ギャンブルーレット~a gambling addict~

奇跡いのる

第1話 1/2で残酷な転生

 死んで早々、二択を迫られている。


 左の扉か右の扉か、どちらかを選び中に入らなければいけない。入らないという選択肢は貰えないそうだ。必ずどちらかを選ばないといけない。


 あからさまなイラストが扉に描かれている。

 左の扉には天使のマーク、右の扉にはドクロマークが描かれている。


「あの、絶対に選ばないといけない?」

「そうだ、絶対だ」

「あのー、チャンスパターンってないの?」

「何の話だ?‌ 御託はいい。早く選べ」


 俺の目の前には二つの扉、俺の背後にはおっかない顔の赤鬼が立っていて俺を急かしている。


「これ一回入って戻ってくることはできんの?」

「無理だ、一回限りの選択だ。戻ってくることはできない」

「じゃあ、せめてこの先何があるかだけ教えてよ 」

「片方は天国、片方は地獄だ」

「あの扉のイラストの信頼度って何パーセント?」

「信頼度? なんの話をしている?」

「いや、だから、あからさまじゃん? あんなの絶対に引っかけでしょ?」

「それは入ってみなければ分からない」


 埒が明かない。引っかけ問題とみせかけて、逆のパターンもありそうだ。更にそう思わせて、正真正銘引っかけパターンかもしれない。この手の二択は考え出すとキリがない。直感を信じたいところだが、地獄には行きたくねえ。


「神様っていないの?」

「神はここにはいない。ここは私が任されている」

「ワンチャン、俺が間違って死んだパターンとかないの?本来は死なない運命だったとか?」

「何を言っている?お前は既に死んでいる。さあ早く選ぶのだ」


 なんかさ、こういうのって普通、女神とか天使とか出てきて『あなたは間違って死んでしまいました。可哀想なので転生させましょう』みたいな展開になるんじゃないのか?

 なんで死んで早々おっかない赤鬼に睨まれなきゃいけないんだよ。せめてカワイイ鬼に睨まれたい。


「転生パターンってないの?」

「なんだ貴様、転生したいのか?」

「え?あんの? そのパターンあんのか?」

「ある」

「マジかよ。じゃあ、転生パターンで」

「それではどちらかの扉を選べ」

「いや、どちらかって、天国か地獄しかないんでしょ?」

「転生パターンを用意した。片方は天国のように順調な転生ライフ、ハーレムありなんでもありだ。もう片方は……」

「もう片方はなんだよ?」

「地獄のような試練ばかり待ち受けている、女にもモテない、能力ももらえない、確実に人間に転生できるという保証も出来ない」


 なんだそりゃ?

 結局、天国か地獄ってことじゃねえのか?


「ところでさ、あんた名前は?」

「赤鬼だ」

「いやぁ、そうじゃなくて、名前ないの?」

「名前が赤鬼なのだ」

「あ、そういうこと? 」

「どうでもいいから早く扉を選べっ」


 なんとかどうでもいい話をして時間を稼ごうと思ったが通用しないみたいだ。


 天国か地獄。

 天国のような転生ライフか地獄のような転生ライフ。どちらを選ぶにしても、今の俺のままではいられないだろう。転生ってことは生まれ変わるってことだもんな、たいしてカッコよくはないけど二十年も連れ添った自分の顔に、少しではあるが愛着が湧いている。今生の別れだと思うと尚更だ。


 しかし、天国と地獄の確率は50%ずつ。

 こういう選択を迫られた時、ことごとくダメな方の50%を選んできたのが俺の人生だった。


 直感を信じて、なんて言ってもその直感とやらは何のアテにもなりはしない。だからと言って、裏をかいたつもりで裏をかかれるのだ。


 俺は生まれてこの方、つくづく運というものに見放されて生きてきた。運なんてものは幻想だ。都市伝説だ。俺にとっては単なる「うん」という響きに過ぎない。そうじゃなきゃこの若さで死んだりしないだろう。ろくでもない人生だったが、それ以上にろくでもない人生の最期だった。






 


















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