第3話

「っふ!・・・っと。問題なし、だな」


 やっぱり、と納得する気持ちもあるけど、それと同時に驚愕の自分の身体能力。俺がゲームで習得していたものは全て確認出来た。これである程度は自分のスペックを把握できたと思う。完全に同じ、とは言えないけれど、凡そゲームの時と同じ感じで動いて問題なさそう。問題点があるとすればスタミナ、かな。


 現実となったのだから当然ながら『疲れ』がある。

 ゲームの時も集中力が切れる事でプレイイングが低下していたけど、今は単純に体力的な問題だ。勿論ゲームの時と同じく集中力が原因で失敗したり、普通出来る事が出来なかったりもするだろうけど、ゲームの感覚で体を動かしていく事で一番に気を付けておくべきなのは、やっぱり概念が存在しなかったスタミナだろうな。


 っと、皆もそろそろ終わりそう、かな?


「艦長」


「終わった?」


「はい。

 以前と同様のパフォーマンスを行えます。が、少し稼働しただけなので不確定ではありますが、時間経過と共にパフォーマンスの低下が予想されます」


 お~。すごいな。その感想がすんなり出て来るって中々出来なさそうなんだけど?でも、元アンドロイドの面目躍如。僅かな変化を感じ取ったって事なんだろう。


 森を歩いた程度では特別疲れを感じなかった優秀なこの体ではあるけれど、流石に全力でシャドーを行った事で僅かに息が深くなるのも感じた。この程度でも誤差と言えるレベルではあるけど、能力低下があった。

 元ただの人間である俺が感じたのだから、元アンドロイドの彼女が気が付かないはずもない、だろう。


「人間ってのはスタミナがあるからな。それを消費して活動するんだ」


「スタミナ…」


「スタミナの消耗を抑える動き方も覚えないとな」


「サー」


 そんな事を言ってる俺自身もこの体にもっと慣れる必要があるし、エルメリアと同じく長く動く事を考えないといけない。元々はただの一般人だから。戦っていくには絶対的に必要な能力だろうから……な?・・・あれ?別に必要ないか?敵が居る訳でもない、し?


 とか、言ってるとどこからか敵が出て来る訳ですよ。わかってる。この周辺だって完全に安全だと分かった訳でもないからな。

 だからやっぱ訓練が必要って事です。『備えあれば患いなし』と言う諺があるくらいなんだから。油断、怠慢しないようにしないとね。


 だけど、訓練方法がちょっと問題。

 そんな訓練方法知らんし、理論もなんもかんもわからん。取り合えず訓練と称して走り込みとか組手とか模擬戦とかすればええ?


 方法が分からない以上考えても仕方なし。思いつく方法で今後やっていくしかない。単純に『体力づくり』をしていくしか方法は出てこない。


「レコンとロコンも終わったみたいだな。・・・ま、帰るか」


「サー」


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「サ・イ・ア・クぅ!」


 完全に頭に無かったぁ~!!

 お出かけして帰宅した後は当然ながらシャワーなり風呂なり、取りあえずひとっぷろ浴びたいのが現代人。と言うか俺。


 それが

 今

 失われている!!


「考えてみれば当たり前なんだけど…完全に失念してたわ~」


 普通に考えれば当たり前のことだけど、ゲームにはシャワーなんて必要のない要素。ゲームによっては遊び心で実装されてたりするだろうけど、【宇宙渡航】には無かった。必要性も感じなかったし・・・。


 あ~、そう言えば…危険な病原菌とかが蔓延る惑星用に滅菌作用の【ライトシャワー】とかいうモノがあったな。うちの船にもちゃんと設置されてるけど、あれはあくまでも菌を殺すだけのもの。汚れは当然落ちないから今俺が求めている物とは違う。


 そして、また一つ重大な事に気が付いた。


「トイレもないじゃん!!」


 ガッテム!!


 そして、掻いていない汗を流したい欲がより一層高まっています。


 どげんかせんと!!


