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yokamite

Intellectual Giftedness

 世の中には天才と凡人、2種類の人間が居る。近年において、前者はギフテッドと呼ばれる先天的に平均より著しく高い知的能力を有する者として観念され始めた。ただ、ギフテッドの画一的な定義は未だ存在せず、従来通り卓越した知能を有する者に限定して用いられたり、文化的・芸術的分野やスポーツ分野において特に稀有な才能を有している者を広く定義に含めたり、ギフテッドに関する議論・研究は今も尚継続している。


 時は西暦3xxx年、研究者や地域によって定義が異なっていたギフテッドに関する論争は終止符が打たれることになった。なぜなら、知能、運動能力、芸術的センス、そのいずれかに特別な才を持って生まれてくる新生児は、身体の何処かにと称される天使の輪のような形をした形質異常を発現させるようになったからだ。


 天輪を有する者はその他の凡人と比較して、人間として非常に価値が高く、生まれ落ちたその瞬間から親兄弟に始まり、その誕生を知った周囲の人間から神格化され、将来的な進学先や職探しにおいても圧倒的に有利な立場となる。天輪は赤子が持っている才能によって色を変える。凡人とは異なる特別な感性を持っている者は薄い緑色、圧倒的な身体能力を有する者は血管の色が浮き出た赤色、そして類まれなる超人的知能を得た者は眩い程の黄色をしている。


 凡人は、天輪によって将来を約束された天才たちに対する嫉妬に狂った。割の良い仕事は全て天輪保有者に奪われ、富や名声も全て天輪を持つ者が独占した。凡人は、次第に嫉妬心を醜い憎悪に変えて、天輪保有者を殺して身体の天輪を抉り取って、整形手術によって自らに癒着させると呼ばれる蛮行が横行した。


 当然ながら、先天的な才能を有していない凡人が天輪保有者から天輪を切り取って自らに植え付けたとしても、特別な能力が得られる訳ではない。天輪は所詮、常人を遥かに凌駕する鬼才の持ち主を証明するための、いわば飾りに過ぎないのだから。それでも、世間の目を欺いて凡人が天才を自称するための説得材料としては十分だった。天輪を奪い取って我が物とした犯罪者は世間から持て囃され、天輪によって命の危険を感じた天才たちの間では天輪を自ら切り取って売買したり、天輪移植ビジネスなるものが流行したり、天輪を巡って争いを繰り返す人々の混乱は社会問題化していった。


 天輪保有者の相次ぐ殺害・失踪などに起因して、もはや天輪が持つ才能の証明としての価値は失墜した。人間社会において、天才と凡人という曖昧な境界線が存在していることは誰もが理解しているが、ひとたびそれを明確化してしまえば、争いは避けられないのだと人類は1つ教訓を得た。各国は「天輪保有者保護に関する出生時天輪切除法」と呼ばれる条約に調印し、国内法を整備していったことで事態は収束を迎えていった。


 ──時は西暦4xxx年、ある科学者は人間の才能を数値化する装置を発明した...。

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