第7話

「んで、どした?」


 ブリッジにて定位置に着席。ってか別に俺座らなくても良いんだけどね。立ってても疲れないし。なんなら走ってても疲れないし。この体にはスタミナって概念が無いらしいって事を最近ようやく理解できた。ただし、メンタル面は疲れるし、体にも影響を及ぼす模様。


 既に操作していないのに映し出されているのは調査ロボットのカメラ映像。ロコンが映してくれているんだろう。


「マスター。この地に入る事が可能なを覚えておいでですか?」


「あ~あったね。そんなの」


【ラララ宇宙号】がある中央からほぼ真南にある亀裂。

 ここは崖に360度囲まれた窪地だと思っていたけれど、一カ所だけは違った。そこには崖に亀裂があり、登山してそのままここに入れる様になっていた。すっごい狭いけど。


 で、そこがどうした?


「その場から


「・・・えマジで?」


 周辺に広がる森には野性的な生命体しか居なかったはず。

 徹底的に調べたからそれは間違いない。それなのにここに人?まさかあの海を渡って、森を踏破して、このバカデカい山を吹雪の中、分厚い雲の中を登って来たって事?すご。そうまでしてここに何用だ?ただの遭難…の可能性は低いか。


「ところでレコンは?」


「…我が姉ながら誠に遺憾であり、マスターには大変申し訳なく思うのですが。

 ――――――突撃しました」


「うおぉい!?」


 何してんの!!


「申し訳ありません。気が付いた時には既にこの船を飛び出しておりました。止める間もなかったのです」


「えええぇぇぇ~~~」


「現在調査ロボットでその場を映しています」


 ん~?ああ、あれか。ちょっと小さくてわかりづらいけど…マジで人じゃん。ま、気絶?してるみたいだけど。


「あれは…死んでない、よな?」


「直前までふらつきながらですが歩行しておりました。そのまま死んだとは思えませんので、気絶しているだけかと…」


 ん~ちょっと映像が遠すぎて分からん。生きてるなら呼吸で体が浮き沈みしていると思うんだけど。


「倍率は最大だよね?」


「はい」


「んじゃ、もうちょい近づこう。最大倍率で画面いっぱいにあの人たちが映るくらいに」


「畏まりました」


「艦長。レコンから通信に応答がありました。現在待機させる事に成功しました」


「お?よく止まったね?」


「艦長に嫌われる旨を伝えたところ、素直に待機に応じました」


 いや、俺一言もそんな事言ってませんけどね?そもそも通信をする様に指示も出してないからね?エルメリアなら通信してくれるだろうと言う予想はしていたけど、それは予想外ですよ?


「どうしますか?」


「ん~接触はしてみたい気持ちはあるんだけど…どう思う?」


「私としては様子見をするのが確実ではないかと思われます。会話が可能であるのかも不明。何かしらのウイルスを保有している可能性も否定できませんし、私たちに対して敵対する可能性もあります」


 あ~確かに?エルメリアの言う事は最もである。

 未知の病原菌とかは怖いからな。ゲーム時代の性能がそのままだと思われるこの【ラララ宇宙号】の設備を使えば問題なく対処可能だろうけど。

 だからと言って警戒しないのはちょっと、ね?


 そもそもエルメリアの言う通り会話が可能か分からない。

 恐らくは独自の言語を保有しているだろう。衣服も古めかしい感じはするものの、ちゃんと着用している事から決して原始人的な感じではない事はわかる。つまり文化が発展しているって事。つまり、言語はある。それがなきゃ文化の発展なんてありえないだろうから。

 しかし、その言語を使って話されても当たり前だけどこっちはわからない。逆にもしも向こうが俺たちの分かる言語で話してきた場合は仮想現実の可能性がまたぐっと高まる。


 ま、流石に仮想現実はもう否定しているけど。いくら何でも期間が長すぎるっちゅーの。


「わたくしとしても接触は控えるのが得策かと思われます。

 エルメリアが指摘した点もそうですが、単純に武力行使をしてきた場合の危険度がわかりません。我々にそれを跳ねのける事が出来るかどうかも全くの未知数ですので」


 あ~それも確かに…。


 俺たちは強い。

 でもそれはあくまでも『ゲームの中では』だ。ゲームの中で言えば俺たちの戦力は上位プレイヤーのそれだ。だけど、それが果たしてどこまで通用するのかはまだ分からない。試してもいない。