「緊急事態!」


「?」「へ?」「どうなさいましたか?」


「君たちも人間の体を得て汗を掻くし、排せつすることもある。

 汗を掻いたら風呂に入って汗を流さなければ異臭がし始めるだろう。幸い病原菌は船にある機器で対処可能ではあるが、汚れはどうにも出来ない。したがって、早急に風呂が必要である。

 同じくトイレ。

 人間は排せつする際にトイレが必要不可欠。その辺で用を足してしまっては野生動物と何ら変わらん!我々は宇宙をも旅する文化人である!したがって、トイレも早急に必要である!」


「サー…?」「うん?」「なる、ほど?」


 こいつら…事の重大さを全然理解してないな!?


「しっつも~ん」


「何かね?レコン」


「ウチたちはアンドロイドだから必要ないんじゃないの?」


「あん?……あ、そう言えばレコンとロコンは検査してなかったな・・・」


 ん?でも待って?

 エルメリアの検査結果情報が共有されているんじゃないのか?


「エル」


「はい」


「エルの体を調べた結果の情報は共有してないの?」


「現在、情報の閲覧を行えるのは端末を使用し、【ラララ宇宙号】のデータベースの全てを閲覧可能なのは艦長だけです。そして私は【ラララ宇宙号】と繋がっている為艦長が閲覧禁止にしていない情報については、いつでも閲覧可能です。レコン、ロコンについては不明です」


 不明?なんで?船とアンドロイドは全員リンクしてるはず…まさかの変更点?


「マスター。

 現在、俺と姉さんはその権限がはく奪されています」


「え?いつから?」


「おそらくはこの地で目覚めた時から。と思われますが…申し訳ありません。今言われるまで気が付きませんでした」


 おいおい。って・・・それもおかしな話……にはならないか。アンドロイドのままであったらそれに気が付かないのはおかしな話ってなるけど、調べてはいないけど、ほぼ間違いなくレコンもロコンも人間になっているはず。だからこそここまで感情豊かに俺と会話している。人間だからこそ言われるまで気が付かなかった。所謂『うっかり』って感じなんだろう。


 納得。


「許可を与えるにはブリッジに行くしかない、か。

 ん~――――――取り合えずレコンとロコンはに行って自分の体を調べてきて」


「医務室ぅ?メンテナンス室じゃなくて?」


「ああ。

 取り合えずやってみれば色々とわかるよ」


「ん~?」「畏まりました」


 よし。二人はこれでOK。あとは―――


「エルには『錬成室』に行ってもらいたい。

 そこで水を汲み上げるもの。水を沸かすもの。人一人が座って入れる様に少し広めで、水を溜め、且つ人が安全に入れるように金属以外の素材で入れ物を作れるように準備してて」


「サー。

 それらは単独で使用されますか?」


「あ~水を汲み上げて沸かし、入れ物に流せるように一流れの設備にして欲しいな。あ、それから温度調節が出来る様にもしてほしい」


「サー。

 直ちに取り掛かります」


「よろしく~」


 さて、俺はブリッジに行ってレコンとロコンに権限を復活させなきゃな。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 あれやこれや終了。


 レコンとロコンのリンク権限復活。そのついでに他にも何か設定が変わっていないかのチェック。


 いや、やってよかった。チェック。

 色々と変わってた。と言うかあれは『初期化』してたと言った方が良いか。じゃないとなんでエルメリアだけがリンク権限その他もろもろの権限が有効のままになっていたのか疑問が湧く。

【ラララ宇宙号】と元アンドロイドである三人の設定の見直し、変更も完了。


 医務室での検査結果が表示された内容に頭を捻って居た二人には現状を受け入れ、『人間』となった事も無事に伝えれた。特段混乱はしていない様だったから大丈夫、なはず。エルメリアも含めて要観察。と言うかケア?が必要かな?やり方はさっぱりわからんけど話を聞いて俺の意見を述べることくらいは出来る。三人には今後何かあれば・・・いや、しばらくは毎日話を聞くのも悪くない。かな?


