉しそうな顔を見るのはそれはそれで楽しいが、やっぱりゲームはガチってなんぼだ。お互いに本気で戦い、その上で勝利を収めるのは気持ちいい。


「次はどのコースにする? 悠里が決めていいぜ」


「そうだね、次は……ふわあぁあ」


 悠里が大あくびをかます。


 もう3時過ぎ。いつもならとっくに寝ている時間だ。寝かさないとは言ったけど、無理に徹夜させるつもりはない。


 ゲームなら明日もできるんだ。今日のところは切り上げるか。


「そろそろ寝るか?」


「ん~……まだまだ平気だよ。次はこのコースにしようかな」


 平気らしいのでゲームを続行したが、あくびの回数が増えてきた。集中力も切れたようで、俺はぶっちぎりでゴールする。


「もう寝るか」


「ボクはまだまだ起きてて平気……ふわあぁあ」


「どう見ても眠そうなんだが……あんま無理するなよ」


 俺のために徹夜してくれるのは嬉しいが、親友に無理はさせたくない。


 基本的に悠里はエネルギッシュだし、体育のバスケでも動きまわっているが、月1ペースで見学にまわっているからな。元々そんなに身体が強くないのかもしれない。


 ゲームを強制終了させ、ささっと片付けを済ませる。


 悠里はその場に座ったまま、おどおどしていた。


「このあとトランプとかするの……?」


「いやもう寝るよ」


「そ、そう……。それって、ベッドでだよね?」


「いまさら布団を取りには行けないしな」


 布団は和室の押し入れだ。和室では母さんたちが川の字になって寝ているし、いま押し入れに取りに行けば千尋を起こしてしまいかねない。


「べ、べつにボクは床でもいいけど……」


「遠慮するなよ。ほら、消すぞ」


 部屋の明かりを消してベッドに潜り込む。


 ためらうような間のあと、悠里は「お、お邪魔します……」と遠慮がちにベッドに入ってきた。ちょっとでも身じろぎすれば身体と身体が触れ合いそうだ。


 小学生のときは泊まりに来た友達と同じベッドで寝ていたが、中学に入ってからは布団を敷くようになり、高校生になってからはお泊まりイベント自体なくなった。


 それがお泊まりどころか、この歳になって男と一緒に寝ることになるとはな。


 嫌じゃないが。半端な仲だとちょい抵抗あるが、悠里は親友だしな。1年ちょいの付き合いだが、俺は悠里のことを兄弟みたいに思っている。悠里も同じように考えているからこそ、同じベッドで寝ようと言い出したのだろう。


「俺の枕使う?」


「う、ううん。なくても平気。ちなみにだけど……春馬って、寝相はいいほう?」


「悪くはないと思うぞ。心配しなくても蹴落としたりしないから」


「そ、そう。で、でも、ボクは寝相が悪いかもだから……ベッドから落ちちゃうかもだけど、気にしなくていいからね?」


「俺が起きてたらベッドに上げてやるよ」


「そ、そんなことしなくていいよ」


「気にするな。鍛えてるから楽勝だ。んじゃそろそろ寝るわ」


「う、うん。おやすみ……」


 暗闇のなか言葉を交わして目を瞑る。


 しかし……もう3時過ぎだが、さっきまで白熱したバトルを繰り広げていたのだ。おまけに昼寝をしたので、なかなか眠気がやってこない。


 それでも眠ろうとしていると、悠里がもぞもぞ動く。仰向けは落ち着かないのか、俺に背中を向け――


 ぷにっ。



「きゃっ」



 手に柔らかなものが触れた瞬間、悲鳴が響いた。


「ど、どうした?」


「ご、ごめん、声出しちゃって……」


「べつにいいけど……」


 ……さっきの悲鳴、なんか可愛かったな。


 それにめっちゃ良い匂いがする。悠里から良い匂いがするのはいつものことだが、こうして目を瞑っていると、まるで女子がとなりにいるみたいな錯覚に陥る。


 とはいえ相手は悠里だ。そりゃ顔は女子みたいに可愛いし、髪の毛だってサラサラしてるし、肌も柔らかく感じるが、れっきとした男だ。アホな錯覚に陥ってないで、さっさと寝るとしよう。


 目を瞑っていると、ほどなくして寝息が聞こえてきた。リズミカルな寝息を聞いていると、じわじわと睡魔が押し寄せてきて――



「うぅん……」



 悠里が寝返りを打ち、俺の胸元に転がってきた。


 暗闇に目が慣れ、悠里の寝顔がはっきり見える。


「……」


 めっちゃ可愛い寝顔だな。まつげも長いし肌も綺麗だし……初対面なら間違いなく女子だと勘違いする可愛さだ。


 ま、可愛かろうとなんだろうと悠里は男。一緒に寝ても緊張なんてしないけど――



「んん……」



 悠里が俺の身体に腕をまわし、さらに脚を絡めてきた。触れたところに柔らかさを感じる。まるで女子に添い寝されている気分。


 い、いやでも、悠里は男なんだ。そりゃ感触は女子っぽいが、それでも男。女子はもっと柔らかいに違いない。


 そう自分に言い聞かせ、悠里に対する謎のドキドキを静めると、次第にじわじわと眠気が押し寄せてきて――……



     ◆



 ……その日、俺は不思議な夢を見た。


 悠里に『実は女なの!』とカミングアウトされる、ぜったいにあり得ない夢を。


 一向に信じようとしない俺の手を胸元へ誘導し、それでも信じずにいると、悠里はスラックスを脱いでパンツを見せる。


 そこには男にあるべき膨らみがなく、否応なく女子として意識させられる。


 いままで通りに仲良くしてほしいと言われたが、女子を相手にべたべた絡むなんてできるわけがなく……。


 俺の心中を察したのか、悠里はとても悲しそうな顔をする。


 そんな夢にしては妙にリアルな、まるで実際に体験したかのような不思議な夢を。

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