第31話 友坂絵里はクリスマスを工夫する


話中に聞いた事のあるワードが出て来ますが、現実の組織、団体とは一切関係ありません。また一部分詳細に書かないが故に説明不足を感じる方もいると思いますが、ご了承願います。

宜しくお願いします。


―――――


 私、友坂絵里。坂口悠とは中学時代からの友人。そして彼は私にとって大切な友達。


 私がこんな事を考え始めたのは中学二年の頃から。

 高校を卒業したら大切な友達から大切なパートナーに変わると信じ込んでいた。だって、彼の周りの人間は彼の魅力が分からない理解出来ない人達だから。


 そうこれが私の油断だった。まさか高校二年にもなって彼に目を付けてくる人間が居たとは。それも飛び切り面倒な人。


 高校一年の頃、悠と知り合った高橋友恵は、心配していなかった。あんなお馬鹿さん、時間も掛からずに彼と別れるだろうと分かっていたから。

 案の定、簡単に別れた。勿論私が何をした訳でもない。理由は分からないけど誰かがあの馬鹿な男子達を焚きつけたんだろう。そして排除された。


 しかし、今度悠に近寄って来た人、工藤真理愛。現在の警察庁長官の娘で彼女を除く家族全員が帝都大学出身。彼女もその血を受け継いだのか、相当に頭が良いと分かる。


 私は、いつも悠と一緒だから一位は取れないけど、私の二位の座を揺るがす人間なんていないとうぬぼれていた。高校一年生の初めての中間試験の時、私に五点差で三位になった女の子を見て驚いた。


 めちゃくちゃ可愛い。芸能界にそのまま出ても直ぐに通用する程の可愛さだ。私だって容姿には自信があるが、私とは別の視点だ。

 だから、彼女の名前を私の要注意人物リストに載せた。



 昨日、悠は工藤さんと…多分熱い一日を過ごしているはず。悔しいけど私にはそれが出来ない。

 そりゃ、悠がさ、強引に私を求めてきたりしたら応じるかもしれないけど、あの人はそんな事する人じゃない。

 もし私をそんな目で見ていたら、当の昔に私は彼の物になっていた。でも普段遊んでいても、プールに行っても、海に遊びに行っても、こっちから触れても、彼が引くという感じ。

 だとしたら何故悠は工藤さんを抱いたんだろう。そりゃスタイルは良いし、可愛いけどそんな理由じゃ彼は女の子を抱かない。何か理由があるはず。


 こんなこと考えても答えは見つからない。むしろそんなことより今日をどうするかよ。


 目覚ましを見るとまだ午前七時だ。悠とは彼のマンションのある駅に午前十時に待ち合わせている。

 普通に食事してお話をしても悠の心には残らない。だから…でも本気にされたら、いや待って万が一もある。一応準備していこう。



 俺、坂口悠。目が覚めると午前九時近かった。やってしまった。朝の日課が出来なかった。

 昨日は流石に疲れた。彼女(真理愛)があんなに積極的来るなんて思わなかった。彼女なんで昨日はあんなに積極的だったんだろう。考えても仕方ないか。


 午前十時に絵里と駅で待ち合わせしている。そろそろ起きてシャワーを浴びるか。




 俺は午前十時十分前に駅に行くと絵里が既に来ていた。なんか今日は遅れ遅れだな。

「おはよ絵里」

「おはよ悠。こんな時は、待ったぁとか言うものよ」

「そうなのか?でも俺遅刻していないし」

「そういうものじゃない。言って!」

 何考えているんだ?


「おはよ絵里。待ったか?」

「うん、そんな事無いよ。じゃあ行こうか」

 えっ、これだけ?分からん?


