011

「やっぱ鈍ってるんじゃない!?」


「貴女みたいなヒトを相手にする想定はしてませんッ! 寧ろ撃ち合えてるだけマシですッ!」


 前衛を任された騎士が絶叫する。その所為で土煙が口に入ったのだろう、咽てしまった。それでも目を瞑らないのはその鍛錬故か。


「負けて、馬鹿にされて、また訓練……ッ! あの地獄だけは味わいたくないッ!」


 訓練故というか、トラウマからの逃避……なのかもしれない。怖いもんね、これ。


「ぐ、グラーヌスが、グラーヌスが……そ、そんな連発するもの、じゃ……ないはず……なんですがっ」


 ミーシャが震えている。そりゃ怖いだろう。現在どこを探してもグラーヌスなんて魔法を連発する奴は居ない。一介の魔導士ですら一発撃てばリキャストに入る。そもそも魔法自体を連発する事自体難しい。何かの魔法を連続で発動させることが出来る時点でそいつは魔法使いとして完成している。それが出来るということは魔力回路を分割して使用出来るということ。


 普通の魔法使い……一般的に冒険者と呼ばれる職業に就く者であれば体全体の魔力回路をフルに使い魔法を放つ。炉心から作られた魔力が回路を通り、魔法を成す。それは明らかに魔力効率が悪い。


 前にもどこかで説明があったと思うが、魔法陣はただの蛇口だ。回路を例えるなら血管だ。とは言え、似ているだけでその本質は全く違う。多くのヒトが血管として意識しているその所為で、全身の魔力回路を使い魔法陣を形成する。無駄が多すぎて話にならん。魔力回路を全て使った方が高純度な魔法が使えるとでも思っているのだろうが、そんな思考に至るのは三流の証だ。


「はーはっはっはーっ! 魔導士がボクの隙を作らないでどうする! これじゃ騎士達が何も出来ないぞぅ!」


 連発されるグラーヌス……岩石の巨剣を相殺するのに手一杯。セニオリスの性質上魔法が止むことは無い。.


「くぅ……ッ──ぁっ」


 前に出た魔導士が魔力障壁を展開し、セニオリスの攻撃からの防御態勢を取る。三秒毎に五本。岩石の巨剣が眼前へと迫ってくる恐怖。騎士達の身体能力であれば剣自体を避ける事は容易だろう。着弾による風圧、爆発によって魔導士が被る被害を考えるなければ……だが。


 魔導士が前線に出て障壁を展開したのは良い戦術だ。グラーヌスによる攻撃を防ぎきれなかった騎士達の回復も行えて一石二鳥。とは言え、セニオリスの魔法を受けて、保てて十秒。それ以上は魔力が足りない。炉心から無理やり魔力を捻りだした所で延長出来ても一秒にも満たない。


「空間認識が甘い! たとえ敵が前に居ようと後ろを疎かにするな! 魔法使いには方向なんて関係ないッ!」


 魔法陣が杖からのみ出力されるなんてそういう思い込みはしてはならない。そもそも座標による攻撃がある時点で前も後ろも右も左も関係ない。どこに居ても魔法は飛んでくる。魔力障壁による防御も必ず破られる。本来打つ手なしの相手だ。なのにギリギリ撃ち合えているのはセニオリスが手加減しているからだ。確かに騎士、魔導士の実力も相当だ。セニオリスやアリシアが直々に訓練を付けたというのであればそれなりに対処は出来て当たり前。……なのだが……。


「状況判断が遅い。騎士共、陣形はどうした? 寝ぼけてるのかい? 仕方ない、魔法戦は終わりだ。魔導士達は休んで良いよ。根本的に叩き直さないといけないのは騎士共らしい」


「せ、セニオリス様は剣術を嗜んでいましたっけ……」


「キミ達が畏れ敬うアリシアちゃんに鍛えてもらったネドア式剣術、見せてやらぁ!」


 セニオリスの魔法は一級品。だけど剣術は未知数だ。だって魔法以外見たこと無いんだから。


 よぅし、では少し魔法使いの戦闘についてしっかり説明しておこう。基本的に魔法使いは遠距離特化型だ。故に近づかれれば負け。懐に入られたら成す術も無い。対魔法使い戦であれば近づかれることは殆ど無い。が、それは五百年程前までの話だ。魔法使い全てが近距離を嫌うわけではない。寧ろ好む者の方が多い。その場合どうするのか、について、魔法使いたちは長年悩んでいた。


