第14話 ジェイ&トーカを改善せよ!


「申し訳ないが先ほど伝えた予定はキャンセルだ。今回はEランク冒険者ジェイとトーカのパーティーへ助っ人に入るとする」


「確認します」


 リゼさんは妙に事務的に俺から申請証を受けとった。

急にキャンセルしたのがいけなかったのか……。

ここは謝っておくべきか。


「済まない。余計な業務を増やしてしまって……」


「余計? なんのことですか?」


「急に助っ人をキャセルしたことについて……クレームの発生など……」


「ああ、それなら全然問題ありませんよ。心変わりもあろうと思って、まだ先方へは伝えていませんでしたしね」


 ならなんでリゼさんはいつもより、不機嫌そうなのだろうか。


「書類自体に問題はありません。でも一つ質問が」


「なにか?」


「どうしてティナさんが一緒にいるんですか?」


 リゼさんが睨みを効かせた先、そこにはニンマリ笑みを浮かべるティナの姿が。


「なんでって、あたしも参加するんですけど? 臨時参加契約も交わしてますし?」


「Aランクの貴方が? 低級クエストの地下水道探索にわざわざ?」


 ティナほどのランクになれば、地下水道探索などとっくに卒業している。

今更地下へ潜ったところで、たいした稼ぎにはならない。


「可愛い後輩が困ってるんだから、手伝ってあげようと思って! ねぇ、お兄さん!」


「ノルンさんはどうお考えなんですか? 明らかに過剰戦力だと思いますけど?」


 リゼさんの問いは最もだ。

 彼女はここでの受付と共に、冒険者の采配の役も担っている。

Eランク冒険者対象のクエストに助っ人冒険者である俺と、Aランクのティナが加わるのは確かに過剰戦力で、公平性にかけていると思われる。 

 とはいえ……


「確かに過剰戦力なのは認める。采配係として疑問を呈したい気持ちも、実によくわかる。しかし今回はティナの気持ちを汲んでやってくはくれないだろうか? 彼女はジェイとトーカの将来を考えて、今回の役を買って出てくれたわけだ」


「お兄さん良いこと言う! さっすがー!」


「ジェイは戦士、トーカは魔法使いだ。今回の同行は、この2人に我々の戦う様子を実際に目にしてもらい、今後の参考としてもらうのを意図としている。多少俺は魔法が使えるものの、ジェイの参考にはなっても、トーカの参考にはなりずらいと思ってな」


「そうそうお兄さんのいう通り! ジェイ君はお兄さんが、トーカちゃんはあたしが面倒をみるってことで! ねぇーお兄さん!」


「ジェイさんとトーカさんも、当然了承済みなんですよね?」


 リゼさんは俺たちの後ろでガチガチに緊張している2人へ問いかけた。


「も、もちろんです!」


「こんなチャンスもうないかもしれないんです! 了承、お願いします!」


 ジェイとトーカは最敬礼をしてみせた。

さすがのリゼさんも、これ以上は何もいうことができないらしい。


「はいはい、わかりましたわかりました。安全に気をつけて、仲良くどうぞいってらっしゃい!」


 リゼさんは承認のハンコをついてくれたが……采配係として、やはり思うところはあるのだろう。

 

「すまないな、無理を言って。しかし承認ありがとう」


 リゼさんへ謝罪と感謝を述べておいた。

すると彼女はプイッとそっぽを向いて、


「今回は成功してもないですからね」


「?」


「と、特別成功報酬……この布陣で上手く行くのは当然ですから」


「たしかにそうだ。なら、今回は無理を通してくれたリゼさんへ俺から特別報酬を与えるとしよう」


「はぇっ!? わ、私にくれるんですか!?」


「ああ。何が良いか考えておいてくれ」


「……なら、相応の覚悟はしておいてくださいね? それじゃあ、気をつけていってらっしゃい!」


 どうやら機嫌を直してくれたらしい。

 相応の覚悟か。

 このクエストが終わったら、レアアイテムを1、2品質屋に出した方が良いかもしれないな。


●●●


 ヨトンヘイムは元々水が豊富な土地だ。

そして日々、流入する人の数も多く、自然と下水が発達し、この土地の地下はまるで迷宮さながらの様相を呈している。

しかし下水は人々の生活の、負の部分を請け負う部分であるからして……


「相変わらずここくっさいなぁ……」


 ティナは既にゲンナリした様子だった。


「すみません。ティナさんのような凄い方をこんなところへ来させてしまって……」


「ああ! 良いの良いの! 気にしないで。色々とお互いに頑張ろうね! あんまり邪魔しないようにするからさ……」


 ティナがそう言うと、トーカは顔を少し赤らめながら「は、はいっ!」と答えた。

なるほど、やはりトーカは、ジェイのことを幼馴染としてではなく、一人の男として大好きだと……うむ、ますます盛り上がってきたぞ!


