レンのお話

 二週目、三週目の下描き中に、レンとマヤは色々な話をした。

「ねぇレン、あなたは何処で生まれたの?」

「ボクは市内を流れる川の下流にあるスラム街で生まれました」

「前市長が掲げた『優生的人種隔離政策』によって、ボク達『玄武族』は強制的にスラム街へ移住させられて隔離されました」

「そこで、少ない食料と強制労働でボクの家族、両親や兄弟はみんな死んでしまいました」

「ボクも餓死寸前になっていました」

「まぁ!なんて酷い事!」

 レンが見ると、マヤは目に涙をいっぱいに溜めて叫んでいた。

「でも、その時にボクは『虹』を見たんです」

「『虹』?」

「灰黒色の世界の中で空に伸びていた『虹』だけが、色の付いた物だったのです」

「世界にはこんなにも美しい物があるんだなと思いました」

「そして、もっと他の美しい物も見てみたい!」

「頑張って生き抜いて、美しい『虹』をもっと見ていたい!」

「いつかきっと、あの時に見た『虹』を描いてみたい!」

「その気力で生命を維持できて、生き抜いて来れたのです」

「やがて汚職事件で前市長が失脚して、今の市長、マヤのお父様が就任して、ボクにも仕事や住居が与えられて絵が描ける位の生活が出来るようになりました」

「まだ、あの時の『虹』の絵は完成して無いけれど、ボクはもっと美しい物を絵に描けるようになりました」

「それは何?」

 涙を拭いたマヤは興味深げに聞いて来た。

「それは……、マヤさんです!」

「……⁉」

 何も言わないマヤの白い顔は、見る見るうちに黄色く染まっていった。

 それを見ていたレンも灰黒色の顔が黒ずんでいった。

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