配信6.ブルーマンデーレインズのリバースカート


「ブロックされてるーーーー!?!?」


 私の名前はD・D・J ! 超絶美形の外資系企業の営業部長! 趣味は株トレ筋トレ配信応援! 独身生活を謳歌中!

 うぉぉ!! 混乱して自分のプロフィールを羅列してみたが、過度の混乱により構文がちょっとおかしい!!


 え、何かしたか? 何もしていないよな!?

 いつもいつも配信楽しみにして欠かさず見てそっと応援していただけなのに!!

 そう、まるで気分は定点カメラで野性動物の子育てをそっと見守るような……相手に影響を与えずにその成長を見守るような……そんな付かず離れず邪魔しないファン道を徹底していたのにーー!!!!


「壇部長どうしたんです?」

「Was ist los!?」

「え、顔色青いですけど……」

「あああのその何て言ったらいいのか言語化に困るのだがナウでヤングな近代的若者の代表として現在困惑している事を君に相談しても良いだろうか!!?」

「ま、まってください部長! 多言語入り交じって聞き取れないです!! 社内公用語でしゃべってください!!」

「す、すまない……。少々混乱してしまったようだ……」

「午前に超大型の契約取り付けて機嫌良く帰ってきたのに……この休憩の5分で何が……」

「あー、こほん。その……な……ちょっとショックな事があってな……。ええと、最近昼食の合間に、動画を見ていたりするのだが」

「そうなんですね! え、世界経済ニュースのまとめ動画とかかな。後で教えてもらっていいです?」

「黙秘する。それで、その……何故か動画を見ようとしたら、アカウントがブロックされていたようで……」

「……え? それだけ?」

 すっと目が細まる。

「よし、戦争か? 古き傭兵デイラマーンの血を引くダイラムの名において売られた喧嘩は買うぞ」

「いやいやいや、ちょっと失言です!! アラブの王族とも一歩も退かぬやり取りをし、チャイニーズマフィアとやり合った時ですら顔色を変えなかった壇部長の狼狽えた様子が滅茶苦茶珍しかっただけなので!!!!」

「む? そうか。あーこほん、ともかく、私は何もしていないし、むしろ全力で応援をしたいと思う程には傾倒していたので、その、ショックでな……」

「はぁ……誤解なら解けばいいんじゃないんでしょうか……」

「ブロックされて連絡もとれないのに……」

「サブアカウントから連絡を取るか、それかSNSから連絡取るとか……」

「……SNS?」

「はい。最近だと開設している場合が多いですよね。新規動画の告知とか、それこそ読者層へのアンケートや意見拾ったり……」

 端末を操作して、若者がよく写真投稿している……グラムを見るが載っていない。

 次は日本での利用率の高い青い鳥のSNSを開く。


「いた!!!!」

 ろーわん、ってやる気のない舌を出して寝ている狼のアイコンが検索したら出てきた。

 ぷおーとか、ぷえーとか、よくわからない鳴き声がたびたび呟かれているが、動画の告知なども短く書いているため、おそらく本人に間違いない!

「よかったですね。直接メッセージで連絡取ればいいんじゃないでしょうか?」

「ありがとう! なんて心強い部下なんだ!」

「え、あ、はい。憧れの壇部長に直接誉められるの照れますね……じゃ俺はランチに戻るんで……」


 がしっと肩を叩く。

「え、怖いっす。なになになに……」

「問い合わせの相談に乗ってくれ。報酬は明日の高級店でのディナーとフランス圏での交渉術の伝授でどうだ」

「……頑張りましゅ」




 21時55分。

 完璧だ。


 あの後部下にメッセージの内容を精査してもらって連絡を取り、ブロックを解除してもらった。

 あぁ、良かった。ほっとした。

 それよりもSNS越しだとしても、彼と連絡を取れたということにまだ指先の痺れるような感覚が取れない。メッセージを送るときにも震えてしまっていた。

 諸外国の要人と連絡を取る時以上に緊張したな。

 ついでに友人などのSNSプロフィールを参考に、自分のSNSも体裁を整えた。


「ほん……本当に間に合って良かった」

 目頭を押さえる。今日が配信日だったので、部下への労いは次の日に回したが、配信に間に合って良かった。


 今日配信するゲームはカーレースもの。彼の選ぶゲームの中では珍しい部類だが、某土管に潜るキャラクターやゴリラなどの同じ制作会社のゲームのキャラクターが入り交じってカーレースを楽しむので、クロスオーバー作品としても楽しめる。

 『一緒に楽しむ』をコンセプトに二人で遊ぶことができ、上下で画面が別れているのも特徴的だ!

 相手の進行を阻害することができるカーレースというので、本当に楽しみにしていたのだ。

 リアタイできて本当に良かった……!!


