第22話 100万クレジットと人助け

「……解ったよ」

 僕は正直、キャサリンが顔を大火傷したことに、何故か気持ちが良くなかった。何故だろう。数秒前にはスッキリして気持ちがいいと思っていたのに。

「キャサリーン!」


 クイズ台にいるルージー夫妻の夫の方は、青い顔で拷問椅子まで駆けだした。けれど、機関銃をもった数人の黒タイツに阻まれる。

「おお。丸っ焦げ。可哀そうにルージー夫人は顔を火傷してしまいました」

 ハリーは大げさに泣いたように手で目元を擦りだした。

「クイズをする者を交替して下さい! ハリーさん!」

 グッテンがスッと立ち上がり、ステージに向かって叫んだ。

「しょうがないから……僕が出るよ」

 僕はしぶしぶと立ち上がる。

「おお、よかった。ヨルダンくん。ちゃんと来てくれたんだね。どうだい? 一生忘れそうもないショーだろう」

 ハリーは目を四方八方へと向け、歓迎したように両手を広げる。

「それでは、回答者の交代です。クイズはまた10問に戻るぞ。次の回答者はヨルダン。キャサリンさんはこのままで。さあ、どうなるでしょう?」

 ハリーはステージに僕を手招きした。

 100人の観客がこの大惨事を目の当たりにして、外館人の僕の登場をまるで救世主のように見つめ出した。よく見ると、奥にある金色の扉・・・つまりは唯一の出入り口にはハリーの部下の黒タイツが数人機関銃を構えて屯していた。誰一人とこの場所から出さないためだ。

 観客が僕に一斉にエールを送りだした。


 大きな劇場のようなこの場所で、100人の観客のエールは空間を満たし、乗り気じゃない僕の心を激しく揺さぶる。

「おチビチャん! 頑張ってくれよ!」 

 少し青い顔のコルジンが逞しい両手を拡声器のようにして応援してくれる。

「ヨルダンくん! キャサリンさんを助けてくれ!」

 あの大人しいグッテンが大声で叫ぶのを僕は何度も聞いた。

「ヨルダン。俺からも頼む。ルージー夫妻はきゅうりをくれる」

 以外にも、雲助がルージー夫人を助けるようなことを言った。

「解ったよ……みんな」

 僕はハリーの抑揚しい手振りで、クイズ台に座る。


 本当はあまり乗り気じゃないんだよね。でも、このままルージー夫人が顔を焼いてもつまらないし、すっきりしない。しょうがないよね。

「ぐ……リスヘル」

 キャサリン夫人が痛々しい火傷をしている顔で、僕を見ながら呟いた。リスヘルって……誰?

「人間の子。ヨルダン。きっと、ルージー夫人の子の名だよ」

 雲助の言葉に、僕は合点がいった。

「さあ、第一問から行こうか。ヨルダンくん」

 真っ白な照明が僕を照らし、金色の宝石となったハリーがマイクを持って言い放つ。ざわめいていた観客が学校のチャイムを聞いた時のように静かになった。

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