第6話 優勝候補②

 この異常な状況に置かれて三日目。男はまだしも女子達はシャワーを欲していた。真波さんも与太郎さんも身綺麗だったので、どこかそういう施設を知っているかと聞くと、入浴施設があるジムの場所を教えてくれた。


 念のため、襲撃のない時間帯に入ってから、みんなで移動する。服屋を模したテナントから各々着替えを調達して、ジムでシャワーを浴びた。入浴が終わった女子達の顔は明らかに元気になっていたので、ホッとする。


 このジムには受付にたくさんのソファーがあるし、運動する際に敷く分厚いマットレスもあり、今夜はシャワー室のバスタオルを掛け布団代わりに、三日ぶりにみな安眠できそうだった。


 オレは特にここまでずっと気を張っていたのもあって、この日はマットレスに横になるとすぐに寝てしまった。



 翌朝、由梨ゆり未季みきから「相談がある」と声をかけられた。ジムの受付にいる皆から離れて、スタッフルームのような部屋に入る。最初、未季は言いにくそうにしていたが、由梨に促されて話し始めた。


「昨日、寝てたら、その……真波さんと与太郎さんが出ていくのが見えて……気になって後付けたんだけど」


 なんで後付けるかな。危ないのに。オレはちょっと未季の軽率な行動にイラっとした。でも顔には出さずに話の続きを聞く。


「……上の階の女子トイレで、そういうこと、し始めて……」

「真波さんと与太郎さん、付き合ってるって言ってたし、二人っきりになりたかっただけじゃないの?」


 真波さんがあの気持ち悪い男とそういう行為をしていることを聞きたくなくて思わず、話を遮るように被せてしまう。すると急に未季はムキなった顔で言い返してきた。


「そうじゃなくて! その時の声とか音とか、すごいなんか乱暴な感じだったから……。そりゃ実際にトイレの中のぞいたわけじゃないけど……もしかして、真波さん脅されてるんじゃないかって……」


 自分の中に、ゾワッと怒りが沸き上がった。思わず拳を握ってしまう。この異常な状況につけこんで、女性にそういったことを強要するなんて吐き気がした。


「昨日、シャワー浴びた時、真波さん洋服の下、噛み跡みたいなのがたくさんついてて。その場ではスルーしたんだけど。未季の話を聞いて、やっぱりあの与太郎って人、危ない人なんじゃないかと思って」


 由梨がオレの怒りに油を注ぐ。今すぐにでもあの男をグループから叩き出したかったが、グッと怒りを抑える。


「とりあえず話はわかったよ。まだ二人と出会ったばかりだし、もう少しだけ様子を見よう」


 三人で皆のいる受付に戻ると、真波さんと目が合った。真波さんは相変わらずヘラヘラと笑うクズ男となにやら話しているようだ。真波さんのパーカーの前がはだけて、少し肩が見えた。


―――ッツ!?


 明らかに人間の歯形の形をした噛み跡だった。オレの視線に気が付いたのか、クズ男は証拠を隠すように、真波さんのパーカーの前のジッパーを慌てて閉めた。



◇◇◇



 昨日はトイレなのにハッスルしてしまったヨタローです。おはようございます。


 ただ、正直なところやっぱりお布団でしたいです。だって殺された時、「トイレの床に転がってしまうのでは?」と、とっても不安だからです。いや、スナイパーしてる時は、トイレなんて比じゃない汚いところに何日も寝そべったりもしますけれどね。それとこれとは別なんですよ。


 青少年たちが寝ている部屋に帰ってきて、マナミさんを背後から抱きかかえるようにして横になって寝ようとしてたら、腕の中で振り返った彼女にこう言われました。


「ヨタ君にバックハグしてもらって寝るの好き」


 また元気になってしまうので勘弁してほしい。本当に可愛いは罪です。


 しかしながら、この青少年たちはなんで清く健全に男女で分かれて寝て、なにも間違いを起こさないのだ。今の子ってそうなの? 性欲薄すぎない? 少子化待ったなしじゃん。


 まぁ精子全然泳いでない俺に言われたくないだろうけど。不死身になった時に、俺の代わりに俺の精子は死んだようだ。変なマッドサイエンティストに捕まってた時に、顕微鏡で見られて大笑いされた。酷くない? ま、そんな昔話はいいや。


 基本的に仕事中は熟睡という意味では寝ないので、夜の間、あたりを警戒及び観察していたが、このグループでおかしな行動をする者はいなかった。隠れて付き合ってる奴とか絶対いると思ってたけどなぁ。まだ三日だからなの? 奥ゆかしいな、マジ。



 そうこうしているうちに、朝日が昇る。もぞもぞと腕の中のマナミさんが動く。マナミさんは熟睡できたようだ。まだ、周りが起きていないので、小声で「おはよう」というと、彼女はムニャムニャ言いながら寝返りをうって抱き着いてきた。


「ヨタ君って、あんまり寝ないよね。大丈夫?」

「不死身だから大丈夫ぅ」


 俺を殺す癖に俺の心配をする彼女の頭を撫でて、抱きしめる。実際、スナイパーなどで潜伏している時は、眠気や集中力が限界になれば自殺リセットしていた。不死身だから大丈夫は嘘ではないのだ!


 あー! 早くこの内通の仕事終わらんかなぁ。気兼ねなく朝エッチしてぇ。俺が煩悩と一時間ほど戦っていると、ようやく子供たちは起き始めた。



 朝ご飯に、皆で昨日のうちにコンビニっぽい店から失敬してきたパンを食べる。翔太くんは起き抜けの顔もイケメンだ。相変わらず彼を見ると、なんかモヤっとする。


 朝食を食べ終わると、由梨という真面目系ギャルと未季という陰キャな見た目だけど家でめっちゃオナニーしてそうな女の二人と翔太くんは別の部屋に行ってしまった。翔太くん、さんぴっぴなら頑張れっぴ。俺は心の中で彼に声援を送った。


 そんなふざけたことを考えていると、マナミさんに袖を引っ張られて、彼女の方に目を向ける。


 ……めっちゃ谷間。


 なぜか、マナミさんはパーカーのジッパー全開で、下のインナーの襟元を指で引っ張って俺におっぱいの谷間を見せつけてきた。ただでさえ今着ているインナーの襟ぐりは広くて、それなりに見えていたのに、なぜ? 手をカードキーにして差し込みたくなる谷間。


 俺がちょっと困ったままガン見していると、彼女は頬を膨らませた。


「いつもタチバナさんのオッパイばっかり見てるから、好きなのかなって思ったんだけど」


 おっぱい……おっぱいは、そこにあると見てしまうものなのです。現に向かいにいるムッツリスケベが眼鏡かけて歩いてるような正樹くんも、エロ同人をオカズにしてそうなオタク系の雄平くんも、こっちめっちゃ見てるから。部屋に戻ってきた翔太くんもガン見しているのがわかる。


 ……。やっぱりモヤっとする。俺は彼女の服のジッパーを無理やり上げた。そして、彼女に耳打ちする。


「タチバナさんみたいに、色んな人に見せびらかさないで。二人っきりの時だけにして」


 マナミさんはそれに満足したのか、フニャフニャと「えへへぇ」と笑って俺の腕にしがみついてきた。可愛すぎて、不死身の俺でも永眠しそうなんだが!!

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