第27話 冒険者ギルド
「しかし、あの老人は何者なんだ?」
「老師は私の師匠です。そしてエル・ティソーナ流で3人しかいない師範代の一人です」
師範代……。察するにS級の上のランクか。
ギュンターはエル・ティソーナ流の支部である大きな屋敷を見ながら答える。
その屋敷からは『エル・ティソーナ流槍術。疾風突き!』や『エル・ティソーナ流双剣術。乱舞』 などと言った掛け声と一緒にドゴン!ドゴン!と鈍い音が響き渡っている。
なんだ……ドゴンって。普通金属が打ち合う音はキンキンとかそういった甲高い音のはずだろ?
「坊ちゃま。どうでしょう? 少し中を見学して行きますか?」
なんか俺に進めているというより、自分が見に行きたいといった感じだな。
「いや、今日はいいや。それよりもっと街を見て回ろう」
正直今は観光気分だ。中に入って稽古をつけてやる流れになるのは避けたい。
「そうですよ、お義父様。 まだ回るところがあるのでしょう?」
いままで場の空気を読んで静かだったマリアが援護射撃をしてくれる。さすがはできる女だ。
「そうですな。では行きましょうか」
ギュンターはちょっとしょんぼりした感じで歩き出した。
「なぁ、次はどこに連れてってくれるんだ?」
「次は、冒険者ギルドに行ってみましょう。この町と、魔物退治の専門である冒険者は切っても切れぬ存在。行ってみて損はないでしょう。もしよろしければ冒険者登録をするのもよろしいかと」
冒険者も剣の流派と同じでG~S級のライセンス制だったな。
「やっぱり、冒険者でしかもらえない情報とかもあたりするのか」
「情報……といいますと?」
「例えば天剣がどこにあるとかさ」
「天剣ですか、確かにあるかもしれませんが、一体なぜですか?」
どこか不安そうに聞いてくるギュンター。男がそんな顔をしても情けないだけだぞ。
「いや、前見せてもらっただろう?光剣ライトセイバー。他の天剣もどんなもんか見たくてさ」
「おお!そうでしたか!剣に興味を持つことは素晴らしことです。私はてっきりライトセイバーに不満があるから他の物がいいということだと思ってしまいました」
そんな訳がない。あんな綺麗な剣を手放したりはしない。
「でもフィンゼル様、剣を何本も手に入れてどうするんですか?」
マリアがきょとんとした顔で尋ねてくる。
「さぁ? そんなことは手に入れてから考えればいいだろ?」
なんせ世界に28本しかない天剣だ、使い道などいくらでもある。気に入らなければ売ってもいいしな。
「さぁ。着きましたぞ。冒険者ギルドアバディン支部です」
平凡な酒場のようなところで立ち止まる。
先ほどのエル・ティソーナの屋敷みたいな大きさもない。
「なんていうか、普通の店だな」
「それはそうです。ギルドと言っても冒険者のたまり場ですから、自然と酒場と一体になってしまうのです」
何でもないようにヅカヅカ入って行くギュンター。
俺とマリアはその後ろを付いていく。
ギルドに入ると武装をした大勢の人たちが酒を飲んでいた。
本当に普通の店だな。てか、今は昼の3時だぞ。こんな時間から飲んでいるのか……。
「おい、爺さん。見慣れねー面じゃねぇか。おおっ! なんだ? 子連れか? しかも女の方は偉いべっぴんじゃねーか。その娘寄こすならここのルールを教えてやってもいいぜ?」
そう思っていると左目に眼帯をつけた酒に酔っている冒険者にギュンターが早くも絡まれる。
マリアに目を付けるとは……こいつは筋金入りのロリコンだな。
「ぎゃははは! また隻眼の狼が新人いびりしてるぜ。おい! ほどほどにしてやれよ!」
これまたテーブルで酒を飲んでいる冒険者が煽ってくる
眼帯男の後ろにいるのは仲間だろうか。にやにやしながらこちらを見ている。
なんだろう。冒険者ってろくなのがいないのか?
「ちょっとお酒が悪い方に回っているようですね。いいでしょう。その酔い覚ましてさしあげます」
ギュンターは手のひらの側面で、男の首を打った。
俺でないと見逃してしまうほどの恐ろしく速い手刀だった。
眼帯の男は声も発せず、膝から崩れ落ちる。
周りの冒険者は皆唖然としていた。
「さぁ、坊ちゃま、マリア。掃除は片付きました。冒険者登録をしましょう!」
ええ……。こんなの見せられた後で、冒険者になろうとは思わないな。
「フィンゼル様、行きましょう。天剣を探すのでしょう?」
「ああ、そうだな」
マリアは度胸があるのか何なのか、何もなかったかのように、俺の手を引いてギルドのカウンターまで駆け寄って行った。
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