喧嘩するほど仲がいい、とは限らない

 白波こと高遠玲の普段の配信は、雑談をしたり相談に乗ったり、歌ったりピアノを弾いたりしていることが多い。VTuverらしくゲームもしたりするが、あまりこう難易度のゲームはせずに、雑談を主体にしている。

 一方で水無月輝夜の配信はゲーム主体。

 高難易度のゲームや、対戦ゲーム、それにホラーゲームをしてリアクションをするのがメインになっている。

 ゲームをしながらもコメントを拾ってのプロレスが得意だ。


 どちらもコミュニケーション能力が高いはずなのに、いざ二人がコラボをしたこの雑談配信では、しょっぱなからブリザードが吹き荒れていた。


「というわけで、今日はゲストに友人の輝夜さんに来てもらってるよ。私もそろそろ積極的に人とかかわっていこうかなって思っててね。みんなも協力してもらえると嬉しいな」

「いえーい、ぱちぱちぱち、がんばーれー」


 やる気のない応援と、口から洩れる拍手の音。


「うん、輝夜さんはいつもこんな調子なんだけどね。これで意外と私のことを心配してくれてるんだ。いつもありがとう」

「ありがとうっていうからには、きっといつか何かすっごいお礼がもらえるんだろうなー、楽しみだなー」


『なんか姫拗ねてないか?』

『もしかしてファンサしてる王子に嫉妬してる?』


「はぁ? そんなわけないじゃん!」

「ふふ、この間も周君とコラボした後、輝夜さんの機嫌とるの大変だったんだよ」

「高遠さんはご冗談が上手ですねー!」

「はははは、いつものように玲って呼んでくれていいんだよ」

「人前だと恥ずかしいじゃん、高遠さん」

「照れなくていいんだよ、水無月さん」


『なんだこいつら、本当に仲いいのか?』

『喧嘩してるのか?』

『この間の弟といい、変な感じだな』


 コメントに二人同時にピクリと反応。

 そして直後に藤崎から『ちゃんとやってください、余多さんに迷惑が掛かりますよ』のメッセージ。


 機嫌を取るのが大変だったのは本当だ。

 白波のせいで、当面の間周が全面的にコラボ禁止となったのだから、そりゃあ怒りもする。

 通達後すぐさま輝夜から怒りの鬼電が藤崎に入り、詳細を聞いてからは白波と直接交渉だ。

 藤崎を交えた三人の通話はそれはもう、ひどいものだった。


◇◇◇


「本当に申し訳ないと思っているよ。余多君との仲を疑われたのが悔しくて、つい反論してしまったんだ。軽率なことをしたし、みんなに迷惑をかけてしまった」

「それで? 何? どうやって責任取るの?」

「しばらくは箱内でコラボを受けてくれる人を探して、全体を盛り上げていければと思っている。他にも何かあればなんなりと言ってほしい」

「ふーん、じゃ、あー君と二度とコラボしないで」

「……それは、許してもらえないかい?」

「なんなりとって言ったじゃん」

「あの、輝夜さん、少し落ち着いてください。白波さんもこうして謝っていることですし。一度コラボしているのに、これ以降全くしないとなると、それはそれで問題があります」

