隠し事は誤解を生む

 スマホを返してもらい、教室に戻った私は瑠奈と別れ、席に座り美菜璃からメッセージが来てなないかを確認するためにスマホを取り出した。


【私の家分かるの?】

【じゃあ、プリンが食べたい】


 美菜璃からのそんなメッセージが並んでいた。

 

【家は先生に聞いた。プリンだけでいい?】


 先生が教室に入ってきたので、私はそうメッセージを打つとスマホを仕舞った。





 

 授業が終わり、放課後になった私は先生に美菜璃の家の住所を教えてもらい、プリントを受け取った。

 スマホを確認すると【プリンだけでいい、ありがとう】と美菜璃から来ていたが、どういたしましてと返信するのはなんか恥ずかしかったので【ん】と返しておいた。


「れーな、一緒に帰ろ」


 もう学校とかお構い無しに、そう話しかけてくる瑠奈。

 なんて答えよう……正直に美菜璃のお見舞いに行くって伝えた方がいいのかもしれないけど、瑠奈は何故か美菜璃の事があんまり好きじゃないみたいだし、正直に言ったらどうなるか分からない。

 もしかしたら着いてくるかもしれない。私的には瑠奈といられるのはもちろん嬉しいけど、熱が出てる美菜璃この前みたいな空気感を味合わせる訳にはいかない。

 

「ごめん、今日は用事があるから」

「何するの?」

「……プライベートな事」


 流石の瑠奈もこう言えば、もう聞いてこないはず。


「プライベートな事って何するの?」


 ……まただ。また、私の基準で考えてたけど、瑠奈の基準だと普通に聞いてくるみたいだった。

 こうなってくるとなんて言ったら瑠奈が納得してくれるのか分からない。


「……恥ずかしいから言えない」


 試しにそう言ってみた。少なくとも私だったらそんなことを言われたらもう何も言えない。


「だから、何するの?」

「……恥ずかしいから言えないって」

「恥ずかしいことってなに?」

「別に恥ずかしいことをする訳じゃないから」


 瑠奈の言い方だと誤解を生みかねないので、そう訂正しておく。


「じゃあ、言えるよね?」


 瑠奈が私に詰め寄り、問い詰めてきた……ちょうどその時だった。担任の先生が私の方に来て、私に向かって言う。


「なんだ白輪地、まだ吉田の家に行ってなかったのか」


 そんな、余計な一言を。

 空気が凍った。瑠奈の視線が明らかに冷たい。

 先生はそんな空気に気がついていないのか、「早めに行ってこいよ〜」と言い、戻って行った。


「れーな? どういうこと? あの子の家で恥ずかしいことするってどういうこと!?」


 瑠奈が突然そう叫び出す。


「待って、落ち着いて? 瑠奈。後恥ずかしいことをする訳じゃないってさっき言ったから。だからその誤解を生みかねないことを大声で言わないで」

「……じゃあ、恥ずかしいから言えないってどういうこと?」


 瑠奈は目元に涙を浮かべ、私を問いただしてくる。

 取り敢えず私は瑠奈を人目のつかない場所に連れていく。瑠奈も黙って着いてきてくれたので助かった。

 そこで私は言う。


「咄嗟についた嘘だから」

「私に嘘つくってことはやっぱり何か後ろめたいことがあったんでしょ!」

「いや、ないから」

「嘘。なかったら嘘なんてつかない」


 確かに瑠奈からするとそうだよね。正直に言うしかないか。美菜璃と瑠奈は相性が悪いから言わない方がいいと思ったって。

 私がそう言おうとすると、瑠奈は何かに気がついたように言った。


「う、浮気……」

「……え」


 予想外の言葉に思わず固まってしまう。

 すると瑠奈はそれを図星と捉えたのか、瑠奈の目から涙がこぼれ落ちる。


「れーなが私のことを恋愛対象として見てないのは分かってる」


 ……今は誤解を解かないとダメなんだけど、一言だけ言わせて欲しい。分かってないからって。


「でも、今は私と付き合ってるんだから……浮気は許さない。だかられーな、私と死ぬ?」


 なにがだからなのかは分からない。だけど、私は瑠奈のことが好きだし、浮気なんてするわけがない。誤解をとかないと。


「浮気なんてしてないから」

「嘘」

「美菜璃、今日休んでたでしょ?」

「知らない」

「いや、弁当食べる前ぐらいに話したでしょ」


 瑠奈が本当に覚えてないのかは今はどうでもいいので、改めて美菜璃が休んでいたことを伝える。


「……それで?」

「だから先生にプリントを届けに家に行って欲しいって頼まれたの」

「……じゃあ、なんで私に嘘ついたの」

「瑠奈、美菜璃の事多分嫌いじゃん」


 瑠奈は何も答えない。もう、それ自体が答えみたいなものだ。だから私は続けて言う。


「だから、美菜璃の家に行くことは言わない方がいいと思ったんだよ」

「恥ずかしいことってのは?」

「それは咄嗟についた嘘ってさっき言ったでしょ。後恥ずかしいから言えないって言っただけで、恥ずかしい事とは言ってないから」


 そこまで言うと、瑠奈は納得したのかさっきまでの雰囲気は無くなっていた。


「じゃあ、浮気じゃないってこと?」

「そう。私は瑠奈一筋だから」

「……嘘」

「嘘じゃない」


 瑠奈が急に抱きついてきた。


「れーなが浮気したら一緒に死ぬから」


 行動は可愛いのに、言ってくることは全然可愛くない。

 まぁ、しないからいいんだけど。


「……私もれーなについて行っていい?」


 瑠奈が突然そう言ってくる。私が最初に予想した通りだ。


「だめ」

「なんで?」

「美菜璃は病人だから、この前みたいな感じで瑠奈が居て変な感じになったら休まらないでしょ」


 瑠奈も多少は自覚していたのか、私の家の鍵を貸すことを条件に渋々頷いてくれた。

 この時間帯はお母さんも居ないけど、瑠奈なら信用できるので問題はなかった。


「早く帰ってきてよ。れーなの家で待ってるから」

「分かった」

「浮気したらだめだから」

「分かってるから」


 私と瑠奈は学校を出るまでは一緒に行き、そこで別れた。

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