第4話








 「えー、みなさん。今日は抜き打ち試験を行います」




 三回目のタイムリープ、四回目の試験。












 ゆっくりと振り返るとアンヌの姿。








 「うぅ……アンヌ……」




 泣き出すマリー。








 「どうしたの!? そんなに試験が嫌なの!?」




 四回目の試験は泣いてばかりで答案は真っ白だった。












 「どうしたんだのよ、マリー?」 




 泣いているマリーに駆け寄るアンヌ。








 「アンヌ……ごめんね……」




 「どういうことよ……?」








 マリーは必死にタイムリープの説明をした。




 泣いているせいで三回目のタイムリープの時より上手く説明は出来なかったが、ただ事じゃないマリーの雰囲気からか三回目よりアンヌは信じているようだった。








 「なるほど……モーリス様が……」




 「うん……アンヌも……私を助けるために……ごめんねぇぇぇえ」




 「ええい! うるさいわね! いつまでも泣くな! 対策を練るわよ!」




 「ううぅ……頼りになるよ、アンヌ……ありがとう……かっこよかったよ」




 「う、うるさいわね!」




 顔を赤らめるアンヌ。












 「マリー! 試験中ずっと泣いてたけどどうしたの?」




 「うぅ……モーリス様……」




 「ええい! 泣くな!」




 アンヌはマリーを引っ叩く。












 前回と同じようにモーリスにも伝えるマリー。




 今回は火事で殺されたこと、アンヌも殺されたことも。












 「……タイムリープ……?」




 別人のように憔悴しきったマリーを見てモーリスは疑うことはなかった。








 「信じるよ……マリー、大丈夫かい? 僕のためにつらい思いをさせてすまない……」




 モーリスはマリーを抱きしめる。








 この数回のタイムリープでマリーがどれだけつらい目にあったのかは一目見て察したモーリス。








 「うぅ……みんなで……生き延びましょう……必ず!」




 マリーも強く抱きしめる。








 「……お二人とも……急ぎましょう。私も死にたくないです……」




 アンヌはクールだ。
















 三人はすぐに学校を早退する。








 「僕の家に行こう。この時間ならまだ父上もいるはずだ。信じてもらえるか分からないけど……いや、必ず説得してみせる。マリーの頑張りを無駄にすることはできない!」








 モーリスの豪邸に到着する。警備もしっかりしている。これなら火事以外は安心だろう。




 そもそも今の世界では、モーリスがフレデリック親子を疑っていることは誰も知らない。




 狙われる心配もないだろう。












 「父上!」




 「モーリス!? そのお嬢さんたちは? ん、学校はどうしたんじゃ?」




 「大事なお話があります」




 「ふむ……」




 モーリスの父親、精悍な顔つきの頼りになりそうな貴族だ。








 「旦那様、来客がいらっしゃいましたが……」




 執事がモーリスの父親に告げる。








 「すまないが客には待っててもらえ。息子が大事な話があるようじゃ」




 「父上……」








 真剣なモーリスを見て、父親は仕事の手を止めた。








「ワシの書斎へ行こう。しかし、お前が女性を二人も連れて学校をサボるとはなぁ! 悪ガキになったもんじゃ!」




 「ち、違います!」




 「ガッハッハ、いいんだ。ワシだって若いことは遊んだもんじゃぞ!」




 「違うんですよ……」




 優しいモーリスの父親を見て、マリーはなんとかなるかもしれない、そう思った。












 「さて、話というのは?」




 「実は……」




 モーリスは話を始めた。ピエール親子の怪しい取引、マリーのタイムリープのこと、モーリスと父親か焼き殺されること。








 「うむ……なるほど」




 すべてを聞いた父親は思ったより動揺していなかった。








 「マリーとやら、今の話は本当かね?」




 父親はマリーに問いかける。








 「は、はい……本当です」




 「そうか……」




 「とても信じられないのは分かるんですけど……本当に」




 「いや、信じるよ」




 「え?」




 「君たちが嘘をついていないことくらい目を見れば分かるわい」




 「父上……」








 「なるほど……確かに弟ピエールの貿易業で怪しい動きがあるのは少し前から気づいてとったが……よくそこまで調べたなモーリス。さすがワシの息子じゃな。




 しかし、証拠がない。このままでは弟を捕まえることはできないじゃろう。ワシの方で調べてみよう……このことはくれぐれも内密にな。




よく伝えてくれた。警備を強化して、念のためお嬢さんたちの護衛もつけさせよう」








 「ありがとうございます!」








 よかった、何度もタイムリープをした甲斐があった! これで平和な日常が戻ってくる!




マリーはそう思った。








 「……で、モーリスよ。どっちがお前の彼女なんじゃ?」




 「か、彼女なんて! ただのクラスメイトです!」




 父親の質問に慌てふためくモーリス。












 「あー、私じゃないです。たぶんこっちです」




 アンヌはマリーを指さす。








 「ガッハッハ、やっぱりか!」




 「彼女なんて……とんでもないです! ちょっとお手洗い借りますね……」








 緊張が解けたマリー、彼女扱いに恥ずかしくなりトイレに逃げ出す。












 さっそく執事を呼び、警備の強化とマリー、アンヌに護衛を付けるよう伝える。








 「かしこまりました。……あれ? 旦那様、弟さまはお見えになってませんか?」




 「なに!? どういうことじゃ?」




 執事のいきなりの言葉に凍りつく。








 「弟……ピエールがここに?」












 「モーリス様達がいらっしゃって、来客は待たせておくよう仰っていたので待ってもらっていたのですが……」




 「来客というのは弟のピエールだったのか?」




 「はい……ピエール様は書斎に向かうと……弟さまですし止めませんでしたが……」




 「なんてことじゃ……しかし、ピエールは書斎には来ていないぞ?」








 「……そういえば、マリーがお手洗いに行くって……!」




 アンヌは怯えている。




 前の世界で自分を殺すよう仕向けた人物が近くにいつかもしれないのだ。








 「まさか……今の話は聞かれてないじゃろうな……」




 「……僕、見てきます」




 モーリスは部屋を飛び出す。








 この屋敷にフレデリックの父親のピエールが!?




 嫌な予感がする。

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