第21話 工藤真理愛は考える


 私は、坂口君がいなくなった遊園地で一人立っていた。どうすればいいんだろう。とにかく今日は家に帰ろう。



 家に戻って、自分の部屋でローテーブルの前にあるクッションに座って考えた。


 あの時、彼は家という言葉、いや違う、坂口君の家という言葉に反応したんだ。という事は、彼が一瞬であれだけの状況になるだけの理由が彼の家にあるという事だ。


 地雷を踏んでしまったのかな。今日はもう駄目だろうけど明日もう一度連絡してみよう。でもどうやって。彼のスマホのアドレスを知らない。友坂さん知っているだろうけど彼女が私に彼のスマホの番号を教えてくれるとは思えない。





 あれからもう二週間が過ぎてしまった。夏休みも後二週間。私の頭の中は、いつも私の失敗の事ばかり浮かぶ。夏休み初めに考えた事が何一つ達成できていない。


 私は喉が渇いたので一階に降りるとリビングで声がした。行って見ると

「どうした真理愛。ここの所ずっと暗い顔しているけど」

「お父さん、私、友達になろうと思っていた子にとんでもない事を言ってしまったみたいで。謝ろうと思ったんだけど、まだスマホの連絡先も分からなくて」

「そうなのか。ところでその子の名前はなんていうんだ」

「坂口悠」


「なに!」

「えっ!」


 お父さんの顔が一瞬歪んだ。隣にいる顔の変わってしまったお兄さんも驚きというか怯えた様な表情を隠せないでいる。


「どうしたのお父さん、お兄さん?」


「い、いや何でもない。そうかそれは大変だな。夏休み明けまで待つしかないな」

「何とかならない。お父さんの力で」

「そ、そうだな。でもお父さん、なんでも出来る訳じゃないから」

「なんで、男の子のスマホのアドレス位簡単に探し出せるでしょ」

「真理愛、連絡先が分かったとしても、いきなり掛けたらなんで分かったんだと、向こうの子から言われるんじゃないか?」

「それはそうだけど…」



 私は諦めてキッチンの冷蔵庫にある缶ジュースを一本取り出すとそのまま自分の部屋に戻った。


 おかしい。なぜお父さんもお兄さんも坂口君の名前を出しただけであんなに驚いたんだろう。お兄さんは怯えている様だった。

 いつもなら男の子の持っているスマホの番号なんて簡単に分かるはず。どういう事?



 工藤真理愛の父と兄の会話

「父さん、まさか真理愛の知合いにあいつがいるなんて」

「ああ、まさかのまさかだ。だが、真理愛は何も知らない。我々も何も言わない事だ。しかしもうあれから二年、完全に無かった事にしたはずなのに。あいつらにはこんな事無いんだろうな」

「大丈夫だよ父さん。あいつらの兄妹で真理愛と同じ学校に行っている奴はいない。それに皆俺の様に顔はほとんど整形している。あいつのお陰でこうなったけど。だから分からないはずだ」

「何処で漏れるかも分からん。絶対に真理愛にはばれるなよ」

「分かっています」

「しかし二年も経ったというのに。もしばれたら力でねじ伏せるしかない。我が工藤家の為にも」





 私、工藤真理愛。結局夏休みの間に坂口君と会う事は出来なかった。そして二学期の始業式の日が来てしまった。


 教室に入り、自分の席に行くとまだ坂口君は来ていなかった。でも友坂さんは来ている。何か嬉しそうな顔をしている。あっ、坂口君が入って来た。


「悠、おはよう」

「おはよう絵里」


「あの坂口君、おはよう」

「おはよう工藤さん」

 良かった。あの時の事は引き摺っていないみたい。


「坂口君、もし良かったら、今日のお昼休みか放課後少し話せないかな?」

「駄目よ、工藤さん。悠は私と一緒にお昼食べるの、そして下校も私と一緒よ」

「えっ?!」

 なんで、なんで。夏休みの間にそうなったの?


