第7話 デート

「渡辺さん!原稿書き上げました!」


私は商談社の渡辺さんに会いに行った。そして原稿をすぐさま読んでもらった。

添削と、ダメ出しが数ヶ所あり、また持ち帰りになった。


いつもなら足取りが重くアパートへ帰るのだが、今回はそんなこと言っていられない。

頭の中はデートで膨れ上がっていた。


そして1週間後、もう一度原稿を渡辺さんに見てもらった。

「よし!いいんじゃないか?編集長にも読んでもらってOKなら、終わりだ」

「ところで、前に私が書いたオリジナルの原稿は、読んでもらえましたか?」

「あ、アレね?アレは今1つだな。ラブストーリーの典型的なパターンで、面白みが無かった。少し恋愛でもしたらどう?違う作品がかけるかもしれないよ」

「そうですか…。分かりました。次は必ず!」

私はそう渡辺さんに吐きセリフを言い、アパートへ帰った。

しかし今回はあまりガッカリしていない。なんたってデートがある。久しぶりのいや、何年ぶりか分からない程のデートだ。

これでラブストーリーも上手く書けるかもしれない。

私はウキウキしながら、その夜鎌田さんに電話をかけた。

そして、次の日曜日に水族館に行くことにした。


デートは順調そのものだった。大きな亀が私たちを出迎え、お魚トンネルをくぐり、クラゲや小さな熱帯魚を見て周り、巨大な水槽の前で立ち止まった。ここでさり気なく鎌田さんから手を握られた。

私のドキドキは鎌田さんに聞こえるのでは?と思う程だった。

そしてイルカのショーを見て笑い、最後に沢山のペンギンを見て回った。

男の人に手を握られるなんて、何年ぶりだろうか…。私は女性として見られているんだ。そう思うと、


(あの時デパートで化粧品買って良かった!店員さん、ありがとう!)


と、顔を緩ませながら思っていた。


✤✤✤


次の日曜日は鎌田さんのアパートへ遊びに行った。

2回目のデートで早すぎるかなとも思ったけれど、お互いそんなに恥じる年令でもない。

鎌田さんのアパートは整理整頓がキチンとしてあり、ゴミひとつ無く、どこもピカピカだった。

「すごいキレイ好きですね」

「そう?普通だよ。僕はね掃除が苦手なんだ。だから散らかさないようにしているだけだよ」


( 笑顔が眩しい…。そして私と随分違う。この人とは結婚までは無理だな)


鎌田さんはコーヒーを入れ、テーブルに置き、身の上話をした。

私はフムフムと黙って聞いていた。

そして少しの間があき、2人は沈黙になった。

「福富さん、僕、初めて見た時から好きになりました。恥ずかしながら一目惚れです。キスしてもいいですか?」

私は小さくうなづき、目を閉じた。

そして鎌田さんの唇が私に触れた。


(ああ、これまた何年ぶりのキスだろうか。鼻で呼吸していいのかな?止めてた方がいいのかな?)


結局呼吸を止めてキスをしたから、途中で苦しくなり、それで私から離れた。

「今度は福富さん、いや、聖ちゃんのアパートに行ってみたいな」

「え?あ、あの…私のアパート、散らかっているんで…」

「少しくらい散らかってた方が生活感があって、僕は好きだよ」

「いや、その…本当に散らかっているんで…」

「聖ちゃんはとても謙虚なんだね。そういうところも好きだな」

鎌田さんは眩しすぎる笑顔で言った。

「じゃ、じゃあ、いつか…、そう、いつかにしましょう。原稿とか色々あるんで…」


その場を何とか切り抜け、私は帰路に着いた。


(どうしよう。ほんとに来たら…。Gもいるし、こんな状態じゃ座る場所も無いし…。でも、今日会ったばかりだから、忙しいとか何とか言って、誤魔化せばいいか)


私は軽く考え、ペットボトルだらけの洗面所に行き、そのまま水で洗顔し、いつもの場所で眠ってしまった。

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