 だってどうしようもないもんな。通常なら詠唱が挟まるから、近接に入ってもにらみ合いになる。詠唱速度の比べ合い……なんてつまらないモノはしたくないからなぁ。呪文噛んじゃうからね? 舌噛むと最悪死ぬんだぜ。ヒトの構造摩訶不思議。


「行くよ……っ!」


 地を駆ける白い魔法使いがその手に杖を持つ。剣術……じゃないのか? と思うかもしれないが、立派な剣だ。というより、その杖の形状を変化させたと言った方が良い。魔法使いが編み出した戦術がこれだ。武器を二つ持つのは効率というか扱いづらいし動きづらい。動きが遅いというのが弱点ならば、身体系のブーストを掛けるのが最適だ。とは言え、それでは到底騎士には敵わない。基礎があってこそのブーストだ。


「ほら構えないと死ぬよ!」


 魔力を結集させ形状を変化させた杖、切れ味もミスリル製の剣と相違ない。騎士達と同じ程の業物となるわけだが、実体を持たない剣と実体のある剣であれば、そりゃ実体のある剣の方が優勢だ。魔力で剣を維持するのもかなり意識を向けないと難しい。なので、実際に剣術戦をやるのには向かないのだ。後方へ下がる隙を作るのが目的であって剣術を以て勝利を収める目的では使われない。


「────────っ!」


 セニオリスが詰め寄った事による風圧が騎士達の鎧を揺らす。


「……ッ! ネドア式剣術ってのはこうも早いのかッ!」


「ネドアの騎士はもっと早いよ」


 セニオリスの剣が空を切る。まともに太刀打ちすれば弾かれる。弾かれれば隙が出来る。そうなると待っているのは死だ。


「良い判断! だけど甘いッ! それでも騎士かッ!」


 飛んできたのは拳である。右ストレートをどてっぱらにぶち込んだ。


「拳じゃねぇですかよ!」


「ほら、読み方変えたら拳術でしょ?」


「屁理屈ですよ、それ……が、ふ──」


 魔法じゃないだけマシだと思え~! 暴挙。単純な暴力、これが本当にネドア式剣術なのか? そんなわけあるか。アリシアの暴虐な部分を吸収しただけだろ、これ。戦術も剣術も体術も減ったくれもない。


 殴られた騎士の鎧が砕けている。綺麗に入っている。これが元聖女様ですか……。脳筋馬鹿聖女! ヒトの心知らない馬鹿聖女! 顔だけ良い聖女! ド貧乳!


「なんか同族みたいな気配から謂れのない悪口を言われている気がする……が気にしない! 気にしないぞぅ! ボクは!」


 チ、察知されたか。まあ良い。


「次ッ!」


 叩き潰されたい奴は出てこい! と、まるで暴漢だ。男じゃないけど。何をどうしてこれを聖女だなんて。ヴァルキューレ的な意味か? 戦乙女、か。戦場に立つ聖女様……。馬鹿だろ、もう。


「ミーシャさん、砂埃被ってませんか?」


「う、うんっ。大丈夫……だけど」


 困ったような表情を浮かべるミーシャだが、大丈夫という割にかなり服が汚れてしまっている。


「少し下がってください。衝撃もここまで届いています。あまり言いたくないのですが、スカートがひらひらと……危ないので」


「ひゃ、ひゃいっ! お、おおおおお見苦しいものを……」


 まあ見えていないのでセーフだろう。最近冷えてきているので彼女は長めのスカートを穿いている。その為あからさまな角度か、とんでもない強風が吹かない限り見える事は無い。それにミーシャはシグルゼの注意を聞いてスカートを両手で抑えている。絶対に見える事は無い。いや、フリじゃないからな?


