第8話 優勝候補④

 みんなの所に戻る前に、マナミさんに言い聞かす。


「はい、本当に殺すの我慢できなくなったら?」

「全力で逃げるッ!」

「はい! よくできました!」


 俺はマナミさんの頭を撫でた。彼女もエヘヘと笑って、とても可愛い。正直、二日目にブチ殺したその時の人気ナンバーワンの補填額がなかなかの金額なようで、マナミさんは初日のパンチラで稼いだインセンティブを全部没収されたらしい。


 タチバナさんも「次やらかしたらクビッ!」と怒っていた。この子、どう考えてもこの会社以外じゃ働けないだろうし、どうにかしてあげたいところである。


 二人でロビーに戻ると、翔太くんに凄い形相で睨まれた。あの子、なんか酷い誤解してる気がするんだよなぁ。こっちは君らの命を守ってるのに。君が淡い恋心抱いてる彼女、マジで猛獣よ?



◇◇◇



 さて、マナミさんのことは大変心配であるものの仕方ないので、オタク系の雄平くんと陰キャオナニー系の未季みきちゃんとミリタリーショップまでお出かけです。それにしても閑散とした渋谷って変な感じがするなぁ。いうほど実際の渋谷も知らんけれど。


 ゲーム開始まであと一時間ほどあるので、雄平くんも未季ちゃんもまだそこまで緊張していないようだ。ここは年長者として軽快なトークで場を和ませたいところである。


「俺は自分の意思でこのゲームに参加してるけど、二人はどうなの?」


 自分のことはなるべく嘘をつかないようにする。なぜならば、俺は嘘吐くのが苦手だから! でも二人は俺の問いかけに対して無言だった。えー、わりと無視されるのつらいんですけど。気まずい沈黙の間。


「……オレは騙されて……というか、本当にただのゲームイベントだと思って友達と参加しました」


 意外にも雄平くんが沈黙を破ってくれた。


「今考えると、参加費を払うどころか結構な金額を貰えておかしな話なんですけど。その時は島に泊りがけでやる新しいゲームイベントのモニターだからかなと思ってて」


 ああ、一番参加報酬が安いタイプのプレイヤーか。可哀想に。翔太くんのような人気が出そうなプレイヤー候補には親に結構な金額を積んで連れてくるが、勝手に勘違いして参加してくるアルバイト枠は貰ってても数十万円というところだろう。そして、一緒に参加した友達は初日に亡くなったそうだ。南無なむぅ、合掌。


「真波さんとは、どうやって知り合ったんですか?」


 突然、未季ちゃんがぶっこんで来た。仕方ないので、嘘を吐くしかないわけだが、どうしたものか。マジで嘘吐くの苦手なんだよなぁ。


「初日にたまたま目が覚めた時、近くにいたからだよ。お互い混乱してたし、その後はなんだかんだ襲撃から一緒に逃げてて」


 若干しどろもどろな言い訳を口にした俺に、未季ちゃんは待ってましたとばかりに食ってかかってきた。


「でも与太郎さんはこのゲームに参加してるんですよね? それで目が覚めて混乱してるのおかしくないですか?」


 うわぁ。勘の鋭い子は嫌いですぅ。そうやって矛盾点つかないでよー。


「まぁまぁ。ほら、そろそろお店に着きますよ」


 険悪な雰囲気を察した雄平くんが間に入ってくれた。雄平くんマジいい子。



 予想通り、ミリタリーショップは存在していた。まだ他の参加者は気が付いていないようで一番乗りだ。俺は壁にかかってる見本のアサルトライフルのエアガンを取り外すと、構えてみて確認をする。実銃よりも少し軽い。これ人数分、在庫あるのかな。


 雄平くんと未季ちゃんに、「このエアガンが入るくらい大きいバックを何個か探してきて」と頼むと、意外にも素直に従ってくれた。俺は店のバックヤードに入る。全員分は同じものはなかったので、四丁ずつで二種類の物を持って帰ることにした。改造するためのパーツと道具も調達する。