「なに! 藤崎さんはこいつの肩持つの!?」


 完全にお怒りモードだ。

 藤崎と話している間はもう少し落ち着いていたのだが、本人の声を聞いたら我慢できなくなったらしい。


「しかしそれは……頼むよ。他のことなら……」

「他なんかない。あーあ、私が最初にコラボしようと思ってたのに! あー君にわかがさぁ、変なことするから! 私までコラボできなくなっちゃってさぁ!」

「……にわか?」

「にわかじゃん! せいぜい数カ月の付き合いでしょ」

「……関係というのは、時間ばかりではないと思うんだけれど」

「二人とも、落ち着いて会話をするという約束をしましたよね? 喧嘩はやめてくださいね?」

「落ち着いているさ、私はね」

「私だって落ち着いてるけど? じゃ、にわかさんに聞くけど、あー君の好きな食べ物知ってる?」

「ふわり名人、きなこ餅味の」

「……じゃあじゃあ、最近買った高いものは?」

「関孫六の包丁だね」

「子供の頃得意だった遊び」

「かくれんぼ。輝夜さんにだけはすぐ見つかると言っていた」

「足のサイズ!」

「26cmだね、当然知ってる」

「あの、もうやめませんか?」

「じゃあよく履くパンツの色!!」

「待ってください、質問が変です、余多さんがかわいそうなのでやめてください」

「グレーだよ」

「やめてって言ってますけど? そろそろ怒りますよ?」


 藤崎の再三の注意にようやく止まった問答で分かったことは、この二人がどちらも変態だということだけだった。

 藤崎は素直に二人のことが気持ち悪いと思っていたが、当の本人たちはやり切ったような雰囲気を出して「……やるじゃん」「まぁね」と言い合っている。


 場が落ち着いたことだけが救いか。

 今が切り出し時かと、次の低次元な言い争いが始まる前に、藤崎は提案する。


「……余多さんに続いて、お二人でコラボしてみませんか?」

「やだけど」

「……嫌だってさ」

「そうおっしゃらずに」

「嫌」


 頑なに拒否する輝夜だったが、流石に自分が悪いと思っている白波はそれに腹を立てたりはしない。


「それが余多さんのためになると言ってもですか?」

「……どういうこと?」


 余多をだしに使うようで嫌だったが、藤崎は仕方なく伝家の宝刀を切ることにした。ただし効くのはこの二人だけだが。


「輝夜さんは今の余多さんの状況を理解していますよね? お二人がコラボすることによって、効率よくヘイトの目を逸らせるんですよ。もしご協力いただけるのならば、私はお二人が余多さんのために頑張っているという事実を、余多さんに伝える用意があります」

「ふ、ふーん……」

「設定としても姉弟なのですから、ご協力いただけるのであれば、当然輝夜さんと余多さんのコラボの企画を優先的に考えるようになるでしょうね」

「…………それ、協力しなくても普通の流れじゃない?」

「……嫌なら協力しなくてもいいですが。輝夜さんは何でそんなに余多さんにこだわるんです? 何か目的があるんでしたら、それにも協力しますが」


 しばし沈黙。


「輝夜さん?」

「……お姉ちゃん」

「はい?」


 小声でよく聞こえなかったので、藤崎が聞き返す。


「お姉ちゃんって呼ばれたいの! 教えたんだから協力しなさいよね! そのためにわざわざちゃんと姉弟って設定まで引っ張って準備したんだから!! そもそもVTuverになったのだって、そのためだし、私がどんだけ長いことかけてこれを計画したと思ってんのよ、にわかのせいで台無しになるとこだったじゃない!!」

「……はぁ、じゃあ、それに協力するということで」

「またにわかって言った……」

「はい、白波さんはご自分が悪いんですから少しは我慢してください」


◇◇◇


 そんなわけで、二人は輝夜の『お姉ちゃん計画』に協力することになったのだが、その初コラボがこの様である。


「っていうのは冗談! ね、玲?」

「そうだね、輝夜さん」

「玲もいつも通り輝夜って呼んだらいいじゃん、何それ余所行き? あー、わかった。リスナーに遠慮してるんでしょ」

「そんなことないよ、輝夜。じゃ、いつも通り適当にしゃべってこうか」

「はいはーい、いつも通り、ね」


 なんだかんだと悪い雰囲気になっても、なぜか突然仲直りする二人。

 リスナーには、本当に遠慮のない友人同士に見えて、これが意外と受けた。


 それから数か月後。

 不本意にもこの二人が箱の名物コンビとなるだなんて、まだ誰も思っていなかった。


◇◇◇


45 名前:名無しさん@実況禁止

最近王子があちこちでコラボしててつらい


47 名前:名無しさん@実況禁止

どこ行っても王子ムーブちゃんとしてて、何で今までしなかったんだって感じだよな


51 名前:名無しさん@実況禁止

いや、やっぱ姫は特別じゃね?

王子と姫の喧嘩っぷるいい


54 名前:名無しさん@実況禁止

あれ普通に仲悪いだけだろ


56 名前:名無しさん@実況禁止

>>54

は? 姫は王子の健康心配するくらいなんだが?

今までそれを表で見せなかっただけなんだが?


58 名前:名無しさん@実況禁止

ソースどこだよ


61 名前:名無しさん@実況禁止

弟君の初配信で言ってた


65 名前:名無しさん@実況禁止

そういえばその弟君、ソロ配信ばっかりじゃね?

最初こそ王子とコラボしたけど


66 名前:名無しさん@実況禁止

コネ採用だから


70 名前:名無しさん@実況禁止

俺は落ち着いてて好きだぞ

仕事帰って寝る前にアーカイブとか見ると癒される


73 名前:名無しさん@実況禁止

箱推しとしては、最近コラボが活発なのは嬉しいけどな

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