「二人纏めて掛かってきて。それくらいじゃないとハンデにすらならないみたいだ」


「嘘だろ、俺達ってかなり鍛錬してたんだぞ……セニオリス様の暴力……もとい剣術はここまでなのか……?」


「バカ野郎アリシア様じゃないだけマシだぞマジで。あのヒト相手ならもう誰も立ってねぇよ」


「…………俺、この仕事辞めようかな……」


 見た目年齢十六歳の少女に近接戦闘で敗北に帰す。その騎士人生を否定されているも同然だ。そもそも騎士と魔導士セットで戦うのが彼らの特徴、それを完全に否定した今回の戦闘、彼ら騎士にとって不利も同然だ。騎士達は魔法が使えない。体内魔力を回してたった一瞬、ほんの僅かな間だけのみのブーストが行えるくらい。なのに相手は常時ブースト状態、動きも目も良い。そんな相手に正面切って戦う事自体間違っている。


 戦法を見直すべきだ。回復兼遠距離攻撃担当の魔導士を欠いている状態での戦闘にも慣れておく必要はあるが、このような化け物を相手にする想定なんて普通しない。魔物の方が数十倍マシだ。なのに彼奴は甘いだとか遅いだとか蹂躙してきやがる。嫌になって当然だ。


「シアちゃんには毎回言ってる、たまには体を動かさなきゃダメだよってセリフも、そろそろブーメランが刺さりそうだったから丁度良い機会! ボクも相当訛ってるけど、キミ達騎士団の方が酷いな。最近魔物が攻めてくるようなことがなかったから余計か?」


 そういえば、セニオリスもアリシアと一緒で戦闘になると口調が強くなるらしい。『同じ』なのだからそれもそうなのだろうが、なんというか口調の少し荒いセニオリスは新鮮だ。


「そもそもこんなひらひらな服でここまで戦えることがおかしいだろ」


 確かに騎士鎧は重い。だが動きやすさだけはピカイチだ。ガシャガシャと金属音を響かせながら動くそれの素材は魔鉄鋼と呼ばれる特殊な金属。ヒトの魔力によって強度が可変する変わった鉱物を用いている。一点のみに集中すればミスリルの剣であろうと通すことはない。それほどのモノなのだが、今ぺしゃんこにされた騎士を見ると、その効果も本当か? と疑いたくなる。てか生きてるのか? アレ。


 対してセニオリスは魔力は纏っているモノの、普通の服で間違いはない。アリシアのような特別で大事で死ぬまで添い遂げるモノでも無い。本当にただの服。とは言えその服は白色、貴族が好む絢爛豪華で趣味の悪いキラキラしたモノではない。が、その服にあしらわれた刺繍はどの宝石よりも美しい。まあ刺繡糸も白なので近づかなければ何が縫われているのかはわからないのだが……。


「………………うん。魔導士達、休憩終わり。エーテルは補充したよね? なら騎士と二人一組、いつもの調子で一組ずつ来て。対魔物戦特殊訓練、行くよ」


 対魔物戦闘……自虐なら笑える。町の治安を守るのは冒険者と騎士、魔導士の役目。残念ながらファブナーリンドだって犯罪は起きる。強盗ならまだマシ、強姦やら不正商売やら奴隷やら……色々と問題は多い。それら犯罪者を捉え地下牢に投獄するのも騎士、魔導士の役目。なので、先ほどのセニオリスのような者との戦闘経験は役には立つ。


 では対魔物戦闘特殊訓練とはどのようなモノか。セニオリスを魔物とし、騎士と魔導士二人組で行う戦闘シミュレーションだ。対魔物戦において騎士一人で対抗するのは難しい。かと言って魔導士だけでは手も足も出ないこともある。距離を詰められては打つ手がない。騎士だって剣を振りはするが、火力が足りない。なので、前衛に出て魔物の注意を引き付けその間に魔導士が詠唱を行う。そうすることで欠点のないモノとなるわけだ。


「では、まずは私達から」


「えぇと、クリオーネとハルスクだっけ。良いよ。二人仲良いね」


「え、まぁ、同期ですし」


 女騎士と男魔導士のコンビ、そういうモノであるがやはり相対すると中々に厄介だ。魔導士によるエンチャント、騎士の近接戦闘、作られた隙に魔導士の魔法。立て続けにやってくる攻撃、それを突破するにはかなりの労力が必要だ。個と個において騎士は無類の強さを誇る。いくつものの死線を潜り抜けるは騎士の役目。魔導士はその補助、堂々巡りの果てに至るは一心同体。だが、今回は違う。アレを個と呼ぶには相当かけ離れている。アレを個と呼びたいのであれば千年前に立ち返れ。


