虐待防止ステッカーと、子どもの置き去り防止課


 島原勇樹は4人のペインターやラジオ局『Yonug Flowers』に来ている小中学生や高校生たちと、抹茶カフェで虐待防止ステッカーの下絵を描いていた。

 賢哉の愛犬ポピーの肉球やルリコンゴウインコのクロエの羽をスケッチブックに描き終えた勇樹が、胸元にマグロの握りが描かれた黒いパーカーを着た女性の肩に手を置き「大鮪優香さん。ステッカーに入れるオオスズメバチの羽音を録ってきて」と録音機を渡す。

 優香は肩にかけている水色のポーチから録音機を出し、ジェームズの洋服店前に来ていた。

 「いらっしゃいませ」「ジェームズさん。マギーとリックマンの羽音、録音させてください」「……2階に上がれ」ジェームズは優香を店内へ入れた。



 録音を終え、机の上に止まっていたオオスズメバチ・マギーとリックマンの羽をなでて満面の笑みを見せるとブブブブ、と羽音を立てて優香の肩に止まった。

 「ありがとうございました」ジェームズに一礼し、渡された寄付品で青色のパーカーを持って抹茶カフェへと戻る。勇樹たちと抹茶アイスを食べながら案を出し合い、犬の肉球とブルーベリーケーキのステッカーを作ることになった。



 カフェ&バー『月明かり』1階では睦月と亮介が湯気の立つ抹茶を飲んでいた。「田原家の大黒柱として、美月さんと直美を守れ」睦月が亮介の肩に手を置いて小声で言った直後、赤ちゃんの泣き声が聞こえて来た。

 広場に行くと、黒いビニール袋から出された茶髪に緑の目の赤ちゃんがローズの夫でバグパイプ奏者のフランクに抱っこされていた。



 「トイレの入り口で泣き声がして、ロンドン警察署に電話したわ」とローズ。無毒のヘビ、ボア・コンストリクターのジョリーが「ロンドン警察署・ジョリーよ」と亮介と美月に名刺を渡す。ローズに水色のパーカーを着せられた赤ちゃんは女の子で、『ベラ』と名付けられた。



 テムズ川を見ながら歩いていると、1匹のホホジロザメが亮介と美月の前に着地した。「ロンドン警察署、子どもの置き去り防止課ヘレナ・ストロング。田原亮介さんと美月さんですね」と言って、ヘレナは尾に乗せていた名刺を二人に渡した。

 飛ばした水を絆創膏に変えられるテッポウウオのアローン・シューターや野菜好きのカミツキガメ・アントニオと読書好きで体が茶色く、口の形が削って短くなった鉛筆のような魚・アリゲーターガーのエリックらもテムズ川から出て二人に一礼する。



 「子どもがいても、交際相手と同居する親が多い!」大声で言うエリックに、「逮捕されても『やっていません』って答えるし」とアローンが愚痴をこぼす。

 「2週間、無言の子もいたわね。猛雄や睦月さんには愛読書について話してる」ヘレナが階段に座って本を読む男の子を見ながら、小声で言った。

 





 


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る