閑話

3,ミルとクゥ、ギルドを知る


「ミルさんとクゥちゃん、冒険者登録の前に冒険者ギルドについて説明しましょう」

「うい?カードが出来たからこれでも冒険者に成れたんじゃないの」

 シータの言葉にクゥが疑問を尋ねる。

「冒険者としての資格は得られたわ。でもギルド協会への登録がまだなの」

「ギルド協会と冒険者ギルドは別なの?」

「ギルド協会というのはね、冒険者ギルドや商人ギルド等のギルドの共同体よ。で普通の冒険者や他のギルド所属者は所属ギルドを通してギルド協会の手続きをするの」

「つまり冒険者ギルドの利用方法がギルド協会の利用方法を知る手続きになるってこと?」

「クゥちゃん賢いわね~。そうよ。でも前に居た所ではそれも分からないバカがたくさんいたのよね」

 シータは頬に手を当てため息をつく。

「というわけで冒険者ギルドのレクチャーを始めましょう」

「それじゃあ俺はその間下に行って、料理長に晩飯のオーダーして爺さんたちと話して来るよ」

 そう言って案内をシータに引き継いでダンテは1階に降りていった。

「今日は3人でギルド飯ですか?絶品ですよ」

「わーい楽しみ」

「うッ、ボクそんなにお金が―――」

「大丈夫だよ、ミルママ。パパが奢ってくれるって」

「良いんでしょうか、甘えちゃって?」

「良いの良いの。ニパー」


「それではギルドの基本、総合受け付カウンターから説明しましょう。ここは他の街に来たり、出ていくときに手続きを行ってもらいます」

 シータの説明に2人は黙って聞く。

「理由はその町に居る戦力を把握しておきたいからですね。他にもここではランクアップの申し込みもできます。ギルドの誰かにアポを取る時もここを使います。その他質問ごとも総合受け付によろしく」


「続いて依頼カウンターです。ここでは冒険者以外からの依頼を受け付けています。冒険者の方も依頼があればこちらでお願いします」

「依頼って誰でもできるの?」

「犯罪に関わること以外なら。しかし、依頼内容には審査がありランク付けがされます。そのランクに見合った報酬を前払いする必要があります」

「てことは、依頼者は限られるのですか?」

「そうでもありません。個人で貧困者等はギルドから援助が出ることもありますし、他のギルドからの依頼等は持ちつ持たれつですからボッタクリはありません」

「そうですか。迷える子羊が居なくて良かったです」


「続いてこちらが依頼クエスト掲示板です」

 シータは依頼カウンターから離れた場所にある大きな掲示板に案内してきた。

「こちら受付られた依頼の求人票が張り出されています」

 木の骨組みとコルクボードの掲示板には。

「全然依頼がないね」

 とクゥがあきれるほど求人票が無かった。しかも――――

「どれも古ぼけてます」

 とミルが言うように、求人票はどれも古ぼけていました。

 そのことについてシータさんは。

「ダビがダンジョン化したことでこの町は他の街との交易が遠ざかって冒険者の数も住人も激減してしまいまして、依頼は更新されることなく継続クエストだけが残ったのです。その残りクエストも「鉱壁の担い手」の皆さんがこなしてくれるので問題がない状態で」

「これってダビを攻略しないと改善しなさそうだね」


「で、こちらがクエストの報告カウンターに成ります」

 シータさんはフロアを移動していくつものカウンターが並んだ場所を紹介してくれた。

「ここに達成したクエストを報告することで報酬がもらえます。

で、となりのフロアが他ギルドとの通信受付に成ります」

 場所を移した3人はその通信受付にやってきた。

 そこは今までで一番豪華な受付となっていた。

「ここではこちらの通信装置を使い他の商人ギルドや錬金ギルドなどと情報共有ができます」

 そう言いながらシータさんが見せてくれた装置は大きな鉱石が付いた魔法装置に見えた。

「こちらで情報を司る神「ナコト」の権能を用いて情報の共有を行ったり、他の街のギルドと通信が行えます。これにより素材の買い取り査定の共有やお金を預けることができます」

「お金を預ける?」

 クゥが疑問を呈するとシータさんがそれに答えてくれた。

「はい。冒険中や他の街への移動中に大金を持ち歩いていてはジャマに成りますし危険です。そこでギルド協会にお金を預けてその情報を共有しておけばランクカードの提示で他の場所でもお金を引き出せるのよ」