「胸を、借ります」


 女騎士が剣を抜く。その後ろで杖を構えた魔導士が詠唱を始める。エンチャント、騎士の名に「着名」を行い、その名の意味を増幅させる。ある意味では決死の魔法。


 彼女の名はクリオーネ。魔道国家カルイザムにおいて魔法を使わず騎士長に登り詰めた名のある騎士と同じ名を持つ者。なればその着名によって起こり得る事象は──。


 ズドンッ! 発破音が響く。誰かが魔法を撃ったのではない。クリオーネがその地を駆けた音。というより跳ねたと言うべきか。セニオリスとの距離は目下二十メートル。それをたった一秒で距離を詰め剣を突き立てる。その動きに一切の隙は無く、また、その動きについていける者なぞ、数える程しか居ない。だが、それでも。


「遅い」


 短く発した音がクリオーネを糾弾するように杖を振り下ろす。金属音が響く。耳をつんざくその音と共にぶつかった事により起きた衝撃が土煙を巻き上げる。


 彼女の攻撃は届かない。けれどそれで良い。鼻から届くなんて思っていない。一瞬でも隙を作れれば上々! 本命は──ッ!


「イグニッション……ッ!」


 男の声。小さく唱えられたその魔法名は、座標設置型の魔法陣からなる炎柱魔法。聖方から現代に取り入れられた炎の魔法の一つ。回避するのは本来困難だが……。


「良いね、そう。それで良い。良いコンビネーションだね。だけど、その程度の魔法、シアちゃんのモノを何度も受けてるこの体じゃ効果は薄いんだ」


 岩石の剣、炎柱魔法、どちらも魔法を嗜む者であれば一度でも良いから放ってみたい高位の魔法。けれどそれさえも無効化された、となると正真正銘の化け物だ。ヒトであればその身は焦げ付きているはずだ。いや、ヒトでなくともそうだろう。魔物であろうと肉は焦げ骨は灰と化す。死とはそうやって出来ている。なら、何故こいつには効かない?


「封陣の偽造魔眼、破局の円陣、不確定要素の揺らぎからなる魔力の糸、どれも違う。確かに手ごたえはあった。この手がそう感じ取っている。なのに何故貴女は……ッ」


「ごめん、炎には耐性があるんだ。散々焼かれたからね」


「炎、には……ですか? 本当に?」


「うん。まぁ魔法と言った方が良いかな」


 そりゃそうだろう。エーテルの塊みたいな奴が魔法に耐性が無いわけがない。そもそもヒトとは作りが……あれ、似てやがるな。


「────────ッ」


 危険を察知したクリオーネが大きく下がる。杖は剣の形のまま、切っ先から魔法陣が出力される。剣としても未だ杖の役割を捨てていない。という事か。


「そんな使い方アリかよ」


 普通ならあり得ない。短縮、簡略、無詠唱。その全てがそろってようやく出来るかどうか。魔法は不発に終わる。離れられたんじゃ意味はない。騎士を無力化する前にエンチャントをどうにかしないといけない。


 逆に言えばエンチャントを攻略しさえすればその騎士は弱体化される。つまり、実質魔導士を倒せば勝ち。そうもいかないのがこの戦闘形式だ。一対二である以上、魔導士に近づこうとすれば騎士が邪魔に入る。敵にするとかなり厄介だ。悪い所をカバーしあう関係。本来は魔導士を二人にして回復担当を置けるのならそれに越したことはない。


 セニオリスを前にしている為分かりづらいのだが、ファブナーの魔導士は皆優秀、回復も自身で行える。なら必要は無い。それよりも多くの部隊を作った方が幾分かマシ。魔物に対して戦術なんて無駄だ。崩壊するときは簡単にする。それなら数で抑えた方が幾分か被害は抑えられる。とは言え、そんな強力な魔物、近くには生息していないのだが……。


 杖を構え直す。今度はこっちの番とでも言うかのように、彼女は杖を振り上げる。切っ先から発生する魔法陣が回転を始める。だが詠唱は聞こえない。回転し続けるそれが急速に周囲の魔力を吸い上げていく。肌寒さを感じる。大気中の魔力が減った事による温度の低下だ。