「絵里、手にあるもの持つよ」

「ありがとう、頼むね」


 絵里から底が広い保温バッグを渡された。多分今日の料理が入っているんだろう。

「悠、スーパー寄っていい?」

「良いけど」

 昨日と同じだな。


「サラダやオードブルはやっぱり新鮮な具材使いたいから」

「了解だ」

 あっ、昨日真理愛が残していった野菜や料理が冷蔵庫に入っている。どうするか。正直に言うしかないか。


「絵里、実言うと」

「分かっているわ。昨日工藤さんとパーティやった時の余り物が冷蔵庫に入っているって言うんでしょ。構わないわよ。彼女が来た時使えば。その代り、私の残った具材は悠が使うか、私が使う」

「なんで分かるんだ?」

「だってスーパーに入る前に悠が言う言葉なんて決まっているじゃない」

 そういう事か。まあ絵里は昨日真理愛とパーティするって知っているしな。



 スーパーに買い物かごを持って中に入ると

「悠、私が持って来た物は、取敢えず私が持つから」

「いや俺が持つ」

「そう、じゃあお願いね」

 一応礼儀で言っておいた。



 スーパーから出て来た時、俺の右手には絵里の荷物とスーパーの袋一つ、左手にはスーパーの袋二つを持っていた。

「絵里、流石に買い過ぎじゃないか」

「いいの」


 工藤さんの冷蔵庫の物は奥に仕舞って悠の目の付かない様にするんだ。



 マンションについて、玄関を開けると取敢えず荷物をキッチンにおいてから洗面所に手を洗いに行った。

 絵里が先に洗い俺が次に洗う。後ろを振り返ると絵里はもうキッチンに言っていた。まあ当たり前だよな。それに絵里がそんな事するはずないし。



 悠が手を洗っている内に冷蔵庫を開けて、工藤さんが入れてあった料理の残りや野菜を奥の方に入れると私が買って来た野菜や肉それにホールケーキを入れた。生肉が残っていないという事は、直ぐにこの部屋に工藤さんが再訪する事は無いようね。


 洗い籠には二人分のお皿やフォーク、ナイフ、取り皿、スプーンカップが残されていた。大体何を食べたか分かる。テーブルクロスも敷いたままだ。全く!

 しかし、あの子結構料理も出来るんだ。益々不味いな。




 絵里の料理する手際は見事だった。真理愛も上手だったけど。俺が見ていると

「悠、手伝って。サラダとオードブルの取り皿、それにチキンを載せる大きめのお皿ね。昨日使った洗い籠にあるものでいいわ」


 悔しいけどそうするしかない。二人分の食器しかないから。


 今日の朝、食器片づけておけばよかったかな。絵里に悪い気分にさせたかな。


「悠、気にしなくて良いわよ。仕方ないでしょ」

「悪いな」

「謝る必要なんてないわ。ここは悠の家よ」

 私の家になるのかな?



