第33話 少しばかりの平穏


話中に聞いた事のあるワードが出て来ますが、現実の組織、団体とは一切関係ありません。また一部分詳細に書かないが故に説明不足を感じる方もいると思いますが、ご了承願います。

宜しくお願いします。


―――――


 三学期が始まった。俺はいつもの様に登校し教室に入ると絵里と真理愛は来ていた。絵里は仲のいい友達と話をしている。真理愛は本を読んでいた。


 俺が席に着くと

「「悠おはよう」」

「二人共おはよう」


 俺はバッグから本を取出して読もうとすると真理愛が

「悠、今日の放課後、話が有るの。一緒に帰ってくれない?」

「話?学校じゃ出来ないのか」

 出来れば今日の放課後は、あの三人の前にぶら下げる餌を考えたいんだが。


「うん、どうしても外で話しをしたい」

 工藤さん、悠へ話って何?


「真理愛、悪いが今日は用事が有るから一人で帰りたいんだ」

「でも…」

「来週じゃ、駄目か?」

「それって土日も会えないって事?」

「ああ、ちょっと忙しくてな」

 彼女は俺が学術会議小委員会に参加している事を知っている。暗に学術会議の方が忙しい事を匂わせた。


「そうか、悠忙しいものね。分かった来週にする」



 俺が、本に気を向けようとすると今度は絵里が、

「悠、私も話が有るんだけど、来週いいかな?」

「ああ、来週なら良いぞ」

「ちょっと、待って友坂さん。悠に約束したのは私が先よ。だから私が先に会うの」

「どうぞ。悠、それで良いわよね」


 まったく。勝手に人にスケジュール押し付けるな。


「絵里も真理愛も俺の都合を聞かないのか?」

「「ごめんなさい」」

「来週になってから会える日を教えるから。最近少し忙しんだ」

「「分かった」」


 何故か、二人が俺越しに睨み合っている。困ったものだ。俺と二人の会話を周りの人が思い切り聞いているじゃないか。

始業式早々、男子からの妬みと嫉妬の視線が激しいな。早々に対策打たないとくだらない事が起きそうだ。



 放課後、今日は図書室も開いていない。教室の生徒が少なくなった所で、俺も帰ろうとすると声を掛けられた。三人の男子だ。

「坂口、ちょっと付き合ってくれないか?」

「忙しいんだ。またにしてくれ」

「なあに、ちょっとでいいんだ」


 俺の腕を掴もうとした男子の腕をそのまま流して捻ると

「忙しいと言ったはずだが」

「離せ」

「俺が帰っていいなら離すが」


 後の二人が俺を捕まえようとしたので、腕を掴んでいる男を突き離すと、その二人の俺を捕まえようとした腕をそのまま流して軽く背中を押した。二人とも簡単によろめいた。


「止めとけよ。大事な二年の三学期だろう。それとも右腕を使えなくしてやってもいいぞ」


 俺の言葉に後の二人が一瞬震えあがり

「なあ、もういいだろう。だから無理だって言ったんだ。坂口には敵わないって」

「くそ、覚えておけよ」

 最初に俺の腕を掴もうとした男が悔しそうな顔をして教室を出ると後の二人もそれに続いた。


 まだ帰っていない生徒が俺を見て、コソコソと何か言っている。どうせ俺の悪口だろう。それには構わずに教室を出て、下駄箱に行くと


 えっ?何故か真理愛が待っていた。

「帰ったんじゃないのか?」

「ううん、ちょっと心配になって」

「俺の事が心配?」

「うん、悠が教室にいない時に、男子三人が、坂口に話付けてやるとか言っていたから」

「その事か。もうすんだよ」

「えっ?!」


 俺は彼女を無視して帰ろうとすると

「駅まで一緒でいい?」

「それは構わない」



 俺達は何も話さずに校門を抜けると真理愛が周りをキョロキョロと見た後、

「悠、今日行っては駄目?」

「駄目と言ったはずだけど」

「どうしても?」

「どうしたんだ、来週会えると言っただろ」

「そうか、そうだよね。じゃあ私一番で良いよね」

「そういう約束だ」



 駅で悠と別れた。クリスマスイブの時に会ってしてもらったけど、元旦に会った時は着物を着ていた事もあり、する事が出来なかった。

 最近、悠の事を考えるとムズムズする。今週末も会えないという。どうしたらいいんだろう。私、おかしくなっちゃったのかな?



 俺はマンションに帰ったが、昼を食べていなかった。仕方なく一度普段着に着替えると朝利用しているコンビニまで走って行った。大した距離ではないし、この季節なら汗もかかない。


 コンビニの中に入るとレジには朝いる子はいなかった。まあ、あんなに朝から仕事しているんだ。昼過ぎまでやっている訳無いか。

 俺は棚にあるカツ弁を手に取ってレジに行こうとすると


「あの」

 声の方に振り向くと朝レジに立っている女の子が俺に声を掛けて来た。制服を着ているが、同じ高校の制服ではない。黙っていると


「あの、ちょっと、ちょっとだけでいいんです。お話できませんか?」

「俺と?」

「はい」

 俺はこの子に話をされるような事は無いんだが、まあ今日の朝もレジに立っていたし、少し位は良いか。


「いいよ。でも用事が有るから少しだけね」

「すみません。ありがとうございます」


 仕方なしについでに午前の紅茶を一緒に買うとイートインに二人で座った。彼女はコーヒーカップを持っている。俺が黙っていると


「あの、私、橋本加奈(はしもとかな)と言います。この近所に住んでいて、それで学校に行く前の数時間だけここのコンビニでレジ打ちしています」

「…………」

 この子はいったい俺に何を話したいんだ?


「それで、もし良かったら友達になれないかなと思って」

 そういう事か。はっきりって迷惑だが、毎朝顔を合わせている。無下に断るのもな。どうしたものか。


「私、可愛くないし背も低いし。やっぱり駄目ですよね」

「そんなことないよ。君は可愛いし、学校に行く前に毎朝ここで仕事しているなんて凄い事だよ」

「じゃあ、友達になってくれますか?」

「なんで俺なんかと。俺はどちらかと言うと人に好まれる人間じゃないんだけどな。こんな顔だし」


「そんなことないです。毎朝あれだけジョギング出来る人に悪い人はいないです。それに毎日見ていれば、かっこよく見えます」

 ジョギングしている人間に悪い人がいないなんてどんな根拠なんだ?


「なんで友達になりたいんだ?」

「毎日見ていて、出来れば話をしたいなと思って。それで友達になればそれが出来るかなって」

「友達になると言っても早々には会えないよ。学校も違うみたいだし」

「どこの学校なんですか?」

「市立桂川高校」

「えーっ!あの有名な進学校ですか。うわぁ、私なんか寿女子学園です。月とスッポンくらい違いますね」

 比較の仕方間違っていないか?俺が黙っていると


「そうですね。駄目そうですね。分かりました、話しかけて済みませんでした。失礼します」

「いやちょっと待って。俺坂口悠って言うんだ。友達になっても良いが、会えるのは朝だけだぞ」

「うん、それでもいいです。少しでも話せれば坂口君」


 それだけ言うと橋本さんはコンビニを出て行った。何か良く分からない。


―――――


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価★★★頂けると投稿意欲が沸きます。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

次回以降をお楽しみに。

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