第六十話:聖徳寺学園入学試験!

 アニメの主人公こと、武井ぶい炎神えんじんと運命の出会いをしてから二ヶ月が経過した。

 三学期が始まったが、華やかな学校生活なんてもう残ってない。受験生の悲哀である。

 ちなみに炎神は中学卒業までは前の学校に通っているらしい。

 なので休日くらいしか会う機会はない……が、今のところゼラニウムのメンバーと会わせるタイミングもない。

 色々スケジュールが合わないのだ。

 ちなみに俺は喜ばしい事に、出会ったその日に炎神と一度ファイトした。

 結果に関しては……ノーコメント。

 感動のあまり記憶が飛んでいるとも言える。

 だってアニメの主人公と対戦ですよ! 感情ぐちゃぐちゃですよ!


 だけど同時に、アニメの物語がもうすぐ始まる事も察した。

 武井炎神の入学試験。それがアニメの第一話だから。


「あー、ドキドキする」


 ついにアニメの物語に関わってしまうのかと思うと、胸の高鳴りが抑えられない。

 ちなみに俺は現在赤土あかど町の駅に降りたところだ。

 外はすごく寒い。

 周りには俺と同年代の中学生が山ほど居る。


 本日は待ちに待った聖徳寺しょうとくじ学園の入学試験である!

 みんな緊張してますな〜。まぁ当然か。

 俺もそこそこ緊張はしているし、不安もある。

 主に一般科目でな!


「そういや、他のみんなは」


 同じ電車に乗っているはずの仲間を探す。

 とりあえずソラはすぐに見つかった。

 白い髪プルプル震わせている。


「ソラ、緊張しすぎだろ」

「ひゃわぁぁぁ!? ツ、ツルギくん!?」

「プルプルしてたぞ。面白いくらい」

「だだだって、入試ですよ入試! あの聖徳寺学園の!」

「だからこそリラックスしようぜ。緊張は俺達ファイターの敵だ」


 とりあえずソラの背中ポンと叩く。

 ここまで頑張ってきたんだ、ドンと構えて欲しいものである。

 駅でそんなやり取りをしていると、速水はやみとアイもやって来た。


「おはよう。ツルギは相変わらずみたいね」

天川てんかわが緊張する場面は想像し難いな」

「失礼な。一般科目が不安なんだぞ」

「ツルギ。実技試験は?」

「余裕だろ」

「そういうところだぞ、天川」


 まぁ何にせよ、これで全員揃ったわけだ。

 一応俺は駅を見回して、炎神の姿を探す。

 まぁ居ないよな。だってアニメ第一話でギリギリについてたし。

 ひとまず俺達駅を出て、試験会場でもある聖徳寺学園に向かった。


 学校が駅から徒歩数分ってありがたいよね。

 到着したのは、高校とは思えないくらい広い面積を有している学校。

 校舎も広いが、ファイト用にちょっとしたドームまで併設されている。ここ本当に学校だよな?

 とりあえず係員に誘導されて筆記試験の会場に行く。

 受験番号の都合から、ここで俺だけ別の教室へ送られる。悲しい。


「ツルギくん、頑張ってください!」

「あぁ、ソラ達も頑張れよ」

「天川。筆記だ筆記を頑張れ!」

「ツルギは筆記さえクリアすれば何とかなるわ!」

「お前ら俺をなんだと思ってるんだ!」


 ひとまず教室の指定席に座って、試験官が来るのを待つ。

 あー、一般科目が面倒くさい。

 でも頑張って勉強したんだ、できだけの事はしよう。


 試験開始まであと五分。

 そのタイミングで、一人の少年が教室に入ってきた。


「ま、間に合ったー!」

「おっ、やっと来たか」


 アニメ通りの展開で、炎神が教室に入ってきた。

 うーん、感動。


「あっツルギじゃん! 同じ教室なんだな」

「そうだな。お互い頑張ろうぜ」


 そう言っていると、試験官が入ってきた。

 炎神も慌てて席に着く。


 さぁ、悪魔の筆記試験に挑もうではないか!