 エルメリアにお願いした『設計』をチェック。【錬機製造機】で生産完了。


 持ち運びするために【データ化収納】が可能なデバイスに保管。目的地である川の傍に組み立て、いざテスト稼働。問題なし!


 忘れてたタオルと寝巻を戻って生産。雑オブ雑の無地のタオルと面倒だったのでフリーサイズのバスローブ寝巻。更に肝心の体の汚れを落とす洗剤。ボディーソープとシャンプー。とリンスも生産。


 寝巻は流石にレシピに無かったけれど、何故かクエストで一度しか作らなかったタオルと洗剤類は非常にありがたかった。いちいち手作業で全部を設計するのは面倒なので。


 さて………ひゃっほ~い!風呂じゃ~!!


「艦長」


「―――デリカシー!!」


「??」


 俺もうすっぽんぽん!なんで平気な顔してこっち見てるんですか!?

 エルメリアさん!!


「水源は今現在ではこの川しか発見できてはいませんが、本当にこの様な野ざらしの状態でいいのですか?」


「いや、本当は良くない。小屋くらいは建てたいけれど、もう日も沈みだしたし、俺も汗を流したい気持ちが我慢できなくなってきたから今日はこのままで・・・っていい加減こっち見ないで!?」


「サー」


 大事な部分は見えてないだろうけど、普通に恥ずかしい。ってか、なんでエルメリアは平気なんだ?感情を得たはずだろう?普通異性の裸なんて「恥ずかしくて」とか、あんまりそう考えていてほしくはないけれど「汚い」とかなんか感情が動いて見ようとはしないと思うのだが?――――――感情が芽生えたばかりでそうはならない。とか?


 あ~でも確かに感情がある子供も普通に男女関係なく裸で風呂に入ったりするしな。そんな感じか?まだまだ芽生えたばかりの感情は子供と同じって事か。そう考えると納得は・・・まあ出来なくはない。でも俺としては勘弁してほしい。


 そんな恥ずかしい話は脇に置いておいて、と。

 風呂じゃ~!


「っあ―――ふぃ~~~~~」


 気持ちよ~~~~~。


 体を洗ってさっぱり。風呂に浸かって気分さっぱり。いやはや、何と有難い事か。最高です。


 今日は取り合えずの感じが多分に含まれた状態での設備設置だから見直しが必要だなぁ。汲み上げ装置から伸びたパイプを直接川に突っ込んだだけだし、屋根も壁もないから恥ずかしい思いもした。そもそもなんで山頂と言われたこの地に川があるのか?甚だ疑問である。その辺りも調べたいなぁ。もしかしたら湖とかもあるかもしれん。

 それに加えて距離も問題。


【ラララ宇宙号】から川まで歩いて30~40分くらい時間がかかるのが何気に一番問題だ。行きは良いけど、汗を流した後にそんなに長々と歩くのは勘弁したい。精々5分程度が俺としては限界だ。

 どうにか設置場所を考える必要がある。


 風呂関係だけを考えても見直しが必要で、水源の謎もある。

 トイレは取り合えず設置が完了してそれでしばらく…数日は大丈夫だろう。排せつされたものの処分……これも考えなきゃなぁ。しばらくは備え付けてあるタンクに溜まっていくから問題は無いだろうけど、多分匂いがすごい事になるだろうし…早期解決を考えるべきだろう。


 食事についてはゲーム時代からお世話になってるお料理マシーンがあるから心配しなくていい。問題なく稼働もするだろうし。ただ不安なのは味。ゲームの時の料理はただ使用するだけで直接口にして食べる物では無かったから、もし不味かったらと考えると恐ろしいが、最悪自炊も出来るから大丈夫。食材も倉庫に一杯満載。問題なく使える……はず。あとで確認しなければ。

 服も見てくれを気にしなければそれなりにある。流石に寝巻は無かったから作ったけど、それ以外は…あ、下着が無かったわ!明日作る…いや、これから作るべきか。折角風呂に入ってさっぱりしたのにもう一回さっきまで着てた物を着るのは抵抗がある。作るまでは取り合えずバスローブ寝巻だけを着て行けばいいか。

 住居も今日は仕方ない。船で寝るとして、明日にでも外に小屋を建てるかな。船の中で生活するには色々と不便だ。

 風呂もトイレもない船内よりも外の方が快適に暮らしていける。船内は広いからいちいち歩き回る必要も出て来るし。


 あ~、にしても今日は疲れた。


 明日から頑張ろう!


