第26話 友坂絵里は考える


友坂絵里視点です。


―――――


 私、友坂絵里。私の家は普通のサラリーマン家庭。お父さんは商社の営業マン。忙しくて帰宅するのが遅い。偶に帰ってこない時もある。出張も多い。だから私はどちらかと言うとお母さんっ子。

 お母さんは専業主婦だったけど、私が大きくなった事もあって、最近はパートに出ている様だ。お金には困っていないから多分暇つぶしだろう。


 私はどちらかと言うとお父さん似。もちろんお母さんにも似ているけど。顔は綺麗な方だと思っている。性格は明るい方。同性の友達も一杯いる。告白は中学の頃から一杯されたけど、付き合う気は無かった。その理由は中学に入ってからの事。


 中学に入って、一ヶ月もしない内に面白い子を見つけた。明るくってよく笑う。目がいつも睨んでいる様な感じだけど、見慣れればそんなに怖くない。


 そいつには、小学校の頃から仲の良い男友達がいていつも一緒に遊んでいた。二人共顔つきの所為か、先輩達に呼ばれる事が多かった。でも二人だけが何も無かった様に帰って来て、その後、先輩達が酷い姿になって帰って来た。


 そしてそれよりも凄いと思ったのは、その子の頭脳。私達が一生懸命算数や理科、英語を勉強しているのに、ほとんど何もしないで試験はいつも満点。


 気になって聞いてみたら、もう大学の勉強も終わっているって言っていた。始め冗談かと思っていたけど、彼が読んでいる本は私には全く分からなかった。英語らしいけどその本には見たこともない図や数式が書かれていた。


 その子の名前は坂口悠。そして友人は北沢芳美。


 私は彼らと少しずつ話すようになった。周りの友達は近付くのは止めた方が良いと言っていたけど、話してみれば普通の中学生だ。


 だから、良く一緒に遊んだ。夏は一緒にプールや海へ遊びに行った。花火を一緒に見に行きもした。

 坂口君の家に行って、坂口君のお母さんやお姉さん共仲良くなり良く話した。二人ともとても綺麗ない人で、坂口君はお父さん似だと思った。


 私は、中学に入学したあたりから、体がどんどん成長して女らしくなって、色々な人から声を掛けられるようになった。告白なんか数えきれない位。その中には悪い奴もいたけど、いつも二人が私を守ってくれた。



 北沢君の方が、街の不良と付き合う様になっていたが、坂口君を誘ったりは絶対しなかった。そんな北沢君と坂口君や私が一緒に遊んでいる事を危惧した友達から気を付ける様に何度も言われたけど、二人が変な様子を見せる事は一度も無かった。

この頃から私は坂口君を悠、彼は私の事を絵里と呼ぶようになった。悠は北沢君の事を中学入る前から芳美と名前呼びんしていたけど、私は彼の方だけは苗字読みにした。特に意味はない。




 そしてあれが起こった。三年生の夏休みも中頃を過ぎた頃、二学期が始まる前にもう一度悠達と会いたくてスマホで連絡したけど、出なかった。何度も電話したけど出なかった。仕方なしに悠のお姉さんに電話したけど…出なかった。


 これはおかしいと思い、悠の家に行った時、パトカーが何台も停まっていた。事件は前の夜起こったらしく、坂口家には、悠とお父さんしかいなかった。

 しかし悠のお父さんは顔に包帯を巻いて、足にもけがをしていたようだ。悠はちょっとしか怪我をしてなかった。


 悠の友達という事で家の中には入れたけど、彼の顔を見た時、自分の目を疑った。彼の眼は深い海の底を見ている様な捉えどころのない瞳をして、鋭かった目が余計鋭くなっていた。

 少しだけ、彼と目が合ったが、一瞬目を逸らしたほどだった。悠に声を掛けたけど碌に返事はして貰えなかった。彼のお父さんが、今日は帰って欲しいと言われ、結局何が起きたかは知らないまま、自分の家に戻った。


 あれだけ一杯パトカーがいたのに全国ネットのニュースはおろか、ローカルニュースにも全く出なかった。

 どうやって知ったのか知らないけどお母さんが、悠がいない時に宅配を装った三人の男に乱入され、家族が襲われた。その後帰って来た悠が、その三人を無残なまでに叩き潰したと聞いた。


 二学期が始まったけど、彼は直ぐに学校に出て来なかった。二週間ぐらいして登校した時は、夏休み一緒に遊んだ悠の姿はなく、友達が声を掛けても睨みつける様な目付きだけになって口も聞く事が出来なかった。


 私は時間を掛けてゆっくりと少しずつ話すようになったけど、それでも朝の挨拶位だった。

 少しだけ話せる様になったのは、二学期も終りの頃。それまで彼は何回も遠くを見ては悲しい顔をしてそして鋭い目つきに変わった。


 もうクラスの子は誰も彼に話しかける事は無かった。ただ、別のクラスだけど北沢だけが悠と普通に話す事が出来たようだ。



 そして、この市立桂川高校に入った。ここは名門進学校。そしてバカロレア認定校でもある。ここを卒業出来れば世界のあらゆる有名大学を受験する資格が得られる。

北沢の頭では絶対に入れない、だから高校に入ったら悠と私だけ思っていたら、何処をどうしたか分からないが北沢も入学して来た。驚いたけど、悠が教えたんだろう。出なければ北沢の頭では絶対に入れない。




 私が、悠に恋心を抱いたのは、中学二年の時、明るくて強くて頭が飛びぬけて良くて、私にとても優しい。その彼の側にいつもいて一杯話しているうちに、こんな子と恋人になれたらいいなと思った。

 

 そしてその気持ちはあの事件以来、益々強くなった。だから、私はなるべく彼の側に居て彼を見守りながらゆっくりと彼の心を癒して行くつもりだった。そして将来は彼のパートナーになる。それが私の描いた未来予想図だ。



 しかし高校二年になって、また悠と同じクラスになってラッキーと思っていた矢先、彼女工藤真理愛が、同じクラスになった事を良い事に悠に急に近づいて来た。


 彼女はこの市立桂川高校一の可愛い女の子と言われている。成績も私といつも二位争いをしている。

 この前の二学期中間試験では彼女に二位の位置をたった五点差で譲ってしまった。それだけではない、最近工藤さんと悠が異常に仲がいい。夏休み過ぎた時は、まだそうでもなかったのに、途中から悠は彼女を私より優先するようになった。


 やがて、そう女性だから分かる。明らかにあの二人は体の関係が出来た事を感じ取れた。どうやって悠の心の中に入り込んだのかは分からない。


 このままでは工藤さんに悠を取られてしまう。いや取られたのかも知れない。もう私が彼に私の初めてをあげても意味がなくなってしまった。

 

 でも私達はまだ高校生。それも二年生。何が起こるか分からない。高橋さんの様に。いまはあの二人を見ているしかない。


―――――


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価★★★頂けると投稿意欲が沸きます。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

次回以降をお楽しみに。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る