第23話 下調べには準備が必要


 話中に聞いた事のあるワードが出て来ますが、現実の組織、団体とは一切関係ありません。また一部分詳細に書かないが故に説明不足を感じる方もいると思いますが、ご了承願います。

 宜しくお願いします。


―――――


 俺、坂口悠。工藤さんから聞いた情報をもっと広げる必要が有る。その為には準備が必要だ。

 学術会議のメンバーの中から警視総監に近い人を探しだし、俺のサイバーセキュリティ対策に対するプランをいう。そして俺をその対策室の運営メンバーにして貰う。資格は無いが、大した問題ではないだろう。



 月末近くになると開かれる学術会議小委員会に出席した。俺に依頼された調査報告が終わり、他の人の報告も終わると座長がまとめた。委員会が閉会すると直ぐに座長に近寄って

「座長、少しお願いが有るんですが」

「何だね坂口君?」

「実は、近頃多くなっているサイバー犯罪について俺の考えを聞いて頂きたいんですけど」

「これは珍しい事を言うな。君がそんな俗世間の事を気にするとは。まあいいこの後時間有るかね」

「はい」


 座長は俺を料亭に連れて来た。どうしてこんな所に?

「坂口君、君の量子力学の永遠のテーマに対する今日のレポート素晴らしかったよ。君ならこの分野でのノーベル賞を貰える人だと思っている。

 いずれも天文物理学、理論物理学そして数学者としての君の才能に負うところが大きい。

 そんな知識を持つ君が、サイバーセキュリティなんて子供じみた世界に興味を持つとは意外だ。まあ、君程の人間だ。理由は聞かん。で、誰を紹介して欲しいんだ」


「警視総監と警視庁サイバーセキュリティ対策室本部長です」

「ほう、珍しい人達だな。私はその辺に縁が有ってな。紹介は出来るが、後は君の力で話を進めてくれ。私では役に立たないだろうからな」

「ありがとうございます」

「今日は、小委員会に協力してくれている君への気持ちだ。遠慮なく食べてくれ」

「はい、頂きます」


 これで、こっちの準備は出来る。



 次にレシーバの改造だ。発信には免許がいるが、レシーバは制約がない。どんなに受信帯域幅が広いレシーバを購入しても違法にはならない。

 そして受信後の電波分析ソフトだ。音声画像通信パケットだけを拾って分析すればいい。どんなに暗号化されても精々SSL128程度だろう。外に出れば防ぎようがない。

 これに改良をいれて受信電波を狙い撃ち出来る様にしてもいい。これは俺が作る。これであらゆる状況での工藤さんの会話、兄の会話そして関係者の会話が傍受できる。

 工藤さんの家庭の事は、もっと彼女と仲良くなってから聞けばいいだろう。

 

 少し機材に金が掛かるがあれを使えば問題ない。そこまで出来れば、後はターゲットが社会的に自滅するように追い込むか、餌を巻いて食いつかせ潰すかだ。


 だがターゲットには後ろ盾がありそうだ。俺に振り込まれた一億円は、工藤兄の血筋から出たものか、もしくは他のターゲットの関係者から出たものか。いずれにしろこれは日本の法律、刑事、民事の各訴訟法では大した刑にはならないし、社会的に葬り去れない。


 工藤真理愛か、良いきっかけが出来た。




 座長にお願いしていた要人と思いのほか早く会う事が出来た。場所は警視庁総監室。そこには副総監、サイバーセキュリティ対策室本部長、副本部長の他、十人近い関係者が集まっていた。こいつらはいつも群れたがる。まあいい。


 副総監が口を開いた。

「坂口君と言ったな。学術会議の知合いから珍しい子がいるから会ってやってくれと頼まれた。まさか高校二年生だとは思わなかったよ。しかし日本はおろか世界でも有数の頭脳を持っているというじゃないか…」

「副総監、回りくどい事はいい。みんな忙しいんだ。坂口君、君が考えているサイバーセキュリティ対策を聞かせてくれないか」

「分かりました」


 俺は、量子情報物理学から電子戦における情報分析と攻撃防御それに犯人を特定できる理論と構築方法を説明した。ハードソフト両面からの説明だ。

 ハッカーなんてプログラマレベルでは考えられない内容だ。プログラムなんて元々最下位工程の作業だからな。



「「「「……………」」」」

 皆黙ってしまっている。どうしたんだ。


「さ、坂口君。これは君一人で考えた事かね」

 サイバーセキュリティ対策本部長が聞いて来た。


「はい、この程度の事、さほど時間は掛かりませんでしたが」

 ちょっと大げさに言えばいいだろう。


「総監、これは一般対策ではなく、国レベルの電子戦で最高レベルです。G7の全ての国を相手にしても勝てます」

「「「「……………」」」」

 みんな固まってしまった。大した事では無いだろうに。


「わ、分かった。坂口君。少し時間をくれ。内部検討をする」

「総監、機密でお願いしますね」

 この位言っておかないとこいつら○○だからな。



 俺が警視庁を後にして一週間後、俺の案を採用すると連絡が来た。但し、はじめはターゲット限定でやりたいらしい。俺もその方がいい。こっちで手に入れた情報を役に立たせる。




 この間も学校には普通に登校した。学術会議の人達や警視庁の人達と会うのは夜か休日だ。学校には分からない。


「おはよう悠。最近少し疲れた顔しているけど?」

「絵里か、ああ、少し脳トレしているんでね」

「はぁ、なんであんたが?」

「使わないとさび着くからな」

「悠が言うとほんと嫌味に聞こえるわ。ねえ今日は私とお昼しよう」


「駄目ですよ。友坂さん。今日は私の番です」

「いいじゃないの工藤さん。私大事な話が有るんだ」

 えっ、大事な話。友坂さんが坂口君に?


「残念ね。私も坂口君に大事な話があるんだ」

「二人とも最近おかしいぞ。なんで俺なんかと一緒に昼食べたいんだよ。俺なんかと口聞いているとお前達に迷惑掛かるんじゃないか?」



「ねえ、ねえ、友坂さんと工藤さん、もう坂口君の将来の一つしかないポスト争いかな?」

「でも坂口君、二人に興味なさそうだし。私達もチャンス有るかもよ」


「「うるさい!」」

「「ひっ!ごめんなさい」」


「二人共いい加減にしろ。今日は工藤さんの日だ。絵里は諦めろ」

「だってぇ」

 おかしいわ、絶対におかしい。なんで工藤さんがここまで悠に執着するの。まだ肉体関係がある訳でもなさそうだし。

 工藤さんは高橋友恵の様なバカじゃないから始末に悪い。あの程度ならどうにでも出来たけど、この子はそうは行かない。何とかしたいけど。




 午前中の授業が終わり、昼休みになった。

「坂口君、いこか」

「ああ」


 悠が工藤さんと一緒に学食に行った。くやしい。でもなんでだろう。本当に分からない。私は悠と中学からの知合いで、あいつの性格も知っている。あいつが偶に見せる暗い表情の理由も。


 でも、あいつは本当は優しくて強くて明るい子。だからあの暗い面を私がゆっくりと優しく癒して行けばいいと思っていた。

 悠の知能は類まれなレベル。だから私が一生を掛けるだけの価値のある人。工藤さんが何を考えているか分からないけど、高校から一緒になった位で横取りされては堪らない。絶対に私に向かせて見せる。最後の手段を使っても。


―――――


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価★★★頂けると投稿意欲が沸きます。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

次回以降をお楽しみに。


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