第2話 ゴースト

朝昼兼用の食事を取った後、書き上げた傑作の原稿用紙を封筒に入れた。

商談社にすぐ様持ち込みをしに行く。

運が良ければ読んでもらえるし、まあ、10年も前からボツになっているから、それにも慣れてきている。いや、慣れてはいかん。

そうだ。今日は勝負服の赤いカーディガンを着ていこう。

ベットの上の山積みの洋服の中から!少し(?)しわくちゃの赤いカーディガンを引っ張りだした。

匂いを嗅いでみる、うん。臭くない。

お気に入りの黒いパンツは、何度も履いているから上の方にあり、探しやすかった。

「赤いバッグは…」

小物も赤で決めようと思い、赤いバッグを探してみる。が、この辺りには無さそうだ。

「クローゼットの方かな?」

足元をぐちゃぐちゃ歩き、よろけながらクローゼットの前に立った。もちろん扉は開けっ放し。その方が物は探しやすい。

上半身をクローゼットの中に入れながら、赤いバッグを探してみるが、なかなか見つからない。が、物をよけているうちに、赤い色が目の前に現れてきた。

「あった、あった」

赤いバッグは多少よれていたが、中に財布などを入れれば、形は整うだろう。

ところで肝心の財布は…。足元の物をよけながら探してみる。

「確かさっき、オーブントースターの辺りで見つけたような…」

オーブントースターが埋もれてあった場所をもう一度ガサゴソと捜索してみると、ようやく見つけた。お金は入っている。

そしてまた物を踏み付けながらテーブルの上にある原稿用紙の入った封筒を取り、玄関に向かった。

カギだけは無くさないようにと、下駄箱の上のカゴの中にいれてある。

問題は靴だ。黒のお気に入りのスニーカーを探すが、片方が見つからない。

「またか!」

私は段々イライラしてきた。

片方のスニーカーは、玄関入って左側のバスルームの近くにあった。とりあえず見つけたので、やっと商談社に持って行ける。

やっとの思いで、玄関を開け外に出た。


✤✤✤


地下鉄を降り、すぐに商談社に着いた。

「渡辺さんに会いたいんですけど…」

受付で問い合わせてもらう。

「どうぞ」

「ありがとうございます」


「渡辺さん!今日こそは良いの書けたので読んで下さい!」

担当の渡辺さんを見つけると、聖は大きな声で名前を呼んだ。すると

「ちょうど良かった。僕の方からも用事があってね。来てくれて助かりましたよ」

聖は嫌な予感がした。

「最近の中では最高傑作のが出来ましたよ。出来ればすぐに読んで欲しいんですけど…。」

「あーごめん、ごめん。この頃ちょっと忙しくて…。後で時間取ってからその時ゆっくり読ませてもらいますよ。それよりコレ…」

やっぱり…。

「今度はアイドルの柏木 姫乃を頼みたいんです。コレにインタビューした時の話が録音されていますから。」

「またですかぁ?今度はアイドル?自分で書けないなら出さなきゃいいのに…」

「まあ、まあ、そう言わずに…。今度のギャラはいいですよ。3割だそうです。」

「え!3割ですか?1割じゃなくて?」

「そうですよ。どうですか?」

「分かりました。引き受けます。期限は?」

「3ヶ月だそうです」

「はぁ?3ヶ月?早すぎですよ!」

「その分ギャラが良いのだから。じゃ、よろしくお願いしますね」

「渡辺さん…」

聖はテープレコーダーと、取材した時のメモと写真数枚渡された。写真はイメージが湧くようにとのことだった。

渡辺さんにもう一度原稿に目を通してもらうように伝えようとしたが、あいにく渡辺さんのスマホに電話があり、聖は念を押すことが出来なかった。


またもやこうして原稿を頼まれてしまった。

そう、聖は生計を立てる為に、時々ゴーストライターとして原稿を書いていたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る