 あの人は少なくともあの森に生息していた生命体と渡り合ってここまでやって来ている。計測したデータだけで言えば俺たちもあの森では敵無しだけど、あくまでもデータ上での話で、それが実戦となった場合はどうなるかわからん。

 戦いの経験はゲームの中でだけ。しかも、その経験はルールとかパターンが存在していたもの。ルール無用・パターンなしとなった場合俺たちはどこまでやれるのか?それがわからんからってのもあって実戦もせずにここに引きこもっている訳だし…。


「レコンの意見は接触、だそうです。

 理由としては私とロコンの懸念はもっともであるが、かなり衰弱しているから人命救助したい、との事です」


「・・・は??」


 え?待機してるんじゃないの?なに見てんの?


「待機に成功したのは目標物の100m手前ですので」


 うおぉい!?

 近い!近いよ!!


「マスター。どうやら生きてはいる様です」


「ん?」


 あ~調査機が距離を詰めた結果、呼吸をしているのがわかる。

 うん。確かに生きてはいる様だ。でも、レコンの情報通り顔色がすこぶる悪く衰弱しているのが見て取れる。呼吸も浅く早いようで、汚れも酷く目立つ…。結構無理してここまでやってきた感じか?


「……ん~~~~~――――――仕方ない。人命救助だ。が、レコンはすぐに戻って来い。直接の接触は認められない。エルはそれを伝達、説得してくれ。

 ロコン。開拓専用ロボットをあの場に集めて運ばせてくれ。目的地はこの船だ。それから【ライトシャワー】の準備」


「サー」「承知しました」


 滅菌作用のある光を出す【ライトシャワー】だけど、正直それがどこまで通用するのかもわからん。もしかしたら無意味な可能性もあるし、もしかしたらあの人、と言うかこの星の人には必要な菌まで滅菌してしまい、その結果あの人を殺してしまう可能性も否定できない。


 だけど、俺たちの安全が一番。これは譲れん。


 地球じゃない場所で正直暇を持て余しているけれど、別にだからと言って死にたい訳じゃない。エルメリアたちを失いたい訳じゃない。

 そんなデンジャラスな暇を感じさせない出来事はゴメン被る。だったら暇で暇でしょうがない精神が病みそうな日々の方が俺は許容できる。だからこそ引き籠っている訳ですしな。


「…も、戻りましたぁ~」


「レコン」


「ひゃ、ひゃい!!」


「勝手な行動はするな。お前は勿論、エルにもロコンにもそして俺にも危険が及ぶ可能性があるんだ。好奇心を持つように生んだ俺が悪いのも分かるが、我慢してくれ」


 そうなんだよね。そもそも俺が設定してしまった好奇心が今回レコンが暴走した要因だ。だから完全にレコンだけが悪いとは言えない。俺も謝る。だから、レコンも少し加減してくれると嬉しい。


「すまんな」


「は、ハルキ様は悪くないですよ!う、ウチが…うわーーーん、ごべんなざい!!」


 あ~ぁ~a~。


 どうするべ…は?え?なに?エルさん。まさかそれ抱きつけって言ってるのか?いや言葉は使わずにジェスチャーで示すとか…中々人間味が溢れて来たああ、はいはいわかりました。


「ハル゛ギざまぁ~~~~」


 俺ざまぁ~。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「落ち着いたか?」


「あ゛い」


 よしよし。頭を一撫でして…っは!?こ、これが庇護欲、とか…?無意識に撫でてしまった!何気に初めての行動。現実じゃ子供なんて周りに居なかったし…。嫌じゃない?大丈夫?


「マスター。目標物の滅菌処理、および目標物と接触した物の滅菌処理。共に完了しました」


「あ、もうそこまで進んだのね」


 ごめんね?任せっきりで。ちょっと忙しかったのよ。遊んでた訳じゃないのよ?


