九話:連れ火祭りと魔法の花火 1/5

「明日は連れ火祭り本番だな。お前ら、花火の準備はできてるよな?」

「はい。発射用の魔力筒も、発射する花火玉の方も問題ありません!」

「うちに魔力を使えるやつが居て助かりましたね。弾の方は火薬だけど、魔力筒は魔力でしか起動できないですから……」

「おう、そうだな! じゃあ点検も終わったから、今日は解散だ。お疲れ!」

『はい!』


 ◇


 少し日の傾いてきた夕暮れの頃、私は街を歩いていた。

 今立っている石橋の下には、大きな水路が広がっており、そこにはたまに船が通りかかっている。


「この街も広いねー」

「だな」


 でも、広さの割に少し人が少ないようにも見える。

 時間帯のせいなのかな?


 そうやって少し歩いていると、向こうの方に広い公園が見えてきた。

 明かりがいくつも付いており、耳を澄ませば賑やかな声が聞こえてくる。


「ん、公園? ……なんかちょっと賑やかだね」


 私はそう言って歩く方向を変える。

 少し歩くと、その様相がハッキリと見えてくる。


 緑の広がる公園の上、一本の線のように広がった茶色い土の道の脇には、無数の屋台が並んでおり、ぶら下げられたランタンがそこら中で光を放っている。

 人々は行き交い、楽しそうに笑っている。


「……お祭り?」

「のようだな。街に人がいなかったのもこれが原因かもしれないな」

「確かに、そうかも」


 私は少し歩みを早めて、公園まで歩いていく。


 近づいてくると、より一層人々の喧騒が近づいてくる。

 私は、一旦今の状況を道行く人に聞いてみることにした。


「すいませーん、今ここで何をやっているんですか?」

「ん? ……ああ、もしかして旅人さん? 今やってるのは、連れ火祭りって言うんだ。この街伝統の祭りなんだよ」


 すると、手元に何やら若干赤みがかった飴らしきものを持った青年はそう答えた。


「なるほど、そうなんですね。ありがとうございます!」

「はいよ。旅の人も楽しんでくれ!」


 私は、今度は屋台を出している人や、案内をしているっぽい感じの人に話を聞いてみることにした。


「連れ火祭り、か。どうやら、色々と屋台があるようだな。先程の青年も持っていたが、お菓子らしきものも多そうだ」

「だね、何があるんだろ」


 少し興味が出てきた。


「こんにちはー。すいません、旅の者なんですが……この祭りではどういったことをしているんですか?」


 とりあえず、そこそこ整った屋台を出している人に聞いてみることにした。


「おっ、こんにちは。この祭りでやっていること、か。まあ大体見ての通りさ。食べ物打ったり、イベントで騒いだりさ」


 すると、何やらソーセージに粒が見える赤いソースをかけたものが売ってあった。さらにその上には玉ねぎも乗っかっている。

 少し湯気が立っており、まだ温かそうだ。


「あ、でも元々花火がメインの祭りでな、向こうの方なら手元でやれるヤツが打ってるんじゃねぇか?」

「花火ですか?」


 聞き覚えが無いわけではないが、詳細はあまり知らない。


「おお、そういや知らねぇのか……まあでも、見りゃ分かるさ。簡単に言えば綺麗な火花ってとこか? 最近のヤツ、特に魔石入りは綺麗だぜ? 昔は――おっと、そんな不便自慢はいらねぇな!」


 そう言って彼はほがらかに笑った。


「もしかして、伝統のものだったりするんですか?」

「ああ、連れ火祭りは、元々この辺に多かった火に弱い魔物を追い払う祭りでな。だから花火が作られて、恐怖を和らげるためにお面を着けて魔物に向かっていったのが始まりさ――ま、だから火を連れる祭りってワケだ」

「おおー、そうなんですね!」


 祭りの起源というのは、聞いてみると案外面白いものだ。


「ま、今となっちゃただの馬鹿騒ぎだけどな!」


 彼は楽しそうに笑った。


「そうだ、旅人さんよ。これ買ってかないかい? 情報料として買ってくれてもいいんだぜ?」


 すると、彼はニヤリと笑ってそう言った。


「商売魂ですね……いいですよ、買います!」

「おっ、あんがとよ」

「そういえば、これって何がかかってるんですか?」

「ケチャップってやつさ……まあ詳細は知らねぇけどうめぇんだ! 買ってみな!」


 自慢げに言った後、彼はそうごまかした。

 ……知らないのかい!


「あ、案外適当ですね……あ、フィルも食べる?」


 私は買う前に、肩に乗っているフィルに聞いた。


「一本貰っておこう」

「おっけー、じゃあ二本ください!」

「……なあ、今猫が喋ってなかったか?」


 すると、彼は怪訝そうな表情で訊いた。


「キノセイデスヨー。じゃあこれお代です! さようなら!」


 私は屋台の上をちらりと見て、その値段通りの金額である銅貨六枚を置き、ソーセージを手に取った。


 そして――逃げる!


「あおい! ……まあ、ありがとよー!」


 遠くから聞こえる店主さんの声を聞きながら、私は祭りの真っ只中へと向かった。

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