「おおう便利」

「まあ今のこの町の金庫に入ってる現金はそんなに多くないからダンテさんみたいな方だと全額下ろせないのよね。その為、ギルド協会発行の通貨とは別にその国や街々での通貨も存在するわ」

「それって――――」

「そこの詳しいことはダンテさんに教えてもらってください」

「はーい」


「ではこれで当ギルドの説明は終了となります。最後にギルド協会にお2人の情報を登録させてもらい、晴れてデビューとなります」


4,ローゴの町の料理長


 冒険者の登録を終えたクゥとミルは一階に降りてダンテを探した。

 そしたらすぐに見つかった。

 酒場のテーブルを1つ独占して酒を飲みながら「鉱壁の担い手」の5人と談笑していた。

「おう、2人共登録は済んだか?」

 階段から降りて来たクゥ達2人に気が付いたダンテがエールのジョッキ片手に手を振り聞いてくる。

「ダンテさん、やっぱりお酒飲んで」

「もう夕方だからいいだろ。あと今日はここで夕飯にする」

「……ボクお金持てませんよ」

 ジト目で抗議するミルの手をクゥが掴んで。

「大丈夫だよ。ミルママの分もパパが出してくれるよ」

「おうおう任せとけ。いくらケチな俺様だって嫁と娘の食い扶持分ぐらい奮発するさ」

「……お姫様のヒモのくせに?」

 ミルのジト目にダンテはバツが悪そうな顔をしながら酒を口に運ぶ。

「ありゃぁ俺の意思じゃないぞ。向こうが勝手に迫って来てんじゃないか。そんなことより2人共席に着け」

「はーーーい」

「分かりました」

 2人が席に着くと恰幅のいいウエイトレスのおばちゃんが注文を聞きに来た。

「2人共酒はいけるか」

 クゥは。

「飲んだこと無ーい」

 ミルは。

「礼拝でワインを飲むことはありますよ」

「なら2人共エール行ってみようか」

「ちょっと、クゥちゃんに飲ませる気ですか!」

「クゥはドラゴンだろ。ドラゴンと言えば酒好きで有名だし、子供って言ってもドラゴンなら法律にも引っかからない」

「詭弁ですね」

「まぁまぁ試しに1杯」

「ダメ親父だわ」


「「ごっごっごっご、—————ぷはぁぁぁぁぁぁ」」

 なんだかんだ言いながらミルはエールが来るとこれを豪快に飲み始めた。

 それを見たクゥがマネしてエールを飲む。

 そして綺麗に天井を向く二つのジョッキの底。

 そして弧を描きながら持ち上げられたジョッキはテーブルに振り下ろされた。

 ゴトン!