「追加でライトシャワーを当てながら身包み剥いじゃって。服とかも全部ね。んで、剝いだものは満遍なく滅菌。その後はー…取り合えずそのまま開拓専用ロボットに保持、適当な使ってない部屋で待機させといてくれさせといてくれ。後は船付近で移動した経路の滅菌洗浄を頼む」


「承知しました」


 プライバシーの為に映像は消してっと。

【ライトシャワー】は入口に設置してあるから船内は問題ない…いや、そうか。


「身一つにしたら医務室まで運んじゃって。同じく船内で移動したルートも滅菌洗浄を頼む。検査は遠隔でしてくれ」


「畏まりました。…ですが」


「ん?何か問題あった?」


「どうやら一人では無かった様です」


 何?いやいやどう見ても一人だったよ?

 服が少ししか見えない全身すっぽりのフード付きのマント―――外套?をしてたけど、どう見ても人が隠れる様な膨らみは無かった。強いて言うなら背中に担いでたリュック。と言うか背負い袋?くらいだけど。いくらなんでもその中に人は入れないでしょ?例え入れたとしてもどんなサイズよ?ってなるべ?かなり小さい子供ならいけるくらいだから、そんな子供を担いで明らかに危険を冒してるのはなんでだよ?っともなるし。


 意味わからん。


「背中に背負われていた袋。ではなくただの布が巻かれていただけの人でした」


 あいや~。そもそも袋じゃなくて人そのものだったのか。


「なるほどね。ま、二人とも医務室に運ぶのは変わらんな」


 問題は…医務室にある医療ポットは俺用に一つしか設置していないんだよね。


「どっちが重症そうだったとかわかるか?ロコン」


「申し訳ありません。わたくしには判断出来かねます」


 ま、そうだよね。

 結構人間らしい言動も多くなった。とは言え、元はアンドロイドだからね。そんなの分からんだろう。今だって顔色一つ変えずに遭難者の裸を見てるくらには人間味がまだ薄い。

 だから人の顔色なんてレコンみたいに『明らかに顔色が悪い』程度なら判別できるだろうけど。その状態がどれだけ不味い状態なのか、『程度』を見極めるのは無理があるだろう。俺だって難しいしね。確実に出来るのは医療に精通した人くらいだろうし、これをロコンに求めるのは間違ってた。


 そんな反省はさておき。背負われていた方が多分重症だよな?そっちを先に医療ポットに突っ込んで。悪いけど背負っていた方はただ疲労から来る衰弱だろうから後回し…いやそれも危険か?でも他に方法無いしな。


「背負われていた方を先に医療ポットへ。検査と必要であれば応急処置をしてからもう一人を医療ポットに入れてくれ」


 治療も検査も医療ポット一つで出来る。遠隔操作も出来るし、検査結果もここから閲覧できる。


 さてさて、プライバシーを尊重して映像は検査結果、数値と症状を文面化したものだけを表示…ん?


『正体不明のエネルギーの存在を感知』?


 丁度心臓の位置に謎のエネルギー、か…。なんだそれ?

 いや、一番集中しているのが心臓の位置ってだけで体全体にエネルギーが存在してる?


 ――――――これってどうにも出来なくない?

 医療ポットも『正体不明』って言っちゃってるしさ。ってか人体に『エネルギー』ってなにさ?機械化手術を受けてるなら、まぁわかる。でも、それは検査結果からも否定。体は完全に人間のそれ。俺の記憶にあるものと比較しても変わりはない様に思う。


 ん~。

 このまま放置するのは少し…と言うか、かなり不味い。検査結果には『衰弱:大』と『生命維持機能低下:大』、『臓器全般の損傷』そして『脳細胞の損傷』があった。更に追加で『低体温』も。

 放置したら普通に死ぬ。ってか今よく生きていられるね?と言うレベルである。


 先ずは症状がはっきりして処置が簡単な『体温低下』と『衰弱:大』。これには【医療用レーション】を液状にして口に突っ込む。これで【医療用レーション】に無数に含まれているナノサイズのロボットが胃腸系の代わりをし、同じく【医療用レーション】に含まれている栄養を体に吸収させる事が出来る。