 準備が終わり料理が出そろうと俺がグレープサイダーを氷の入っている二人のグラスに注いだ。

「「メリークリスマス」」


「悠、これ、クリスマスカードとプレゼント」

「えっ、俺何も用意していない」

「いいのよ。悠が喜んでくれれば」

「開けていいか?」

「もちろん」


 俺はクリスマスカードを開けると


 私の大切な友達、悠へ

 今は、色々大変みたいだけど、私に出来る事が有るなら教えて。物理的な事は無理だけど心の支えにはなりたい。

 そして出来れば、毎年こうして悠と一緒にクリスマスパーティを開きたい。

 絵里より


 ジンと来るとはこういう事か。絵里とならそう出来るかも知れない。でも今はこの子を巻き込む訳にはいかない。


「絵里、とても嬉しいよ。ありがとうクリスマスカード」

「ふふっ、そう言ってくれると嬉しいな。プレゼントも開けて」

「ああ」


 俺は包みを開いて縦長のハードケースの蓋を開けると黒革の手袋が入っていた。薄くて付け心地が良い。

「これ高かったろ、嬉しいよ」

「気にしないで。喜んでくれて嬉しいわ」

 諭吉さんと樋口さんが一枚ずつ飛んだけど。



 それから俺達は絵里の作ってくれた料理を堪能した。昨日のチキンもホールだったが、今日もホールだ。結構お腹に来る。


「ふふっ、悠、今日一日で食べなくても後でチキンサラダにしてあげるから。悠もコンビニだけじゃ嫌でしょ」

「はははっ、そうだな」



 食べ終わり、食器は二人で片付けた。絵里が洗って俺が拭いて、食器棚に仕舞う。昨日これしておけば良かった。


 終わると絵里が暖かいミルクティを淹れてくれた。


 リビングのローテーブルを挟んで二人で対面で座る。


「悠、突然だけど、高校出たらどうするの?あなたの事だから日本の大学なんて行かないでしょ」

「ああ、一応スタンフォード大を目指している。学術会議の小委員会とは別の部会であの大学出身の人がいるんだ。その人が向こうの教授に推薦状を書いてくれる」

「まあ、あなたなら試験なんて受ける必要無いだろうしね」

「まあな」

「ねえ、悠、それって私付いて行っちゃ駄目?」

「えっ?どういう意味?」

「そのまんまの意味。私、悠がいない日本の大学なんて興味無い。駄目かな」

「…………」

 何でこいつこういう事言うんだ。俺なんかに付いて来ても仕方ないだろうに。


「悠、私あなたと一緒に居たい。本当はこの言葉三年生になってから言うつもりだったけど、それじゃあ間に合わなくなりそうだから、今言う事にした」

 そういう事か。しかしなあ。絵里は良い子だけど。俺に付いて来てもがっかりするだけだし、もしあの件で俺が公になったら絵里に迷惑が掛かる。


「絵里、それ本気で言っているのか?」

「冗談で言える訳無いでしょ」

「はっきり言っておく。俺みたいな人間を選択しては駄目だ。俺は絵里の事大切な友達と思っている。でも俺は絵里に相応しくない。もっとまともな人間を選べ」


「それって、もう工藤さんに決めたって訳?」

「そうじゃない。彼女は一時の…。聞かなかった事にしてくれ」

 どういう事。悠は彼女を一時的な相手だと言った。まさかこの人が遊びで女の子といい関係になるとは思えない。絶対彼女と悠の間に何か有るんだ。


「じゃあ、悠。私の一番大切なものを今あげると言っても同じ返事」

「絵里、誤ってはいけない。先も言った。お前は俺の大切な友達だ。そんな事出来る訳がない」

 この手は通用しないか。でも少し位、もう少しい言い方ないのかしら。


「でも高校終わったら悠と別れるなんて嫌だ。私は悠が好きなの!…あっ、言っちゃった」

「…………」

 顔を赤くしている。何考えているんだ、俺なんか好きになるな。


「絵里、今日の料理に興奮剤でも入れたのか」

「違う!こうよ」

「うわっ」


 いきなり絵里が俺の方に来て押し倒された。避けようも有ったが、目の前にティーカップが有って動けなかった。


 ぶちゅ!


 凄く乱暴だったけど、とても柔らかい唇だった。そして顔を真っ赤にして離れた。


「今日はここまで。この後は悠が私を受けて入れてくれるって言うまでお預けよ」

 俺どうすればいいんだ?


 その後、俺の隣にずっと座っていた。こちらから何を話しかけていいか分からない。まさか絵里がこんな事するなんて。


「悠、一緒に居たい」




「分かった。そこまで言うなら。でも時間がいる。それまでは俺の大切な友達で居てくれ」

「いいよ。キスは終わっている大切な友達で居てあげる。でも必ず声を掛けてよ」

「出来るなら」



 それから真理愛の話題に流れそうになったが適当に流した。しっかりと正月の初詣の約束もさせられた。



 午後五時位になって

「悠、私もう帰る」

「そうか。今日はありがとうな」

「うん」


 俺は、絵里の家のある駅まで送って行くとそこで別れた。



 どうしたものか。真理愛の偶然のきっかけは良かったが、絵里を今回の件に巻き込む訳には絶対に行かない。あれが表に出れば犯人探しが始まる。多分裏の世界で。その時絵里が俺の傍にいる事は考えられない。悪いな、俺の大切な友達。


―――――


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価★★★頂けると投稿意欲が沸きます。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

次回以降をお楽しみに。

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