『うす、配信はじめるっす』

 22時丁度に配信画面が切り替わる。

『あー、なんか配信見てる人がマジでいるみたいなんで、マジでビックリしたけど。俺のはこんなんなんで。期待はしないで欲しいっす』

 素晴らしい。なんてフェアな態度なんだ!

 過度な期待を持たせないようちゃんと注記するなんて!! 真摯な態度に好感が持てる。

『じゃ、はじめるか。あ、夜ご飯の旨いぜボー食べてるから音入るけど、気にしないで』


 感動のあまり、目頭に涙が溜まる。

 まさか、そんなまさか彼が視聴者を気にした配信を心がけるなんて……この3カ月見続けてきたが、はじめての事だ。

 ……推せる。なんでここに投げ銭機能搭載していないんだ。連打したいのに……。


 シャクシャクという音と共にゲームがはじまる。夜ご飯と言っていたが、この『旨いぜボー』はどんな食事なのだろうか? 軽快な噛み音に、もしかしたら栄養素をフーズドライ化して食べやすくした次世代健康食かもしれない。気になるので後でチェックしよう。


 タン・タン・タン・ポーン!


 音楽と共にろーわんが選んだ毒キノコのキャラクターがレーシングカーで走っていく。

 上からの視点ではなく、後ろからレーシングカーを追いかけていくような、そんな視点だった。

『は? 妨害早くね?』

 普通のカーレースと違い、落ちている様々なアイテムを拾うことで相手を妨害する事ができるのだが、早速ろーわんはバナナをぶつけられて滑ってしまった。


『くそ』


 再び走り出すろーわん。


 音楽が変わり、その後は順調に進んでいるように見えたのだが……。


『……よし、5週目!』


 何かがおかしい。

 この違和感はなんだ。


『7週目……やっと慣れてきたかも』


 待てよ、並走する他のキャラクターの姿が見えない。ろーわんの操る水玉模様のキノコしか存在していないみたいだ。


『あれ、何週目だ?』


「逆走してるーーーー!!!!」


 そうだそうだよ他のキャラクターが誰もいないのも、ろーわん以外は全員ゴールについているからだよ!!

 このゲームはシリーズ初期のものだとはいえ、警告音や表示で逆走を指し示しているが、ろーわんは一切気づいた様子がない!!

 20分、30分とぼんやりと逆走し続けるキノコ改めろーわん。


 流石にろーわんも異変にきづ……。

『旨いぜボーの明太子イカスミ味うまっ』

 かない!! 何故だ!!もう40分以上走り続けているぞ!!

 はわ、はわわわ。これ教えた方が良いのかな。

 え、この動画にテキストを流す?

 私が?

 え、心臓爆発しそう。

 だが、配信時間いっぱい逆走していそうなろーわんに教えないといけないだろうか……。

 ほか、他のリアルタイム配信閲覧者は……ガッテム!

 開始時刻にいた視聴者3名はすでに私しか残っていない!!


 狼狽えながら、カタ……カタカタ……とキーボードを叩く。


【前略、貴方のお使いになられている車は現在、順路を違え、逆走していらっしゃるとお見受け致しますので、こちらの車を一旦止めて……】

「固い固い固い! ビジネス文書しか書けない!!!!」

 デリートで文章を消しながら、えーと、どう書いたらマイルドに伝わるだろうか!


【ろーわんくん、オハヨウ〜😃 💕オジサンはさっきお風呂入ったよ♪(^o^)!ろーわんくんとお風呂いきたイナー💕😄(^o^)💕ナンチャッテ(^o^)(笑)😃💕ところでろーわんくんさっきから逆走してるみたいなんだけど】


「これはアウトなやつだーーーー!!」

 フランクな口調のテキストをコピーして使おうと思ったが、なんで風呂に入った宣言が入っているんだ!!?


 また消し消しと文章をデリートしながら、カタコトと迷いながら打ち込んでいく。

「ええい、気合いだ!!」


【逆走しているようです】


 はぁはぁはぁ、色々と考えて一番飾り気のない文章になってしまった。


『あ? コメント……逆走……あ、ほんとだ』

 キキッとレーシングカーを止めると、のろのろと走りだし大きく回転して壁にぶつかりながら方向転換をした。

 ブロロロっと走っていると、エンドレスに走っていたコースが終了した。


 キノコが喜んでいる。

『どもっす』


 お礼言われたーーーーー!!

 顔を覆ってしまう。

 今日の配信はこれで終わるらしい。

 今まではいいねと高評価ボタンしか押していなかったが……。

 カタタン。


 コメント欄に、顔文字を一つ流した。

 私は、達成感に満足し、気がついたら微笑していた。


 嬉しい。次の配信も楽しみだ。

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