「絵里、何でそうなる。俺はそんな事約束していない。いいよ工藤さん、お昼でも放課後でも」

「ほんとう、じゃあ放課後がいい」

「分かった」

「悠!」

「絵里、いいだろう。この位」

「でもう…」


 せっかく夏休みの前半二週間、二日間ずつ悠と会って一日中彼と一緒にいた。プールに行ったその週末会った時は、なにか苦い顔していたけど、理由は教えてくれなかった。


 でもその後は笑顔で私と遊んでくれた。その次の週も遊んでくれた。遊園地にも一緒に行った。買い物も一緒に行けた。


 だから二学期からはいつも側に居るつもりだったのに、いきなり工藤さんに横槍を入れられるとは。




 放課後になり

「坂口君、帰ろうか」

「ああ」

 友坂さんが私を睨んでいるけど無視をした。駅までは無口だった。

「坂口君、駅前のファミレスで良いかな?」

「いいよ」


 中に入りドリンクバーだけ頼むと

「坂口君、ごめんなさい」

「何の事?」

「あの…遊園地の時の。あの後謝ろうと思ったんだけど君のスマホの連絡先知らなくて」

「ああ、もう良いよ。それにあれは俺の方が悪かった。謝ろうと思っていたんだけど工藤さんのスマホの連絡先知らないし、連絡出来なくてごめん」

「えっ、そんな事ないよ。それに同じ事考えていたなら、今スマホの連絡先交換しようか」

「そうだな」

 やったあ。ちょっと前進。


「話それだけ?」

「ううん、違う。本当はあの時、君と一杯話したかったの。でもあんな事になって。だからもう一度どこかで会えないかなと思って」

「そんな事か。良いよ。あの時は俺が悪かったから工藤さんに合わせるよ」

「ほんと。じゃあ日曜日で良いかな。デパートのある駅に午前十時でどう?」

「分かった。午前十時ね」

「うん」


 良かった。今日は木曜日だから直ぐに坂口君と会う事が出来る。これであの時の事が出来る。今度は絶対に失敗しない様にしないと。




 俺は工藤さんと約束した日曜日午前十時十五分前にデパートの有る駅の改札にいた。まだ残暑が厳しい。紺のコットンパンツと白のTシャツだ。これでも汗が出て来そうだ。


 五分前になって工藤さんが現れた。肩まである艶やかな髪。丸く大きな目、鼻はスッとしていてプルンと出ている下唇が可愛い。

 絵里と並んで市立桂川高校では可愛さNo1と言われている理由が良く分かる。今日はピンクのTシャツと茶の膝上スカートだ。結構目立つな。


「坂口君おはよ」

「おはよ工藤さん」

「坂口君、公園でも行かない」

「いいよ」


 ここは改札を出て左に曲がりUターンするように更に曲がると川べりに公園がある。大きくないが人もあまりいない。



「坂口君、正直に言うね。今私の頭の中は君の事で一杯なんだ」

 どういう意味だ?


「どうしてこうなったのか。それはね。少しずつ君を見ている間に段々君に興味が湧いて来て、君の色々な事を知りたくなったの」

「なんで、俺の事知りたいんだ?」

「私が、君と友達になりたいから」

「今だって友達だろ」

「友達と言ってくれるんだ、ありがとう。でも、君の事を何も知らない。こんなのいや。もっともっと君の事知りたい。もっと君の事を知っている友達になりたい」


「俺の事知りたいって言っても何を知りたいんだ。ただの一高校生だぞ」

「ううん、君のその頭脳。君がこれから何処に行こうとしているか、その鋭い瞳の中にある悲愴感、君の恰好良さ。みんな知りたい」

「格好良さはともかく、言っても良いけど。…俺から一方的に言うだけ?」

「…そうだよね。いいよ。私の事色々聞いてくれても」

「分かった。じゃあ話すよ。全部言えるか分からないけど」


―――――


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価★★★頂けると投稿意欲が沸きます。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

次回以降をお楽しみに。

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