第13話 知ってしまったもの


 俺、坂口悠。GWは結局友恵とは会えなかった。学校に行った日も土日も家の用事があると言っていた。家の用事では仕方ないという事で諦めた。



 月曜日、俺はいつもの様に教室に入って自席の机の上にバッグを置く。いつもの様に予鈴が鳴るまで本を読もうと取り出すと

「悠、ちょっと良いかな」

「何だ絵里?」


 絵里に廊下に連れだされると窓から外の景色を見ながら

「あんた、高橋さんとはどうなの?」

「意味分からないんだが?」

「聞いての通りよ。まだ付き合ているの?」

「どういう意味だ。付き合っていては悪いのか」

「そういう事を言ってはいないわ。どうやら知らない様ね」


 俺達が廊下で話していると


「悠」

「友恵」

「悠、今日は図書室開けるから、その後一緒に帰ろ。お昼も一緒だよ」

「ああ、分かっている」

「じゃあ、お昼にね」



 そう言うと友恵は2Cの教室に入って行った。


「悠、もう良いわ」

「…………」

 絵里の奴、何を言いたかったんだ。




 午前中の授業が終わり、俺は学食に行った。早く来ればB定食は余裕を持って買える。自動券売機で食券を買いカウンタで受け取るといつもの様に窓際の席に座って待っている。


 入口が見える方の席に座って待っていると友恵が自分のお弁当を持って学食の入口に入って来た。あれ隣にいる知らない男子生徒と楽しそうに話をしている。誰だろう。


 その男子と別れてこっちにやって来た。


「悠、お待たせ」

テーブルにお弁当を置いて俺の向かい側の席に座ると自分のお弁当を広げた。


「なあ、友恵、入口で仲良く話をしていた男子って誰だ?」

「えっ、ああ片角君。同じクラスの子。学食で食べるというから一緒に来たの」

「そうか」

 何か言い方に違和感がある。気の所為か。


「ふふっ、悠、焼き餅焼いているの。嬉しいな。でも大丈夫よ。私は悠だけだから」

「や、焼き餅?焼いていないぞ。そうかクラスメイトか」

「ふふふっ…」

 悠、今日は一緒だから。



 図書室を閉めた後、前と同じ様に俺の部屋に来た。そして勉強とかしないであれをしようと言って来る。


 もうそれが当たり前になってしまった俺は抵抗なく相手するんだけど…。何かが違う。今までしない事を要求してきたり、友恵の感じ方も違う。


 一回終わったと

「どうしたんだ。前と違う感じがするんだけど?」

「えっ、気の所為だよ。でもちょっとWEBで見たりしちゃった。もっと悠と一緒に気持ち良くなりたいから」

 そういう事か。


「そんな事よりもっとして」

 今、悠にして貰っているけど、やっぱり片角君の方がめちゃくちゃ気持ちいい。でも先を見たら悠と一緒がいい。それに一ヶ月だけだし。ごめんね悠。 



 翌日、教室に入ると絵里と工藤さんから挨拶された。絵里は何故か俺を睨んでいる。いつもの様にバッグから本を取出して読んでいると隣の工藤さんが

「坂口君、今度お話しない?」

「俺は話す事無い」

「連れないなあ。私は君に話す事あるんだけど」

「それは工藤さんの胸に仕舞っておいてくれ。俺は興味ない」

「酷ーい!」


 つまらない話をしている内に予鈴が鳴って担任の加藤先生がやって来た。今日はピンクのスーツだ。デートでもするのかな?



 午前中の授業が終わり昼休みになったのでいつもの様に学食で待っていると入り口に友恵が現れた。この前の片角とかいうクラスメイトと楽しそうに話している。ちょっと胸が痛んだ。


