第32話 一年後
「ウギャ、ウギャギャ!」
灰色の肌を持つ低身長のゴブリンたちは大群で朽ち果てた森を爆走していた。その中でもひときわ大きなガタイを持つゴブリンが先頭を切っている。
「逃がしませんよー!
少女は弓矢を背負い、金色の髪を
「ウギャア!」
ゴブリンたちはたまらず進路を変える。それを何度か繰り返し、ゴブリン達は崖下まで追い込まれた。
「よし。ルーナよくやった」
少女の後ろから、黒髪でスカイブルーの瞳を持つ少年が颯爽と現れる。
少年が手の平を上に掲げると、そこから大きな火球が出現した。
「燃えろ……」
少年の声と共に、逃げ場を失ったゴブリン達に、火球が降り注ぐ。
「ギヤ―! ゲゴ!」
火球はゴブリン達に着弾し、大きな炎に包まれながら、気持ち悪いゴブリンの断末魔が響き渡る。
しかし、うち漏らした者たちも何体かいた。ガタイのいいゴブリンもその内の一体だ。
生き残ったゴブリン達は一斉に逃げ出す。
「マリア!」
「畏まりました!」
少年が号令を出すと、青い髪をセミロングにしている少女は、逃げ出すゴブリンの首を次々
――
「よーし。作戦は成功だ。 みんなお疲れ」
俺たちは今、冒険者ギルドで受注したクエストをこなしていた。
クエスト内容はミストゴブリンの群れの討伐。ただのゴブリンではない。“ミスト”ゴブリンだ。このゴブリンは瘴気を大量に吸って魔力が増大して出来たゴブリンの亜種だ。知能こそゴブリンと変わらないが、力は数段強い。
しかし、所詮はゴブリン。ちょっと炎魔法で脅かせば慌てふためき暴走する。そこを誘導し、一網打尽。我ながらいい作戦だった。
「素晴らしです! 坊ちゃま! このアバディンに来て一年足らず! そのお歳でミストゴブリンの群れを撃破してしまうとは! ミストゴブリンは単独だと精々Dランクの魔物程度ですが、群れとなるとその危険度は増しBランクに、ミストゴブリン・ロードが出現したとなると、Aランクに跳ね上がります。今の群れは、そこそこ大きいものだったので、放置していればロードが出現するのも時間の問題だったでしょう。その前に潰すことが出来た坊ちゃまの功績はそれほど大きいのです!」
そう、ここに来てもう一年になる。初めのうちはギュンターの指導の下、魔物と戦っていたが、今じゃ俺たち三人でBランク相当の依頼をこなすことが出来る。
ギュンターには国防という大事な任務があるし、フリーダもヘストロアで兵を集めるのに時間が掛ったが、今はこちらに向かっていると手紙が来た。
ちょうどいい時期だし、ギュンターなしで経験を積んでもいいだろう。いるとどうしても頼ってしまう。
奴隷エルフのルーナも初めは泣き喚いたり、俺への失礼な発言も多かったが、俺の(ほぼマリアの)説得もあり、今じゃかなり打ち解けている。
エルフは種族的に魔法と弓の扱いに長けている。
マリアは接近戦、俺は火力、そしてルーナは小回りが利く風魔法と弓があり、とてもバランスの良いチームだ。ギュンターがいなくても十分やっていけそうだ。
ちなみにエルフに姓付ける文化はないようで、ただのルーナだ。
「俺一人の力じゃないよ。ルーナが誘導し、俺が数を減らして、そしてマリアが仕上げをする。みんながいてこその力だ」
役割分担は重要だ。俺が一人で全部やると三倍疲れるし効率が悪くなる。協力してこその力だ。
「いいえ。全てフィンゼル様のお力です。このマリアもルーナもフィンゼル様の物なんですから」
「そうですよ、ご主人様。わたし達を思う存分使って下さい!」
俺がこう言えばこの反応が返ってくることは分かってはいたが、分からないのはマリアとルーナの関係だ。
今は仲睦まじく話しているが、初めはそうではなかった。特にマリアがルーナの事を毛嫌いしていたが、ある日を境にマリアとルーナが急に仲良くなった。ルーナと相部屋がいいと言い出した時は驚いたが、それと同時に俺への失礼な発言がなくなったことから、マリアが何かをしたと思うのだが……分からない……。
「では、魔石を回収し戻るとしましょう」
「ああ」
魔石は魔物の体内からとれるもので、魔制石やいろいろな用途に使える為、貴重な物だ。アバディンの最大輸出品でもある。
俺たちは大量に散らばっている魔石を回収し、瘴気の外に待機させていた馬に乗って、アバディンに帰った。
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