過重魔法陣オーバーロード……ッ!?」


 わざわざそんなことしなくても良いだろうに。新しいモノを覚えた子供の様に見せびらかすように魔法陣を起動している。これだけの魔力が必要……とは思えない。彼女の内包する魔力で大体のモノは賄えるはずだ。だから見せびらかす為だけにやっているのだろう。あるいは脅し目的か。なんだか両方の意味を持っているような気がするが……。


 魔法陣が止まる。


「設置完了、砲身固定、対象、捕捉……ッ!」


 杖を騎士へと向ける。


「マズイ──ッ!」


 ハルスクが走る。クリオーネまでは少し距離がある。


「クソ、間に合え……ッ!」


 たった十メートル。されど常人であれば一秒は掛かる。それではもう遅い。というかこのままでは教会事吹き飛んでしまう。走りながら詠唱を叫ぶ。間に合うか、じゃない。間に合わせなければ。間に合わせるのだ。何をしてでも。そうじゃないとクリオーネが蒸発する。訓練でこれだけの魔法を扱うなんて馬鹿げている。アリシアだってまだ加減はする。


「バレッタ──「お~りちゃん、」


 とんっと小さく小突く音が鳴った。放たれる寸前だった魔法陣がそのテクスチャを薄くしていく。


「は──あ、──っ」


 汗が酷い、クリオーネもハルスクも死にかけた。その認識がその魔法が、眼前まで迫っていたのだ。


「やりすぎ。加減を覚えるべきはキミじゃない?」


 落ち着いた声で、セニオリスの頭を撫でる。そんな事を出来るのは一人しか居ない。


「あれ、シアちゃん。思ったより早いね」


「ユメちゃんの吸収が早かったからね。それよりも、こりゃやりすぎだよ」


「えへへ……」


「えへへじゃない。ハルスクの魔力障壁でも守り切れない威力だよ、今の。そんなのを教会の敷地内で使っちゃいけません。そもそもヒトに放っちゃダメ」


「興が乗って……」


 全く恐ろしい。真に手加減を覚えるべきはセニオリスだというのも解る。先ほどの魔法、バレッタ……の後に何が続いたのだろうか。聖方にそんな魔法名は存在しなければ現代にも無い。祷蹟か? いやでも祷蹟なんて古めかしいモノを使うとも思えない。そもそもあれは聖方の派生なんだからあんな術式の組み方を出来るわけがない。あとはあと一つ……………………………いや、そんなわけあるか?


「あとでお説教ね。それで、案内は終わったの?」


「あ、えとまだ孤児院の方行ってない……」


「遊んでばかりだからでしょ。全くもう」


「ごめんなさい……」


 遊んだというより蹂躙していただけだが……。アリシアが来ていなければ一体どうなっていたか。少なくとも一か月程教会としての機能を全う出来ない状態にはなっていただろう。建物が無いんじゃどうしようもない。一か月で済むならまだ良い方だ。建築様式が他の建物と明らかに違うため、それが出来る職人を呼ぶ必要がある。


 確かにファブナーには建築家がたくさん居る。そりゃそうじゃないとたった五十年でここまで発展しないだろう。道路の整備、建物の整備、インフラ整備、その殆どを五十年で行ったとなれば、その労力も半端なモノじゃない。これでまだ未完成の場所があるというのだから、建築家たちはさぞ楽しいことだろう。人生一の大仕事と言っても過言じゃない。


「それじゃ、私も同伴しようかな。ユメちゃんは仕事に戻っちゃったし。つまんなーい。頭撫でたかったのになぁ!」


「後で話をするって言われてたけど、もしかしてボク赦された!?」


『赦してませんよ。後でお二人でお話しましょうね』


「脅迫メッセージ持ってこないで!? 何持ってるのかなって思ったら、録音機か……」


 丸い鈍い銀色の塊をアリシアがセニオリスの顔の前に翳したので何だろうとは思ったが、録音機……またデグル製のモノだろう。機械といえばデグルだ。トルガニスがその技術を欲しがっていた時期があったはずだが、崩壊した事により、不謹慎だが彼らデグルの国民も安心しているだろう。


 正直いつ戦争が起きてもおかしくなかった。それを回避出来たのは幸運だ。


「孤児院は広いし、ついでに今日の業務も手伝って行こうか。良い経験になるかもだしね?」

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