「悠、お待たせ。さっ、食べよ」

「…………」

「どうしたの悠」

「いや何でもない。食べるか」




 放課後になり、いつもの様に図書室に行くとあれっ、知らない子が受付に座っている。


「あの高橋さんは?」

「今日は私の担当です。高橋さんは今日はここには来ません」

「そんな…」


 俺は急いで2Cの教室に行くと友恵はもう居なかった。芳美がいる。


「芳美」

「あっ悠、学校では話さない約束だろ。でもどうしたんだ。俺に声を掛ける位だから」

「高橋さんは帰ったのか?」

「高橋さん。あああいつか。高橋さんは片角と仲良く帰ったぜ」

「なに、どういうことだ?」

「おい、悠どうしたんだ?」



「ねえ、北沢君と今話をしているのって2Aの坂口君だよね」

「やっぱりなあというか。納得するわ」

「あの人達には近づかない様にしよう」



「悠、ほら見ろ。とにかく廊下に出よう」

「どうしたんだ悠。いつも冷静に物を見ているお前がそんなになるなんて」

「悪い。そうだな芳美の言う通りだ。ところで武道場には行かないのか?」

「ああ、あそこは辞めた。師範代と喧嘩しちゃってな。売り言葉に買い言葉って奴にプラスアルファが付いてしまってよ」

「そういう事か。戻る気は無いか。また中学の時の様にやらないか」

「その言葉だけで嬉しいよ。それより高橋がどうしたんだ」

「実は…」

 俺は友恵と付き合っている事を言った。


「お前があの高橋と付き合っている?本当かよ。これはまた」

「どういう意味だ」

「高橋はな、城之内や片角と日毎に相手を変えて毎日の様にやっているビッチだぞ」

「なにー!証拠は有るのか」

「そんなもの無いけど、2Cで知らない奴はいないよ」

「ありがとう芳美」

「良いってこと。それよりあんな女と早く別れろ。お前の肩書に傷がつくぞ」

 絵里と同じ様な事言う。


 でもまだ半分信じられない。直ぐに友恵にスマホで連絡した。……でない。

 

 俺は、何処で見落としていたんだろう。そんな子だとは露にも思わなかった。


 俺は、心の中にぽっかりと穴が開いたようになった。所詮こんなものか。恋愛不適格者だな俺は。



 家路につきながら頭に浮かぶのは友恵が見せたあの時の顔だった。それが忘れていた過去の記憶と重なって…。


 道端にしゃがんだ。胃の中から思い切り苦いものが出て来た。胃液だ苦しい。通る人が俺を汚らしい目で見ている。


 くそっ、どうしてこうなった。やっと見つけた心の安らぎなのに。



 その日はマンションの自分の部屋に入るとそのままベッドに横になった。苦しい。




 気が付けば午前六時。体内時計は俺の心は考慮してくれないらしい。だが起きる気も無かった。


 どうしてなんだ。どうしてなんだ。どうしてなんだ。どうしてなんだ。



 分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。





 午前七時半に起きて何も食べずに学校に行った。いつもより大分早い。机の上に顔を乗せていると


「悠、おは…。えっ、どうしたの?」

「絵里か」


 話せる人が来たと思うと涙が零れてきた。


「ちょ、ちょっと待って。どうしたの」

「実は…」

 俺は昨日芳美から聞いた事を話した。


「だから注意したのに。とにかく今は保健室に行こう。こんな姿で授業なんて受けれないわ。まあ悠は必要ないけど」


 絵里が俺の体を机から起こそうとしていると

「どうしたの友坂さん」

「ちょうどいい所に来たわ。手伝って工藤さん」

「えっ、あっ、はい」



 情けない事に女子二人に連れられて保健室に連れて来られた。俺の顔を見た保健の先生は


「どうしたの。直ぐにベッドに寝かせて」


 そのまま眠ってしまった。


 どの位経ったんだろう。目を開けると白い天井が有った。ゆっくりと起きて仕切りのカーテンを開けると


「目が覚めたのね坂口君。どう体の調子は?」

「あまり良くないです」

「そう、ここで休んでいる。それとも帰る?」

「いま、何時ですか?」

「午前十時よ。二時間近く寝ていたわ」

「えっ、そんなに?」

「その様子では直ぐに動かない方がいいわ。どうせ二時限目の途中だし」


 その言葉でもう一度横になった。




「悠、大丈夫?」

「うん?」

「あっ、目が覚めた。先生悠の目が覚めました」

「絵里か。どうしたんだ?」

「どうしたもこうしたもないでしょ。朝、来たら悠が死んだ顔して机に顔付けていたし、保健室に連れてきたらすぐに寝てしまって。一限目の中休みに来ても寝ているし」

「そうか悪かったな。今は?」

「二時限目が終わった中休み」

「そうか」

「帰る。その調子だと教室に戻ってもどうしようもないでしょ」

「そうだな」

「私がバッグ持って来るから待ってて」

「悪いな」


 悠の奴。あれだけ注意したのに。でもこれに懲りてあの女とは切れるでしょ。今日は私が面倒見るか。ふふっ、ちょっと早いけど悠を私に向かせるいいチャンスね。


―――――


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価★★★頂けると投稿意欲が沸きます。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

次回以降をお楽しみに。




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