「エルたちも順番に風呂に入って汗を流しな」


「サー。

 ですが、入浴方法が分かりません」


 あ~そりゃそうか…。


 どうするか――――――。





 頑張って説明した。


 トイレの事を考えて頭を抱えた。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ん~気持ちよかった!」


 そうだろうそうだろう。

 これぞ日本人の心!風呂の力だ!


「艦長は何をしているのですか?」


「い、いや、べ、別に?」


 ――――――クッソ可愛いんだが!?


 何この美人!?お風呂上がりの上気した頬とか最高かよ!あ、レコンも可愛いよ?でもね?やっぱ見た目がさ?幼いからさ?俺の好みとしてはやっぱエルメリアみたいな美人なお姉さんがタイプな訳。別に贔屓してる訳でも無いし、君を作った時にも真剣に悩んだし手を抜いた訳じゃないよ?ただの好みの問題だからレコンはレコンで可愛いから!全然余裕で可愛いから心配しないで「ハルキ様ぁ?」あっはい。


「な、何かな?レコン君」


「なんでかなぁ?これが人間の『感情』ってやつなのかなぁ?ウチ、今、何かが爆発しそうな感じがしてるの…これが『怒り』なのかなぁ?」


 ヒィィィ!!??


「な、なんで怒ってるのかな?」


「わかんない。なんでか・・・ビビッと?来てこう、もやもや?が胸に・・・?」


「い、イライラ、って奴かな?」


「あ、これがイライラなのね?そう、それが溜まって、今怒ってるわ」


 ご、ごめんね?


「これはどうすればいいのかしら?」


「え~っと、好きな事をしたりすると解消されるんじゃないかな?あとは時間が解決してくれると思うけど…。それから運動したり、食事したり?」


 あれ?それってストレス解消の方法だったっけ?似たようなもんだし良いかな?


「食事!」


「おん?」


「ごはん!ウチ食べてみたいわ!」


 あ~そうか・・・そういう反応にもなるか。


 たかがご飯。されどご飯。とは思うし、美味しい物に魅了される人は多くいるだろう。でも、レコンにとって、そしてエルメリアとロコンにとっても食事とは『未知』のものだ。

 今までは必要としていなかったし、食べようとしても食べるための器官が存在しなかった。そもそも『食べよう』と思う事もなかっただろう。ゲームの時もアンドロイドであるエルメリアたちには料理アイテムは使用不可だったし。


 それをゲームの時の様に『使用する』訳ではなく、直接口にして味わえると言うのは『好奇心旺盛』と設定したレコンにとっては是非とも経験したい、味わいたい出来事と言える。そんなレコンじゃなくても僅かにだけど、すまし顔のまま僅かに体を揺らすエルメリアも興味津々の様。ソワソワするエルメリア。くぁわええ!


 ここはひとつ俺の渾身の手料理でも!


 とは思うのだが・・・ごめんなさい。


 やる気はあるけど、想像以上に疲労している。今一乗る気がしない。体の性能を確かめる為に森に行ってた時には全く感じなかったと言うのに、帰ってきたらまるで長旅をしてきたかのように全身がぐったりとしている。


 お風呂に入れていくらかマシにはなって今動けてはいるけれど、本当は早々にベッドにダイブしたい気分なのです。


 だから、ごめんね?

 今日は船内にある『手作り』と謳い文句が説明文に描かれていた設備で勘弁してくださいな。


「ロコンが来たら食堂に行こうか」


「サー」「は~い!」


 平坦な声音のエルの声も心なしか少し大きく聞こえる。

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