第17話 剣術修行
月光歴500年俺は7歳になっていた。
父の帰る帰る詐欺はまだ続いている。もしかしてまだ侵略を諦めていないのだろうか?
もう致命的な打撃を与えられているのに引かないとは、なかなか頑固なお父さんらしい。
「坊ちゃま!集中してください!腰が引けていますぞ!」
「ぐっ!」
それはともかく、俺は今、修練上でギュンターの剣術の授業中だ。
前世ではサッカー部でエースを張っているだけあって、運動神経には自信があったが、今はその自信は砕け散っている。
俺は手合わせしている女の子、マリアに木剣の摸擬戦で連戦連敗していた。
まさか……。この俺がこんな女の子に……。いや、マリアが剣術に関して優れているのは知っていたし、別に前世で武術の心得があったとかそんなものはないが、いくらなんでも女の子に……。
マリアの木剣が振り上げられる。俺はそれをガードしようと木剣を構えるが、斬撃は縦からやってこず、横から迫ってくる。
フェイントか!
俺はとっさに避けようと後ろに引いたが、バランスを崩し転倒してしまった。その拍子に膝を擦りむいてしまう。
「いって!」
「フィンゼル様! 大丈夫ですか! 今癒して差し上げます」
すかさずマリアが駆け寄り回復魔法をかけてくれようと魔法陣を展開してくれる。光魔法をその身に宿すマリアは、治癒魔法をも扱えるのだ。
「出来ました!
5秒後、マリアが展開した黄色の魔法陣から、俺に治癒魔法をかけてくれる。黄色の魔法陣から放たれた光は、俺の擦りむいた膝に触れると、傷はみるみるふさがって行った。
「ありがとう。マリア」
「申し訳ございません、フィンゼル様。私がもう少し上手くできれば……」
マリアはこう語りかけてきた。聞きようによっては、上手く手加減できなくてごめんね! と煽っているようにも聞こえるが、マリアの顔は本当に申し訳なさそうに、悲痛な瞳でこちらの機嫌を窺っている。
「いいさ、マリア。人には向き不向きがある。剣の才能は俺にはなかったということだろう。こればかりはしょうがない。俺には魔法があるんだ。そっちを伸ばしていけばいいことだよ」
人間割り切ることも大切だ。そして、俺個人的にも都合がいい。剣で戦うということは、それだけ相手に近づかなければならない。相手に近づくということは、その分リスクがともなう行為だ。その点魔法なら相手の射程範囲外から一方的に攻撃することも出来るかもしれない。そういう意味で、俺的には剣術よりかは魔法を主体とする戦闘スタイルを組み上げたかった。
「いけません! いけませんぞ、坊ちゃま! そんな悲しいことは言わないで下さい! この私が責任を持って、剣術の達人にまで鍛えみせます! なので……なので、どうかそんな剣はいらないなどと……悲しいことはおっしゃらないで下さい……」
いや、要らないとまでは言ってないけど……。というか、大の大人がそんな泣きそうになりながらお願いするなよ。そんな本気で言われると逆に一歩引いちゃうな。なんでそんなに俺を剣士にしたいんだ。
「あー、もう……分かった、分かったよ。なんとか頑張ってみるからさ、涙を拭いてくれ」
そういって俺はハンカチをギュンターに手渡す。
「ありがとうございます坊ちゃま!」
「しかし、どうやったら剣が上達するのか? ギュンター教えてくれるか?」
「はい! 坊ちゃま! 私はデストレーザ流、そしてエル・ティソーナ流を両方ともS級まで納めています。おそらく坊ちゃま的には、攻めのデストレーザよりバランスの取れたエル・ティソーナの方がよろしいでしょう。そちらをメインに学んでいきましょう」
デストレーザとエル・ティソーナ。本で読んだな。ベンセレム王国で最も多くの人が使っている二大剣術だ。
