004 いきなりの九死に一生

 それから恐らく1時間後。

 突然、天地が逆さになったかのような感覚に襲われた。


 ……ぐっ!!?


 頭を潰されるような激しい痛み。

 まるで万力で締め上げられているかのようだ。


 あ、あああっ!


 声にならない叫びを上げ、必死に耐える。

 そうしていると、やがて今までいた空間から追い出された。


 ……っ!? っ!!


 い、息が、できない。

 体の感覚が、鈍い。

 気持ち悪いぐらいに怠い。

 本能的にヤバいと分かる。

 だが、身動きすらままならない状況では対処のしようがない。


 意識が……と、遠退いて――。


『今すぐ【Total Vitality】にポイントを割り振るのじゃ!』


 薄れた意識を叩き起こすかのような鋭い声にハッとする。

 それでも現在進行形で衰弱の一途を辿っているが、何とかウインドウを開く。

 そして【Total Vitality】にポイントを割り振るように強く念じた。

 勢い余って残っていた100ポイント全てをつぎ込んでしまったが……。


「ほぎゃあ、ほぎゃあっ」

『ふう。何とか九死に一生を得たようじゃのう』


 未だ体は怠いが、口は本能のまま酸素を求めるように泣き声を発し始めた。

 死に向かうような感覚もなくなってくれた。

 どうやら助かったらしい。


『すまぬ。注意喚起を忘れておったわい。何しろ、記憶を保ったままの転生など初めてのことじゃったからのう』


 こちらが落ち着く間もなく、野球狂神は話し続ける。


『ともかくじゃ。【Total Vitality】の数値は体力を示す根本的な指標となる。何をするにしても上げておいた方がよいぞ』


 文句を言いたいところだが、今は息をすることに必死にならざるを得ない。


『これ以上の干渉はせぬ。国家間のバランスを保つため、後はお主自身が考えて行動するのじゃ』


 その言葉を最後に、野球狂神の声は聞こえなくなってしまった。

 しばらくして少し落ち着いてから頭の中で何度か呼びかけてみるが……。

 再び言葉が送られてくることはない。


 野球狂神め。

 本当に勝手な奴だ。全く。

 ……にしても――。


 どうやら【Total Vitality】はピッチングの時のスタミナだけに留まらず、生きる上で必要不可欠な生命力の強さも表していたらしい。


 いやいや。

 そんなの最重要ステータスじゃないか。

 マジでちゃんと説明しておいてくれよと。

 もしくは、あのチュートリアル的なウインドウに組み込んでおくか。

 欲望のままに大リーグのレジェンド選手の魂ばかりを獲得したことと言い、考えが足りないにも程がある。


 しかし、まあ、何にせよ。

 転生直後即死という事態だけは逃れることができたようで、それはよかった。

 ……今後は【Total Vitality】を優先的に上げていくとしよう。

 いや、マジで。

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