市長の焦り

 市長達がドアを破壊して部屋に入ると、二人の姿は無かった。


 警官隊は手掛かりを見つけようと部屋の中の捜索を始めた。

「奥の部屋の窓が開いています、二人はここから外へ出た模様です」

「よし! 半数は外へ出て外の部隊と合流し、周辺を捜索するのだ!」

「まだ遠くへは行ってはないはずだ! 徹底的に探し出せ!」

「寮と工場の周辺道路を封鎖する様、外の部隊へ連絡しろ!」

「残りは部屋の捜索を続ける」

「何処かに逃亡する場所のヒントが有るかもしれない」

 隊長が部下へ迅速に指示をする。


 市長は、苛立ちを隠せないでいた。

「間違いが起きる前に二人を見つけ出し、娘を保護するのだ!」

「『玄武族』の男が抵抗したら、殺しても構わないぞ!」


「市長、こちらへ来て下さい!」

 警官が呼び寄せる。

 そこには、布を被せたイーゼルがあった。布の下には絵がある様だ。

 警官が布を外す。


「……⁈」


 その場に居た市長と警官達全員が息を呑んだ。

 カンバスにはベッドに横たわる裸婦が描かれてあった。

 女性らしい丸く起伏のある体、細くて長い手足、金色で長い髪の毛……

 どこか憂いを含んだ表情をした裸婦画のモデルは、マヤであった。

 その場に居た誰もがその絵の美しさに釘付けになり、動けないでいた。


「何てはしたない絵だ!」

 市長は怒りで近くにあったナイフで、絵を切り裂こうした。

 しかし、絵を傷つける事は出来なかった。

 余りにも美しく素晴らしいマヤの絵にナイフを突き刺す事は、マヤ自身の体にナイフを突き刺す事と同じだと感じてしまったのだ。


 気を取り直した市長は、カンバスに布を被せた。

 そして壁に飾ってある『虹』の絵見つけて、顔面蒼白になった。

「まさか、『玄武族』の男は『彩虹伝説』を知っているのか……」


 市長の焦りは頂点に達した。

「ここの捜索はもうよい! 全員で周辺を探し出し、娘を保護するのだ!」

「邪魔する者は『玄武族』でも『白金族』でも構わずに逮捕してもよい!」

「一刻も早く娘を!」

 市長は叫んだ。

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