第2夜「プライド人間を倒した話。」

梅雨が明けた。



ジメジメとし憂鬱な天気の毎日で自粛生活で伸びきった鬱陶しい髪の毛をがっつり切ってやると意気込んでいた。


梅雨が明けた。


髪の毛はまだ切っていない。


限界フリーターであり自称ミュージャンの俺にはこのうっとおしさを一緒に吹っ飛ばしてくれる彼女が…いるわけない。


相変わらず寂しい夜を過ごしているんだがお友達はもっぱらyoutubeだ。ミュージックビデオを何となく漁ってると某HIPHOPグループの新曲があった。


なんかこの気だるい暑さにマッチする切ないbeatに胸を打たれた。


サンプリングって奴だ。かっこいい、THE HIPHOPって感じ。


だけど俺は今までほとんどの曲は自分で弾いて作ってきた。


サンプリングに苦手意識もあった。


ネタを探すのもめんどくさいしBPMがわからない曲もあるし


俺の中の費用対効果を得られない気がしていた。


何より昔、サンプリングをめっちゃ勧められたり何より弾きと比べられたりしてやらねえ!って思ってたり。苦手意識と嫌な思い出があった。


慣れないサンプリングで恥をかくのが嫌で置きに行ってた。


「プライド人間」だ。


だけどプライド人間に勝負になる自分が居る。それが


「ミーハー人間」だ。


俺は昔からすぐかぶれる。めちゃくちゃ痛い人間である。


学生時代に見た某ヤンキー映画の敵キャラがお弁当を食べながら教室で待っているシーンがあるんだけどそこで食べていたのが塩おにぎり3つと小さいパックの豆乳だ。


かっこいい。。。!そう思ったが最後。


次の日から1か月間、俺はお昼に塩おにぎり3つと豆乳の「ゴールデンセット」を食べ続けた。


そう、、俺はバリバリに痛い人間なんだ。


その時も思ってしまった。声ネタの入ってるトラックってめちゃくちゃかっけえな!!!と


プライド人間にミーハー人間が勝利した瞬間にパソコンに向かっていた。


昔から好きだったラッパーの曲をサンプリングして曲を作ってみた。。


出来て朝方に一服しながらその曲を聴く(幸せな瞬間)


俺は呟いた。


「かっけえ・・。天才か」


ここで三人目「ナルシスト人間」が顔を出す。


そうもう気付いている人がいるかも知れないけど俺は


「プライド人間」「ミーハー人間」「ナルシスト人間」


が混在する三重苦みたいな奴なんだ。


けど日々とともに「プライド人間」ってどんどん弱くなる。人は恥をかく。失敗をする。それを知らない人間は恐れる。


俺は怖かったように思う。弾きオンリーじゃあ!って


言ってた「プライド人間」はもう居ないのだ。


乗り越えて今ここにサンプリングのトラックを完成させたのだ。


俺は勝った。。。!自分に勝ったのだ。。。!


そんな意気揚々な気持ちで友人たちに曲を送りつけた。


そうすると普段褒めないようなタイプのやつまで俺の成長の証を褒めてくれた。


サンプリング良いと思います!!と言ってくれた。


そうなんだよ。俺より死ぬほど売れてるトラックメーカーだってサンプリングしてる。


無いものねだりじゃなかったのだ。このカードはデッキに潜んでいたのだ。


音楽を初めて9年、まだカードを残しているとほくそ笑んだ。


お褒めの言葉を眺めながらまたタバコを吸い始めた。


うん、、さっきよりタバコが美味い。


自分に勝った。




次の日、俺は仕事を寝坊で遅刻した。


タバコを吸いすぎて喉が痛かった。


髪の毛はもちろんまだ切っていない。


「プライド人間を倒した。」、話。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る