 で、午前の試験が終了。

 俺と炎神は燃え尽きていた。


「おい炎神……生きてるか?」

「なんでサモンの専門学校で数学の試験があるんだよ」

「同感だ。理数要らないだろ、絶対に」


 でも何故か要求されるんだよな。

 理不尽だ。


「だが炎神よ、午後は俺達お待ちかねの……」

「そうだ! 実技試験だ!」


 一気に元気満タンになった炎神。

 単純な主人公だ。

 まぁかく言う俺もテンションが戻りつつあるんだけどな。


「ツルギくん! お昼ご飯食べに行きませんか?」

「あぁソラ。そうか、もうそんな時間か」

「ツルギくん……なんだか真っ白になってませんか?」

「筆記試験は魔物だ。なぁ炎神」

「あぁ、筆記試験は俺達の敵だ」

「あれ? ツルギくんお友達ですか?」


 そういえばまだソラ達には紹介してなかったな。


「最近お隣に引っ越してきた奴だ」

「武井炎神だ! よろしくな!」

「はい、よろしくです」

「なぁ、この子ってツルギの彼女か?」

「か、彼女!?」


 ソラの顔が真っ赤に染まっている。

 だが誤解解かねばならない。


「違うぞ。友達以上のチームメイトだ」

「ぐふっ!」

「おー、そうなのか。よく見ればテレビで見たことある顔だな!」

「そういう事だ。とりあえず飯食いに行こうぜ……って、どうしたんだソラ?」

「いえ……なんでも無いです」


 なんだかショックを受けた顔をしているが、筆記悪かったのか? まさかな。


 とりあえず俺と炎神は、ソラ一緒に食堂へ向かった。

 既に速水とアイが席を確保してくれている。

 俺は二人にも炎神を紹介した。


「へぇ〜、あのJMSカップで優勝したチームなのか!」

「私は新参だけどね」

「でも準優勝だったんだろ! スゲー!」

「そういえば天川。武井とはもうファイトしたのか?」

「勿論。滅茶苦茶強かったぞ」


 俺がそう言った瞬間、速水達の顔がスゴい事になった。


「天川が、認めた強さだと」

「ちょっと、それ大丈夫なの?」

「ものすごい事やってきそうです」

「お前ら俺をなんだと思ってやがる」


 仮にも炎神は主人公だぞ! 主人公補正持ってるんだぞ!

 俺みたいな一般人には超えられない壁を持ってるっての。

 まぁファイトの結果に関しては覚えて無いんだけどな。

 あとで召喚器の履歴を確認しよう。


「ハハハ! やっぱりツルギってスゲーファイターなんだな」

「そうか? 俺には炎神の方がスゴく見えるけどな」

「でもツルギ強いじゃんか! 俺も聖徳寺学園に入学して、もっと強い奴らと戦いてー!」


 まだ見ぬ強者に思いを馳せて、テンションを上げる炎神。

 大丈夫だろ。君は絶対入学できるから。

 それより今は食堂の飯を堪能しよう。

 これが本当のアニメ飯ですよ! なんだか特別な美味さ感じる。


 そんなこんなで、昼飯を食べて一休みしたら……ついに俺達のメインイベントがやってくる。

 会場が敷地内にあるドームへ移動。

 そこで行われるのは、お待ちかねの実技試験だ。

 ちなみに試験官が使うデッキは数種類の中からランダムに選ばれるらしい。故に単純な対策は不可能。

 さぁ俺はどんなデッキとぶつかるのかな?


 自分の受験番号が呼ばれるまでは、観客席で他の受験生のファイト眺める。

 うーん、やっぱりこの世界のファイターはピンキリだな。

 強い奴は強いけど、そうでない奴は単純なプレイミス目立つ。

 やっぱり勉強会って大事だな。うん。


『続きまして。受験番号500番から510番の方は、ファイトステージにお越しください』


 アナウンスが流れる。

 俺の受験番号は510番。出番が来た。


「おっ、俺の出番だ!」

「炎神もか。頑張れよ」

「おう! ツルギもな!」


 ハイタッチを交わす俺達。

 さぁ、俺も頑張らないとな。

 観客席を立って、ステージに移動しようとすると、後ろから手を掴まれた。


「ん、ソラ?」

「あ、あの……頑張ってください!」

「もちろん。ソラも頑張れよ」

「はい! 絶対に一緒の学校に行きます」

「天川、健闘を祈る」

「頑張って、ツルギ」

「速水、アイ……あぁ!」


 こりゃますます負けられなくなったな。

 俺は覚悟を決めてファイトステージに移動した。


 前の組が全員終わり、係員に試験官の元へと案内される。

 俺の相手サングラスかけた、ガタイのいい男性試験官だ。


「受験番号510番、天川ツルギ君だね」

「はい!」

「JMSカップでは大活躍したそうじゃないか。その実力を、思う存分に発揮してくれたまえ」

「わかりました!」


 余計なやり取りはもう不要。

 ここから先はファイトで語らう!


「「ターゲットロック!」」


 俺と試験官は召喚器を取り出し、無線接続させる。

 初期手札5枚引いて、準備完了だ。


「では始めよう」

「はい! お願いします!」

「「サモンファイト! レディー、ゴー!」」


 そして、俺の入試ファイトが始まった。

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