「おかわり‼」

「おかわり~~~♪」

 それを見ていたダンテはあきれながらつぶやく。

「性格変わるタイプか」

「悪いですか。こっちはいつも清貧に勤めてるんですよ。たまの奢りくらい羽目外していいでしょう」

「シュワシュワ美味しい~~~~」

「まぁいいけどな。ほら食いもんも食わなきゃすぐ酔いつぶれるぞ」

 そう言てダンテはお気に入りの赤旨牛のローストビーフの皿を差し出す。

 ミルとクゥは素直にフォークでお肉を刺して口へと運ぶ。

「モグモグ」

「ツーーーーーーン!」

「ふむ、美味しいですね。ですが繊細過ぎます。もっとがっつりしたモノは無いのですか?」

「酒が入って遠慮が無くなってきたな」

 ダンテがあきれながら追加注文しようとしたら。

「ならばちょうどよかった」

 ダンテの背後からバリトンボイスが響いた。


 ダンテが後ろを振り向くと白い服を着た大柄な男がいた。

「おっ、料理長」

 ダンテに料理長と呼ばれた男は冒険者と言われた方が似合う筋骨隆々の体格をしていて、長い黒髪を後ろでひと縛りにしてそり込み位の入った髭を生やした男だった。

「紹介するよ。この人がこの酒場の料理長「マサル サトウ」だ」

「よろしく」

 白い歯のキラリと光らせて笑う30過ぎくらいのツキノワグマみたいなナイスガイだった。

「それでこっちが娘のクゥと、婚約者のミルだ」

「こんにちわ~」

「は、初めまして」

 クゥはいつも通り朗らかに、ミルは初めての人に婚約者と紹介されたことに照れてか、はたまたお酒が回ったのか顔を耳まで真っ赤にして俯いている。

「おっ、なんだダンナついに身を固める気になったのか」

 料理長はいかつい顔をひょうきんに歪めながらダンテをダンナと呼んで笑いかける。

「まぁそんなところだよ」

 ダンテの方は片目をつむって軽い笑いを浮かべながら余裕を見せて見せる。

「奥さんどうぞ。ご注文のがっつりした料理だ」

 そう言って料理長は手に持っていた皿をダンテ達が座る丸テーブルに置いた。

 奥さん呼びされたミルは更に俯いて顔を赤くする。

 まぁ、もしかしたらがっつりした料理が欲しいと言うのを聞かれていたのに恥ずかしがっているのかもしれないのだが。


「おっ、なんだなんだ。料理長の新作料理か?」

 隣のテーブルについていた「鉱壁の担い手」のグランガが興味を示して食いついて来た。

「ああ、旦那に頼んで探していた素材が手に入ったんでな、それで目的の料理を作って来た」

「おいおい、そいつはオレ等の分もあるんだろうな」

「もちろんだ」

 そう料理長が言ってる傍でウエイトレスのおばちゃんが料理の乗った皿を持ってくる。

 そして皆の前で蓋が取り外された。

 ムワァ!と熱々なのを示すようにたくさんの湯気が立ち込める。

 湯気の中から出てきたのは黄金色に輝くゴロッっとした固まりが山盛りになっていた。

「これは……何かの石?」

「ハハハ違う違う、これは俺の故郷の料理をこちらの世界の素材で作った「アジール風から揚げ」だ」

「こちらの世界?」

 ミルが料理長の言葉に首をかしげると。

「この料理長、実は「チキュウ」とか言う異世界から来た異世界人らしい」

 と、ダンテが説明した。

「異世界人。噂には聞いたことありますけど直接会うのは初めてです」

 とミルが驚いている。

「ハハハ、オレ自身こちらに来て15年は経つけど他に異世界人と会ったことは無いな。そんなことより先ずは料理を食ってくれ」

 料理長は顎を掻きながら人懐こい笑みを浮かべながら料理を薦めてくる。

「それじゃあいただきま~す。と」

 まずはダンテがフォークで刺してかぶりついた。

 カプ。モグモグ。

「ゴクッ。どうだいダンナ」

 グランガがつばを飲み込み皆が見守る中、「カラアゲ」を咀嚼するダンテに訊ねる。

「モグモグ、ゴックン。————うん、旨い」

 ダンテのそのセリフを聞いて他の皆もフォークで「カラアゲ」の山に挑む。

「こいつはうめぇ。サクッとしていながら中はジューシー、噛みしめるたび肉汁があふれてきやがる」

「なんだコレ。めっちゃ熱々でエールとすっげー合う」

 食べた皆が口をそろえてこう評価をする。

「なあ料理長、これって俺が採って来たどの素材が使われてるんだ」

 ダンテが「カラアゲ」で口元をてかてかにさせながら訪ねる。

「ラーダの実だよ。あれの種を絞って油を抽出したんだ」

「油を?油って牛や豚の肉に付いてる白い部分のことだろ」

「そうだ。だが油は植物からも採れるんだ」

「その油で焼いたのか?」

「違うな。揚げたんだ」

「アゲル?」

「この世界に無い調理法だよ。鍋いっぱいに油を注いで火にかけて高温にする。そこに具材を入れて加熱する調理法だよ」

「なるほど、そのアゲルって方法でこの食感を出してるのか。これ流行るぜ。ラーダの実の栽培を始めりゃ大儲けできるだろうな。ちょうど商人たちも来てることだし国中に宣伝してもらうか」

「おっ、珍しいな。ダンナが金儲けの話をするとは」

「実は近々ダビを攻略して領主にならなきゃなくなっちまってな。まぁ復興資金を稼ぐ段取りを考えてんだ」

「なに!ダビの攻略だって。そうか。実はオレの恩人がダビに居て犠牲に成っちまったんだ。仇とってくれ」

「そうか任しとけ」

「攻略出来たらうんと腕を振るってご馳走してやる」

「そりゃ楽しみだ」

 そうダンテと料理長が話していると、新しいお客たちが酒場に入って来た。

「オレはそろそろ厨房に戻る。ダンナたちはじゃんじゃん食って英気を養ってくれよ」

「おう」

 そしてクゥもミルもその背中を見送ってから。


「「おかわり」」


 したのだった。

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