「ティナ、俺たちもジェイとトーカのラブラブ成就の任もしっかりとこなすこととしよう」


「うえっ!? お、お兄さん、今なんて……?」


「ラブラブ成就といったが?」


「意っ外……お兄さんにそんな感覚あったんだ?」


「心外だな。俺とて木の股の間から生まれたわけではない。トーカの表情を見れば一目瞭然だ。そしてジェイも気づいてはいるが思春期真っ盛りなので、恥ずかしくて反応できないこともな」


「そっか……お兄さん、ちゃんと分かるんだ……ふふっ!」


 ティナも楽しそうに笑っている。

うむ、よく分かるぞ。誰かの恋路の橋渡しとなれる幸福は!


「エ、接敵エンカウントぉー!」


 と、仄暗い地下水道の闇を先行するジェイから号令が発せられた。

闇の向こうからキチチという鳴き声と、カササという不愉快な足音。


 闇の名から出て来たのは、1匹あたり丸盾ほどの大きさのあるブラックコックローチーーようは、巨大なゴキブリの群れだ。


 冒険者たるもの、この程度の魔物に怯えてはならぬ。

ジェイとトーカはその辺りは分かっているらしく、ブラックコックローチの群れへ毅然と向かっていた。


「ひ、ひぃーっ! あいつだけはいやぁー!!」


 しかしティナはぎゃあぎゃあ叫びながら、俺の肩へしがみついている始末。

まぁ、仕方がない……人に苦手なものの一つや二つはあるだろう。


「ジェイ、トーカ! まずは2人でいつも通り戦ってみろ! 君たち2人の実力を確認したい! もしも何かあったら俺とティナが助けるので、全力で挑め!」


「「りょ、了解っ!」」


 かくしてジェイとトーカは巨大ゴキブリの群れへ突っ込んでいった。

俺の肩へくっついて、ガタガタ震えているティナへも「まずい時は飛び出してくれ」と伝えておいた。


 さてジェイとトーカがどんなものか、よく観察してみるとしよう。


「と、とりゃぁぁぁーー!! うわっとと……!」


 ふむ、ジェイの得物はロングソードか。

筋は悪くないが……剣を振っていると言うよりは、剣に振り回されてる感じか。


「ジェイ君! 今、支援するから!……バトルアップっ!」


 トーカは自分を魔法障壁で守りつつ、ジェイをバフ魔法で支援していた。

どうやら振り回されているジェイの姿勢を魔法で制御してるようだ。


「ティナ、君はどうみる?」


「うーんと、勿体無いなぁって。バフがただのフォローになってる。トーカちゃん、良い雰囲気の魔力持ってるけど生かしきれてないなぁって……ひぃっ! お兄さん、ちゃんと壁になってぇー!」


相変わらずブラックコックローチが視線をよぎると、悲鳴を上げる可愛いティナなのだった。


(ジェイの戦闘センスは悪くはない。ならば……)


「この際だからはっきり言おう。今の君にロングソードは身に余る武器だと思う」


ブラックコックローチとの戦闘終了後にそう伝えると、ジェイは苦笑いを浮かべた。


「でも、これしか武器はないだよ……新しく買う金も無いし……」


「だからこれを君へ支給しよう」


「マジで!? 良いの!?  装備くれんの!?」


●●●


ーーそうして迎えた新たな戦闘。

敵はブラックコックローチよりも手強いジャイアントヒルの群れだ。


「さぁ、行くんだジェイ!」


「こ、こんなちっちゃいので大丈夫なのかなぁ……?」


ジェイは新しい武器を渡され、不安を覚えているらしい。


「俺を信じろ! 行け! ジェイ!」


「お、おう! ぬおおおおぉぉぉーー!!」


 新たな武器を手にしたジェイは、ジャイアントヒルの群れへ突っ込んだ。


「トーカちゃん、教えた通りにね!」


「わ、わかりました! 頑張りますっ!」


 トーカもティナの後押しを受け、ジェイへ続く。


 

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