 次に『生命維持機能低下:大』と『臓器全般の損傷』、『脳細胞の損傷』。これには【回復薬】の投与で大丈夫なはず。人体の構造は変わりない様だし、中に生息している微生物も違いはあるけど治療の邪魔になるようなものも確認されてない。だけど、最悪の場合『正体不明のエネルギー』が何かしらの影響を与えちゃう可能性があるけど、ごめんなさい…。今は目を瞑るしか処置方法がわかりません。

【医療用レーション】と同じく【回復薬】にもナノサイズのロボットが無数に含まれていて、これらが体内外の損傷を治療してくれる。損傷が激しい場合は治療がある程度進むまで代わりを務めてくれる優秀なロボットたち。


 まあ、この方法で大丈夫でしょう。


「と、思うんだが?」


「後は経過観察するしかないのではないですか?」


 まぁ、正直エルメリアの言う方法しか俺も思いつかん。


「応急処置としてはこれで良いかと思われます。後は経過観察するのは当然として、もう一人の治療を優先。話を聞ける様であればどちらか、あるいは両方から話を聞いて治療法を模索しては如何でしょう?」


 うん。ロコンの案で行こう。

 それ以上はどうしようもない。


 んじゃ、医療ポットから運ばせて…あ、待機場が無いわ。はっはっは。


「エル。悪いんだけど錬機で小さめのベッドを二つ、それとマット、掛布団もそれぞれ2つずつ作って来てくれ。運搬は開拓専用機にやらせるから取り出して放置。こっちに戻って来てくれ」


「サー」


 さて、じゃあ、申し訳ないけどその辺に置いて、もう一人を医療ポットへ。


 んでんで、検査結果は…。


 んん??

『正体不明のエネルギーを感知』??こっちも??

 だけどさっきの人よりもエネルギー量が少ない。これは変わらず手出し出来ない。出来るのは他に出てる症状『衰弱:中』と『生命維持機能低下:小』、それから『低体温』だけだな。同じく【医療用レーション】と念の為【回復薬】を投与。


 これでどちらも様子見するしかない。

 どちらかが目覚めれば話を聞けるだろう。


 けど…


「果たして言葉が通じるのかどうか…」


「おそらく言葉による意思疎通不可能でしょう」


「なんでそう思うんだ、ロコン?」


「運搬最中に言葉を漏らしていましたが、明確な意味が分かりませんでした」


 運搬中って言うと、うわ言って事か?でもそれって要は寝言でしょ?寝言は意味不明なものが多いからそれだけで判断するのはどうだろう?


「文法的に意味が伝わらなかった場合は問題ありませんでしたが、単語、短い言葉の意味が分かりませんでした。ですので我々の使う言語とは違うと判断されます」


「マジか~」


 どうするよ。


 いやまあどうするもこうするも時間をかけて解決するしか方法はないんだけど。幸いな事にこっちには元アンドロイドが3人も居る。今現在は人間ではあるけれど、普通の人間では無理な事も可能なまま。学習においても他の追随は許さないレベルである。カッコ、俺は除くものとするカッコ閉じる。


「俺たちが調べれる限りでは感染する様な何かを患っている様ではない。が、しばらくは直接対面する事は禁止。もしかしたら発見できてないだけで、何かの病気を持っている可能性は否定できないからね。

 だからしばらくは会話に通信を使う。これは俺だけじゃなく3人ともそうしてくれ。そんで3人には言語が違った場合の対処をして欲しい。それぞれ時間が空いた時なんかを使ってどうにか協力して言語を習得してくれ」


 時間は多少かかるだろうけど。仕方なし。

 これ以外の方法としては…まぁ。あの人達を機械化してしまえば話は早くはある。そうすればエルメリアたち3人とリンクする事が可能となり、エルメリアたちはあっちの言語を、そんであっちの人はこっちの言語を習得する事が可能とはなる。

 時間的に考えればかなり効率的な手段ではあるし、俺も会話が可能となるけど、流石に倫理的に不味いので不採用。


「承知しました」「りょーかいっ!」


 3人には苦労を掛けるね。

 エルメリアの返事は無い。ここに居ないから当たり前ですけどね?

 勝手に決めてごめんね。

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