デストレーザ流は、一撃必殺、先手必勝が信条の攻撃的な剣に対して、エル・ティソーナ流は、相手の動きに合わせて対応を変えることが出来る臨機応変の剣だ。もちろん自分から攻めて切り伏せたりする技もある為、非常にバランスの良い剣術だ。この二つなら、攻めることしか頭にない脳筋剣術よりも、絶対エル・ティソーナ流の方がいい。
ちなみにライセンス制度はG級からS級までの8階級に分かれている。
これは剣術の流派だけでなく、様々なライセンスに当てはまる。魔法工学ライセンスや、魔石加工ライセンス、そして冒険者ライセンス……。これらのライセンスはそれに対応するギルドが発行、管理しているとのことだ。
「フィンゼル様! 私もお付き合い致しますので頑張りましょう!」
マリアにまでこんなことを言われちゃあ頑張るしかないな。
「分かった。頑張るよ」
俺は観念したように、あくまで渋々ですよ。といった感じの態度で返事する。
「坊ちゃま。やはり気乗りはしませんかな?」
「いや、別にそうじゃないよ。だからそんな悲しげな目で見るのはやめてくれ。ギュンタ―」
「いえ、では坊ちゃまにやる気が出るかは分かりませんが、もしエル・ティソーナ流をC級相当まで習得したならば、僭越ながら私から贈り物を差し上げましょう」
「ほう、どういった物だ?」
「本当は、坊ちゃまがC級に上がった時サプライズで送りたかったのですが、今のままではいつになるのか分かりませんので、見てもらいましょうか」
そういってギュンターは腰に掛けてあった長さ1m20cmほどの剣を俺に渡してくる。
その剣は一見西洋のロングソードのような形だが鍔の部分に白い宝石が埋まってい
「抜いてもいい?」
「どうぞ」
俺は真剣を抜くのは初めてではない。何度かギュンターに持たせてもらったこともあるが、この剣は異様だった。
刃が鏡のようにすべてを反射しそうなほど綺麗で透き通っている。何より驚くほど軽く、7歳の俺の筋力でも軽々振れてしまいそうなほどだ。
「綺麗だ……」
いままで見たどの剣よりも、いや、比べるのも馬鹿馬鹿しいほどその剣は綺麗に輝いて見えた。
「お気に召しましたか? 坊ちゃま」
「ああ。ギュンターこの剣は?」
「はい。この剣は女神ディアナルナが伝説の7人の勇者の為に作ったと言われる28本の剣の内の一つ、勇者ロマハーグが所持していた天剣ナンバー21、光剣ライトセイバーです」
伝説の7勇者。昔魔王を退治したとかいう勇者たちか。
「こんな綺麗な剣があと27本もあるのか」
俺は剣を太陽にかざしその反射具合を眺める。
「作用でございます。7人の勇者が残した28本の剣を天下28剣。略して天剣と呼ばれており、世界中の剣士のみならず、様々な人々がこの剣を探して手に入れようとしています。特にナンバー1からナンバー7の剣に関しましては凄まじい力が宿っていると言われており、天剣の中でも別格の存在として知られています」
「天剣か。ギュンター本当にC級までいったらこの剣を貰っていいんだな?」
「もちろんでございます。このギュンターに二言はありません!」
「よし! その言葉を聞いて安心した」
ナンバー21か。この番号でこれだけの輝きを放っているんだ。ナンバー1から7はどれだけ凄まじいのか。
欲しい……。
俺は素直にそう思った。
前世では物欲とかはとくになく、何かコレクションしていたとかはないが、なぜがこの剣にとても惹かれた。
「フィンゼル様! 良かったですね! 私も一応、エル・ティソーナ流はE級のライセンスを持っていますので、何かとお力になれると思います!」
そういって天使な笑顔を向けるマリア。
「ありがとうマリア! 俺は絶対この剣を手に入れるぞ!」
俺は自分とマリアのその笑顔に硬く誓った。
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