 結構な大荷物になったので、予定外だったが三人で来て良かったかもしれない。


 腕時計を確認する。ゲーム開始まで、もうあまり時間はないが、できる分だけでもこの場で改造しよう。改造とはいっても市販されているパーツなので、たかが知れている。狩人役イェーガーも怪我するくらいで済むだろう。


 俺がシリンダーを外してテープを巻きつけたりしているのを雄平くんは興味津々に見ている。スプリングを交換し、一丁目が完成した。


「みんなの分やらないといけないから、夜になったら一緒にやろう」


 そう誘うと目をキラキラさせた。オタク少年いいね。気が合いそう。未季ちゃんの方は、いまだ俺を胡散臭いと疑っているようだ。翔太くんに正体探れとでも言われてるのかなぁ。困った。困った。とりあえず一丁目のモデルガンを雄平くんに渡して、構え方と撃ち方を教える。


 時間がないので、残りはみなと合流してからだ。三人で大荷物を持つと、ミリタリーショップを後にした。


 店を出たところで路駐してある車を見て思いつく。これ運転出来たら楽なのでは? 


 俺が躊躇なく窓ガラスを肘で叩き割ると、雄平くんと未季ちゃんはまるで蛮族でも見るような目を向けてきた。ちょっと気まずくて目を逸らす。車の方はガソリンメーターが空だった。当てが外れてガッカリだ。まぁ当たり前か。


 諦めて歩きで移動する。一旦ジムに帰り荷物を置いた後で、アイテムボックスを探しに行っている皆の後を追うスケジュールだ。探索予定のアイテムボックスは事前に教わってるので、順番に見て行けば皆と合流できるはず。



 ジムに着いてから、雄平くんが「トイレに行きたい」といなくなり、未季ちゃんと二人っきりになる。正直、気まずかった。この子、苦手なんだよなぁ。


「ねぇ、あなた暴力振るってるよね。真波さんに」


 未季ちゃんは遠慮のない疑いの目をぶつけてくる。暴力? 俺は確かに殺されてるから、マナミさんからは振るわれてるけど。なんか、そういうことじゃなさそうだな。


「昨日、あなたたちがトイレ入っていくの見たの!」


 あ~。なるほどエッチの声、聞いちゃったのね。確かにちょっとハッスルしてたかもしれんけど。面倒だな。ちょっと脅しておくか。俺は未季ちゃんの腕を引っ張って引き寄せる。それから彼女の顎を掌で乱暴に掴んだ。


「トイレの外で聞き耳立ててたの? 意外とエッチだね、未季ちゃん。君も乱暴なエッチしてもらいたいの?」


 俺がそう言ってせせら笑うと、彼女はヒッと短い悲鳴を上げた。目が笑ってないことに定評がある俺です。怖いでしょ。えへへ。完全に怯えてるのを確認して、パッと手を離す。


「はい。怖い思いしたくなかったら、大人の関係に口出してはいけません!」


 怖い笑い顔を俺がしまうと、未季ちゃんは怒りで顔を赤くする。そして、俺にビンタしようと彼女が手を挙げた時だった。



 ゴッ。



 嫌な音と共に、未季ちゃんの首は曲がってはいけない方向に曲がった。俺は未季ちゃんの背後にいた犯人を見やる。


「マナミさん、何してんの」


 俺が呆れた顔をすると、マナミさんは怒り始めた。


「ヨタ君が悪いんじゃん!! 私がちゃんと言うこと聞いて、殺さずに逃げてきたのに! 浮気してるし!!」


 浮気って、さっきのアレか。こんなチンチクリンの陰キャのメスガキに興味ないわ。俺は溜め息をつくと、仕方なく腰からハンドガンを抜いた。二発、引き金を引く。



「え? え?」



 状況を理解できてなさそうな彼は、そう困惑の声を絞り出して崩れ落ちる。


 タイミング悪くトイレから戻ってきた雄平くんは、可哀想に俺に撃ち殺されてしまったのでした。ごめんね。夜の約束、守れなくて。

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